桜花散るとも
「お〜綺麗に咲いてんじゃないの!」
「満開だな。」
「良い時に来れたわね紫ちゃん。」
「はいっ。」
よく晴れた午前。
春の陽気に誘われて、ルパン一味と紫は5人で花見に出かけていた。
「ここ!早めに場所取っといて良かった良かった♪」
あらかじめとっておいた場所を見つけると、ルパンは真っ先にそこへ駆けた。
河川敷までは少し距離を置くが、代わりに大きな桜の木が頭上で桜を揺らしており、なかなか花見には良い場所だった。
大きなシートを敷いて、ルパンたちは荷物を広げる。
いつもより早めに起床して不二子と紫は男三人のために豪勢な花見弁当を作ってきており、それを見た三人は驚愕して喜んでいた。
「ルパン、酒はどこだ?」
「ったく次元は花より酒なんだからよぉ〜。もう少しこの景色を味わおうぜ?」
まゆを顰めながらルパンは次元を睨む。
だが言葉とは裏腹に、その腕は弁当とは別のもう一つの包みに伸びた。
「この酒を飲みながらな♪」
そしてにっこりと微笑みながらルパンと次元はとっておきの洋酒の栓を抜いた。
「やっぱりそうなるんだから。」
呆れたようにため息をついて不二子は緑茶に手を伸ばす。
ふと隣に目を移すと、紫が礼儀正しく正座をしながら周りをキョロキョロと見渡していた。
「たくさん人がいるなぁ…。みんな楽しそう。」
独り言のように呟くと、不二子は微笑んで紫に緑茶を渡す。
「あたしたちも楽しみましょ♪」
緑茶を受け取ると、紫も満面の笑みを見せた。
「はいっ!」
しばらくすると、五右ェ門は桜に少し体を預けてもたれながら日本酒をすすっていた。
まだ白い桜がそよ風に吹かれてはゆっくりはらはらと、切なげに地に落ちていく。
散りゆく桜を見て、何とも言えない情緒的な感情に浸っていると、後ろからそれを斬新に壊す声が聞こえた。
「ごえもぉーん!一緒に飲まねえ?」
「お前さんもこっち来いよ。」
顔色はあまり変わっていなかったため、酔っているか否か分かり難かったが、二人の声の高さに五右ェ門は思わずため息をつく。
「拙者は良い…。」
するとルパンと次元は「あら?」と言わんばかりに目を丸くして口を尖らす。
「何だつれねぇのー。」
「五右ェ門は手酌が良いのさ。構わないでおこうぜ。」
「それもそうだな♪」
「……。」
何とでも言え、と内心思いながら五右ェ門はくるりと体の向きを戻して、もう一度日本酒に口をつけた。
「五右ェ門様。」
すると、すぐ後ろからまた声がした。
振り向くとそこには遠慮がちに座る紫の姿が。
「紫殿、」
いつからいたのか、少し驚きながら五右ェ門が紫を見ると、紫は可愛らしい笑顔を見せて両手を差し出した。
「あたしが注がせて頂きますっ。」
タイミングを見計らっていたのか、紫は嬉しそうに五右ェ門を見ている。
五右ェ門はそんな紫の気遣いに素直に喜び、日本酒の入った瓶を手渡した。
「それは嬉しい。では、」
瓶を受け取ると、紫は五右ェ門の猪口に些か白く濁った日本酒を注ぐ。
「綺麗ですね、お花見なんて何年ぶりだろ。」
五右ェ門の隣に腰掛けて、紫は空を見上げる。
ゆらゆらと揺らめきながら桜は紫を見下ろしていた。
「ルパンが言い出さなければ拙者も桜とは久しくなっていたでござる。」
猪口に口をつけ、冷たい日本酒を口内へ流すと、きつくない酒の香りが鼻孔を通り抜けた。
そして感心するように桜を見上げて目を細める。
「数多の国へ足を運んだが、やはり日本の桜が一番美しい。」
紫が五右ェ門を見上げると、五右ェ門は何処か幸せそうに見え、つられて紫も綻んだ。
その時、紫は今日の日付をもう一度思い出す。
以前からこの日を楽しみにしてはいたのだが、その理由は花見だけではなかった。
その理由を言いたくて、聞きたくて、紫は五右ェ門に少し近寄る。
「…五右ェ門様、今日は何の日か覚えてますか?」
「え?」
「ふふふ。」
やっぱり覚えてないかな。
それでも紫は何故か五右ェ門が可愛く思い、思わず笑みがこぼれる。
聞きたくもあったが、自分の口から教えたいという気持ちもあり、紫はゆっくり口を開いた。
「今日はね…、」
すると、五右ェ門はすっと右手を上げて紫の前に差し出す。
「し。」
人差し指を立てて五右ェ門は紫の口を閉じさせた。
ちらりと横目にルパンたちを見る。ルパンたちはまだ楽しそうに酒を飲んでいた。
そしてもう一度紫に向き直り、人差し指を離す。
一つの桜の花が落ちる時、五右ェ門は紫の顎に手を添え頬にキスを落とした。
「今日で一周年ですね。」
「……。」
ぱちくりと目を見開いて紫は五右ェ門を見上げる。
そしてみるみるうちに赤くなる紫の顔を見ながら、ゆっくり顎から手を離した。
「これからもよろしくお願いします。」
「は…はいっ、こちらこそ!」
やっと我を取り戻したように紫は口を開いた。
まだわたわたと慌てながら、紫は己の中に留まる動揺に揺さぶられながら紅潮していった。
「あら?五右ェ門どこ行った?」
少し酔いが醒めたルパンは改めて周りを見回す。
先程まで近くにいた五右ェ門の姿が無い。
「いねぇな、ちょっと探してく…。」
「あら次元どこ行くの?」
五右ェ門を探しに行くため次元が立ち上がろうとすると、不二子がそれを制した(ように見えた)。
「あ?五右ェ門がいねぇからよ、探してくるわ。」
「五右ェ門ならさっき遠くの桜を見てくるとか言ってたわよ。それより男だけじゃ寂しいでしょ?あたしが特別に注いであげる。」
さりげなく立ち上がろうとする次元を制しながら不二子は二人の間に座った。
「不二子ちゃんが?やったー♪」
「そうか、ならほっとくかね。」
ルパンは嬉しそうに酒を渡す。
次元も不二子の言葉を信じて座りなおした。
「(感謝してよね、五右ェ門。)」
「ん?何か言った?」
「何でもないわ。」
どうぞ、とワインの瓶を差し出すと、二人は喜んでグラスを出した。
少し離れた場所に影が二つ。
互いに寄り添うようにそれは一つに重なっていた。
日本酒に浮かぶ薄紅の花がくるくると回る。
小さな桜と淡い日光が、二人を春風に包んで優しい夢へといざなった。
また来年にもこの場で桜を見れるように願いを抱いて。
-fin-
○相互リンク記念小説です!
はんな様という素晴らしい方と
相互リンクさせて頂きましたので
お礼に…ってお礼になれていませんが(;_;)
「五右ェ門と紫ちゃんの記念日」という
リクエストを頂いたのですが
如何でしたでしょうか…?
五右ェ門が子どもっぽいような(汗)
っていうか酒多い!!すみません!!
この小説ははんな様のみ
お持ち帰り可です*
Thank you for reading!!
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