あぁまた今日も私の気は重くなる。教室のドアの方に視線を向ければ私にハゲ同然に見える髪形をした不動明王の姿があった。鞄から出そうと手に取った教科書がずんと重さを増した気がした。私の気はそれ以上に重くなったような気がした。私にとって不動は天敵そのもの。ハブとマングース。水と油。他にも数えられないほどの例が上がってくる。あっちがすれ違い際にいきなり足を引っ掛けてくれば、私は脛を蹴り返す。ちびなため背を伸ばそうと頑張ってるのに、不動はそれを知っててわざと旋毛を押してくる。それに私は不動の髪を草をむしるかの勢いで引っ張る。やられればやり返す、終わりないイタチごっこを繰り返してだいぶ時は経った。もはや私と不動の間には因縁を超えた腐れ縁さえあるように見えた。生まれる前からこんな風な相容れない運命が神様によって決められているかさえ思った。とりあえず、私にとって不動は正直うっとうしい。会う度にいちいち何かしてきて、馬鹿にしてくるところがイライラする。友達に相談したら、もう無視したら?といわれたけど、無視するのはどうもいけすかない。一方的に言われて黙ってるなんてまるでこっちが負けを認めたようで、小さい頃から筋金入りの負けず嫌いの私にはそっちのほうが嫌でたまらなかった。しかも私はあの態度のでかさも不快だった。元々私は妥協しながらもちゃんと自分の意見を持つ大人のような人が好みなのだ。中々そういう人には廻り会えないけれど。手に持っていた教科書を机の上において、私は明らかにこちらを見て、ハゲみたいな頭をした一際目立った不動を死んだ魚のような瞳で見つめた。不動はニヤニヤとした嫌な笑みを浮かべてこっちに寄ってきた。


「お前一人ぼっちなのかよ」


さみしいやつだな、とケラケラ笑う不動。確かに私の周りには今誰もいないけど、友達がいないってわけではない。よく喋る友達はちょうど今別のクラスに何らかの用事でいってるか、休み時間ぶっつづけで寝ているか、どれかだった。私は下から不動を睨みつける。



「そういう不動こそ一人じゃん」
「俺は一匹狼なんだよ」
「よく言うね。ただ単に友達いないだけじゃないの?」
「俺は友達とかそういう類には縛られたくないからな」
「はは、友達出来ない言い訳?」
「んだとてめぇ」
「何よ」
「ふん、わざわざこの俺様が来てやったのに相変わらず態度はデカいなぁ。それなのに背はチビで可哀想ったらありゃしねぇな」
「うるさい」



私は椅子に座りながら私の机の横に立っている不動の臑を蹴りとばす。いってぇ!と声を上げて顔を歪める不動を見て、私はふんと顔を背けた。とそのとき、制服のポケットに入れていた携帯が震えた。あっバイブを解除するの忘れてた。私は不動の存在を頭の隅に追いやって、すぐさま携帯を取り出す。携帯を開くとメールが一件来ていた。すぐさま開くと、なんとそこには幼なじみの風丸からのメールだった。あまりの懐かしさに思わず、顔が綻んでしまった。携帯見ながらニヤニヤすんな、気持ちわりぃ、と毒づく不動をギロリと睨んでまた携帯の画面に集中する。どうやら久々に遊ばないか、という内容だった。勿論断る理由のない私はすぐさま遊ぼうと返事を返そうとした瞬間、不動に携帯を奪われた。ちょっと!と急いで取り返そうとしても、不動は携帯を持っている手を高く上げて、不敵に笑う。背の低い私は背伸びをして手を伸ばしても届くはずがなく、ただ伸ばしている手は宙をもがくだけだった。不動は携帯を奪い返そうともがく私を尻目に携帯の画面を見た。風丸からのメールがまだそこには残っていた。


「へぇお前にもお誘いのメールが来るんだな」
「返せよこのハゲ!」
「返して欲しけりゃ自力でなんとかしな」


そう言って私を見下し厭らしい笑みを浮かべる不動。私は頭に血がのぼって血管がプチリと切れそうになった。ふざけんなと声を荒げようとしたとき不動が眉間をしかめた。



「なんだコイツ、男か?」
「男だよ、だから早く携帯返せっつうの!」


そう私は怒鳴った。不動は男かよ、つまんねぇと不快そう顔を歪めると片手で私の携帯をポチポチと素早く指を動かしいじり始めた。やめてよ、と私が声を上げるよりも先に不動は携帯をいじり終えたらしく、ほらよと私の頭、旋毛をわざと狙って携帯を落としてきた。ゴツンと音を立てて携帯は私の旋毛とぶつかり、するりと落ちてきた。私は慌てて携帯を床に落ちる前に間一髪のところで受け止めた。携帯の無事に安堵し、そしてすぐに不動!と怒鳴った。しかし不動はいつの間にか私よりも数歩離れて背を向けていた。教室を出る直前に振り返って、俺もお前に構ってるほど暇じゃねぇんだよと悪態をついて、教室を出て行った。そんな不動に私はムシャクシャして、携帯を粉砕しそうなほど握りしめた。携帯を持つ手がふるふると震えた。ふと気づくと携帯も震えていた。へっ、と急いで携帯を開いてみると風丸からのメールだった。まさか不動は勝手に返信してたのか。そう思い、送信ボックスを見ようとしたが、とりあえず先に風丸からのメールを見ようとボタンを連打した。するとそこには大まかに言うとごめん、とおめでとうという内容が書いてあった。いったいどういうことだとすぐさま送信ボックスを開いて、不動が返信した内容を見てみると


「俺の女に手ぇ出すな」


と一言書いてあった。その内容をみた瞬間目を疑った。誰の女?というかこの内容はなに?不動は何を思ってこれを書いた。これは私をからかってかいてるのか?いろんなことがしっちゃかめっちゃか頭に浮かび消え、また浮かび消え、もう混乱としか言えない状態になった。気づけばいつの間にか手から携帯が滑り落ちていた。




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