※学パロ

 灰色の空から滴る雨はしとしとと柳のように柔らかくコンクリートを濡らす。今朝見た天気予報では午後三時ごろから天気が崩れ始め、雨が降るでしょうと予想されていた。ちょうど授業が終わったころには外は雨一色だと踏んだわたしはきちんと傘を持参した。コンビニで買った傘はきっとパクられると思ったので、雑貨屋で買った可愛らしい傘を持ってきておいた。コンビニのものよりも値は張るし、目立つといえば目立つ。傘立てに置いといても盗まれることはないだろう。


 日直が号令をかけ、下校のチャイムも鳴り、放課後となった。部活をやっていないわたしはもう学校に用はないので、帰宅しようと昇降口まで歩いていった。廊下で尚香とすれ違い、軽く言葉を交わす。これから彼女は弓道部の部活らしい。尚香の弓の腕は県外にまで名を轟かせるほどすごいものだ。しかしその力量もこのように地道な努力があってからこそだと尚香は言う。だからこれからもっと高みを目指す彼女の邪魔はしちゃいけないとわたしは尚香と別れた。階段を下りて、昇降口につき、下駄箱からローファーを出して上履きと履き替える。傘立てに立てていた傘は盗まれず、きちんとそこにあった。傘を片手に取り、昇降口を出ようとした瞬間、背後から誰かに呼ばれた。振り向いてみるとそこには夏侯覇がいた。彼は走ってきたのか、いくらか前髪が乱れていた。


「どうしたの夏侯覇。今日部活じゃなか
ったけ?」
「今日はオフ。それより、いまから帰るんだろ。助かったー」



 夏侯覇はわたしと同様、靴を履き替え、当然のように隣に立った。夏侯覇の行動がよくわからなかったわたしは軽く眉間に皺を寄せて彼を見つめた。


「何で隣に立ってるの」
「外、雨降ってるだろ?傘入れてくれねえ?」
「傘持ってきてないの?」
「持ってきたけど取られた」
「しょうがないなあ……」


 わたしは夏侯覇と一緒に昇降口から出ると傘を開いた。ひょいっと隣にいる夏侯覇を入れてあげると、彼は嬉しそうに笑った。そのまま歩き出そうとしたけれど、ふと夏侯覇に傘の柄を握られた。わたしの小指と夏侯覇の人差し指が微かに触れあい、わたしは視線を斜め下にずらした。友達と割り切っていても多少は緊張してしまう部分もあった。夏侯覇は俺が持つよ、といった。夏侯覇のほうが背が高いので、傘を持つ係りは夏侯覇は妥当だろう。わたしははい、といって夏侯覇に傘の柄を渡した。夏侯覇はサンキュといって傘を持った。



 他愛もない話をしながら校門をくぐり、帰路を歩く。しとしとと雨はわたしの右肩と夏侯覇の左肩を濡らし、ワイシャツはじんわりと湿っていった。割と大きい傘だから二人ぴったりと寄り添えばここまで濡れない。けれど濡れたくないがためにぴったり寄り添う、というのも腑に落ちない。同姓の友達ならまだしも異性の友達とそこまでする勇気がないわたしはワイシャツが濡れるのを我慢して話続けた。しかし、ふとした瞬間、夏侯覇が言った。



「なまえ、肩かなり濡れてるぞ」
「えっ……ああ……ほんとだ」
「あんまり濡れると風邪引くぞ?もっとこっち寄れよ」
「大丈夫」
「何照れてるんだよ」



 夏侯覇はにかっと笑った。そして傘をわたしのよりに掲げ、これで濡れないなと言った。もちろん夏侯覇は濡れてしまう。それはいけないと察したわたしは手で傘を押し返すが、彼は譲らなかった。お互いに傘の押し付け合いをしていると、目の前にコンビニが見えてきた。コンビニにはビニール傘が売ってる。わたしはふざけている夏侯覇の名前を呼んだ。


「あそこにコンビニがあるから、夏侯覇、傘買ってきなよ。それが一番濡れないって」
「傘?あっああ……そうだな」


 夏侯覇は軽く眉を下げながらも微笑んだ。夏侯覇はコンビニの中へと入り、わたしはコンビニの軒の下で夏侯覇を待つことにした。数分後、夏侯覇が出てきたが、手には傘が握られておらず、代わりにスーパーの袋を持っていた。袋からうっすらと週刊誌の表紙が透けていた。悪い悪いと頭を掻きながら彼はわたしの元までやってきた。もちろん、わたしはジト目で彼のことを見る。


「傘買わなかったの?」
「気がついたらこれ買ってた」
「もー、しょうがないなー……」


 もう一度傘の中に夏侯覇を入れてあげると、彼はサンキュ、と顔を綻ばせた。もちろん傘を持つ係りは彼だ。さっきといつもどおり、二人で帰路を歩いていると、ふとなあ、と夏侯覇が今まで続いていた話を遮って声を上げた。わたしは無言で彼を見る。よくよく思えば、顔が近いな、と思った。夏侯覇はわたしのことをちらりと見返したけれど、すぐに視線をずらした。


「そういえば梅雨入りしたな」


 夏侯覇の声は少しだけ上ずっていた。思いがけない彼の態度にわたしの身は幾らか硬直した。彼の存在を知らないうちに意識してしまった。


「うん、そうだね」
「雨って普段は鬱陶しいけど、たまにいいときってあるよな」
「辺りが静かになって、過ごしやすいよね」
「確かに、なまえは晴れというよりも曇りとか雨ってかんじだな」
「なら、夏侯覇は晴れってかんじだね。明るいのが似合う」
「そうか?」
「そう」


 そこからまたくだらない雑談へと移っていった。そして分かれ道に差し掛かり、わたしも夏侯覇も家はもうすぐそこだった。夏侯覇は走っていけば大丈夫といって、わたしに傘を返した。じゃあな、というと前腕の部分を掲げ、雨を凌ぎながらわたしに背を向けて走っていった。しかし、途中でこちらに振り返り、叫んできた。


「傘なかったら、また入れてくれるか?!」
「しょうがないから入れてあげるよ!」


 わたしも叫んでそうかえすと、夏侯覇は軽く頬を紅潮させながら笑った。じゃあな、ありがとうともう一度叫び、彼は駆けていった。夏侯覇の後姿を見つめていたわたしの頬はいつのまにか緩んでいた。

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