たまには一緒に風呂に入ろうぜなんていう彼の誘いに乗ってみれば、背中流してだの髪洗いっこしようだの、お風呂なのに何故か疲れが増す結果だった。
 バスタオルを肩にかけてソファーの上で一息。携帯片手に少しゆったりとした時間を過ごす。本当に少しだけ、だけど。


「おらっ、いつまでも髪濡れたままだと風邪引くぞ!」
「んー」
「なーにしてんだ?」
「ひみつー」
「何だよー。浮気かー?」



 不貞腐れたような態度をとりながら、ドライヤーの巻かれたコードをくるくると解くサッチ。
 少しだけ優位に立てた気がして、ちょっと笑みをこぼすと「なんだよっ」なんて言いながら額を小突かれる展開さえも幸せだと思ってしまう私は、まさに幸せボケだろう。


「こらこらお嬢さん?いつまで俺のこと放置するつもりですか?」
「サッチ髪乾かすんでしょ。それまで休憩ーっ」
「何だよそれ、俺が疲れるみたいじゃねぇかよ」
「だってそうだもん」
「何でだよ!チューすんぞ!」
「やーだー」


 振り切るようにソファーにうつ伏せになり、相変わらず私は携帯をいじり続ける。サッチとは一回りほど歳が離れているのだけど、こういう面を見るとあまり歳の差は感じない。というか、普段の生活で歳の差を感じる事は殆どない。


「こっち向けってー」
「嫌ですー」
「ったく、オラッ」
「…っ、うあ!」


 無理矢理肩を引かれて、そのまま流れるように仰向けにされる。私の上に悪戯に覆いかぶさるサッチは、ニッと口角を上げて私を見下ろす。まるで悪戯っ子のように。


「……なに」
「大人をナメちゃいけないよ?」
「はい?」


 反抗的な言葉を返す私の瞼に、まだ少し湿った唇が落ちてくる。じっとりと頬に当たる彼の濡れた髪はいやらしくもあって。少し遠慮がちにあわさる鼻先に、つま先がぞくりとする感じがした。
 何だか、さっきまでのサッチじゃないみたい。


「髪、乾かしなよ」
「もう1回シャワー浴びるし良いよ」
「は?ちょっ、」


 色っぽい吐息は焦らすように私の唇を掠め、再び額にキスをして私を抱きよせる。余裕ぶっていた…―いや、もうとっくに余裕などなくなっていた私はただ、彼の首に腕をまわしてポタリポタリと滴の垂れる首筋に顔をうずめた。



真夜中にミルク
ていうかこれ、風邪引かない?


title by.誰そ彼
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