あれからなまえの連絡先を見事にゲットしたオレはなまえと食事の約束を取りつけて、なんと実際食事することができた。もう嬉しくて嬉しくてなまえとのデート中オレはずっと浮かれてばっかだった。まるでふわふわの雲の上をスキップしているかのような心地だった。それからオレは毎日のようになまえのクラスへ行ったり、夜になったらなまえに電話をかけたりした。一秒でも多くなまえと一緒の時間を共有したくてたまらなかった。

授業の合間にある休み時間、オレは廊下にでてなまえに電話をかけていた。話は途切れることはない。なまえに話したいことがいっぱいあるから、オレが一方的に話しているかんじだけどなまえは話すよりも聞くほうが好きらしいからそれがいいらしい。しかも彼女はサッカーが好きだといった。だからイタリアのプロリーグの話とかですごく話は盛り上がった。今度サッカーの試合を一緒に見に行こうと約束もできた。ほんと、あの時ゴンドラから川に落ちてよかったと心から思う。今日は、昨日起きた出来事とか、ジャンルカやフィディオのこととかを話題に話をしていた。そしたらちょうどよくフィディオがオレのところへ走りよってきた。噂をすればなんとやらというか、計ったかのようなタイミングの良さだった。フィディオはマルコ、と嬉しそうに声を震わせていた。オレに用があるらしかったから、惜しみながらもなまえとの電話を一旦切ってフィディオと向き合った。


「どうしたんだ?」
「マルコ、聞いたか?!イタリアの代表選考メンバーにオレたちが選ばれたんだ!」
「なんだって!?」


 オレはフィディオ同様目を丸くした。オレの頬がみるみるうちに緩んでいく。念願のFFIイタリア選考メンバーに選ばれた喜びがだんだんと身に染みていった。そして有頂天になったときには思わずフィディオに抱きつきそうになりそうだった。オレはすぐさまなまえにこのことを知らせたくて彼女に電話をした。フィディオが微苦笑する。


「早速電話か?」
「当たり前!すぐに報告しなきゃな!」


 フィディオにウィンクを飛ばし、なまえが電話に出るのを待つ。コール音すら待ち遠しい。三回、コール音が鳴った後、なまえが電話にでた。


「なまえ!聞いてくれ!……イタリアの代表選考メンバーに選ばれたんだ!」


 オレは声を陽気に弾ませながらなまえに報告した。するとなまえは自分のことのように喜んでくれて、おめでとうと祝ってくれた。もう彼女のその一言だけでオレは陶酔感にひたった。幸せすぎる。オレの心の中にはその言葉が深く響いた。


 それから数日後、代表選考メンバーが一箇所に集まり、顔合わせをした。フィディオやジャンルカがくることは知っていた。他のやつらも何人かは顔が見たことあるやつだったからすぐに仲良くなれた。監督が紹介され、いよいよ練習に移ろうとしたときだった。監督からマネージャーが紹介された。みんな口々に女の子かとこぼし、顔をだらしなく緩める中、マネージャーが姿を現した。どんな子がくるのかオレもわくわくしていた。だけど実際その子の姿を見た瞬間、おおと歓喜にどよめくみんなを尻目にオレはえぇっと突拍子もなく大声を上げた。なんとマネージャーはなまえのことだった。昨日はあんなに電話をしたのに一言もオルフェウスのマネージャーをやるなんて零さなかった。オレはびっくりしすぎて始終ずっと口を開きっぱなしだった。なまえはそんなオレを見て、クスっと微笑んだ。

 どうやらなまえは監督の娘さんらしく、本人もとてもサッカーが好きなのでオルフェウスのマネージャーに立候補したようだ。オレは最初のうちはいまいち状況を読み込めず、目を丸くさせてなまえのことを何度も見た。だけどだんだんとオレの心の底からずんずんと喜びが湧きあがってくる。なまえがマネージャーをやってくれれば、オレはなまえとよりいっぱい一緒にいられる。それに近くになまえがいると、なんだか自然と体に力が湧いてくる。かっこ悪いところなんて絶対に見せられない。この機会に代表の座となまえの心を手に入れてやる。そうオレは意気込んで練習に集中した。

 監督の元に行われた厳しい練習も終わり、少し一服したころ、オレはベンチで真剣な様子でスコアブックを書いているなまえの隣にそっと静かに座った。スコアブックを真っ直ぐ見つめるそのひたむきな瞳に時折落ちてきた髪を耳にかける仕草はこのうえなくオレの心をくすぐる。目を細めてその姿を見つめてると、やっとオレの存在に気がついたのか、なまえがきょとんとした表情でオレのことを見つめて言った。


「どうしたの、マルコ」
「いや、相変わらず可愛いなと思って」
「お世辞なんていっても何もでてこないよ」
「そうだ、なまえ。このあとジェラード食べに行こうよ!近くの公園で売ってるんだ」
「スコアブックと後片付けが終わったらね」


 なまえは穏やかに微笑むと、再びスコアブックを見つめた。そうと決まれば話は早い。オレは一刻も早く彼女と一緒にジェラードを食べに行くため、後片付けを手伝おうと腰を上げた。その後、彼女がスコアブックを書き終わると同時に後片付けが終わった。なまえはたいそうびっくりしていて、半開きの口元に手を当て、目を丸くしてオレのことを見つめた。オレは驚く彼女の手を引いて、早く行こうと公園を目指した。



 公園についたのはいいけれど、先にオルフェウスのやつらが公園に集まっていて、ちょうど鉢合わせてしまった。なまえはマネージャーながらもオルフェウスの紅一点。可愛いし、人気なのも仕方がない。彼女の周りには彼女と仲良くなろうと考える代表メンバーのやつらがすぐに集まった。その姿はまるで砂糖に群がる蟻のようだった。なまえが少し戸惑いながらも柔らかく微笑んで受け答えしていた。みんなの輪から跳ね除けられるようにして外れたオレは遠目でなまえの姿を見つめた。

 今、なまえはラファエレと話している。ラファエレといえば中学生ながらにしてトップモデルの座についているすごいやつだ。顔ももちろん整ってるし、何よりスタイルだ。高身長で無駄な肉がない。かといってひょろひょろしてるわけじゃなく、ほどよく筋肉がつき、しなやかな肢体が抜群のプロポーションを生み出している。なまえとラファエレが隣に並ぶと、とてもしっくりした。まさに美男美女だ。オレなんかが隣にいるよりもずっと見栄えがいい。ラファエレのように身長が大きくないオレはなまえと同じぐらい。いや下手したらなまえよりも小さいかもしれない。5センチぐらいヒールのある靴なんて履かれたら終わりだ。楽しげに話すラファエレとなまえの姿を見ていたらだんだんとなまえが遠くに感じた。なまえはオレなんかよりもラファエレのほうがいいんじゃないかって思うようになり、しだいに悲しくなってきたオレはひっそりと公園を後にした。

 自分から誘っといて、勝手に帰るのは男として風上に置けない行為だとわかってる。だけど、あれ以上あそこにはいられなかった。言葉にできないショックがオレを打ちのめし、頭の中が真っ白だった。好きなのに、毎日話しているのに、どうしてこんなにも遠くに感じるんだろう。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -