小麦粉をぶちまけたあたりで少しテンションが下がり始めていたのだが、如何せんイワンのテンションがひたすらに低いことが不満だった。 まあ、確かに朝の星占いでも6位というなんとも微妙な順位にいたし…って、それが関係あるかどうかは知らないけれど。 「ねーイワン、もうちょっと楽しそうに出来ない?」 「だって僕、クッキーはあまり…お煎餅とか、何か他にないかな?」 「お煎餅はさすがに無理」 「うーん…」 「…お煎餅の洋菓子バージョンだとでも思ってよ」 「それは無理があるんじゃ…」 「うるさいなー文句ばっか言うならやめればいいでしょ!」 「ご、ごめんって!」 やっぱりイワンとお家デートなんて無理があったのかもしれない。かと言えば行きたいところもないし、イワンも特にないだなんていうものだから。一応、私の指示通りに星型の抜き型でせっせと生地を抜いてくれるイワンは、嫌そうとまではいかないけれどそこまで楽しくはなさそう。 「じ、地味な作業でござる…」 「でもイワン上手だよ?やっぱり手先器用だね」 「本当に?」 「うんっ」 お世辞とかそんなつもりもなく何気なく褒めると、イワンは少し誇らしげに笑ってみせた。 こういうところがやっぱり可愛くて、下がっていたモチベーションも少しだけ上がってくる。 どうせなら白玉団子あたりにしておけばもっと喜んでくれたかな、いや、でもなあ…。なんて考えていると、イワンのPDAが鳴り響いた。こんなときにどうやら出動要請みたいだ。 「あ…ごめん、」 「何で謝るのよ」 「いや、だって」 「仕方ないじゃない。あなたはヒーローなのよ」 妙に突っぱねた発言をしてしまったことを、一瞬にして後悔した。けれど久しぶりに二人きりで会えたのにあまり盛り上がらないし(これは私に否があるのかもしれないけど)、まさかの呼び出し。朝の占いもあながち外れてはいない気がする。 「次、いつ会える?」 ガタガタとオーブンに天板を突っ込みながらそう問うと、イワンはぴたりと立ち止まって固まった。何を固まる必要があったのだろう。別にしばらく会えないからって不貞腐れるつもりもないし、今までそんな風に言ったこともない。ただ、いつも通りの疑問をぶつけただけなのに。 「イワン?どうしたの?」 「すぐ終わるから」 「ん?」 「待ってて!」 ピッピッ、オーブンのスイッチを入れる。 ブゥンという機械音だけが響く中、イワンは珍しく大きな声でそう言ったのだ。 「うん…?」 「そしたらそれ、一緒に食べよう」 クッキーはあまり…なんて言ったくせに。 きっとイワンなりに色々考えてくれて、考えてくれたんだろう。手先は器用な癖に口先は不器用なイワンが一生懸命そう言ってくれたんだから、嬉しくないはずがないじゃない。 「わかった。いってらっしゃい!」 「いってきます!」 鍵の開いてないドアを開こうとしたせいで思い切り扉に頭突きをかましたイワンの幸先は若干不安ではあるけれど、その後のことを考えるとオーブンの中のオレンジ色でさえ何だかワクワクしてしまうね。 星占いは今日もはずれ 20121021 ×
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