「次はどれに乗ろうか?」
「私はあれに乗りたいな」


そういってメリーゴーランド指差して微笑むなまえに優しそうに微笑んで乗ろうか、となまえの手を取って歩むヒロトもといグラン。そんな微笑ましい二人の光景を物陰から隠れてじっと睨みつけるかのように見つめる、ウルビダの姿があった。その後ろにはウィーズが若干だるそうに立っていた。ウルビダとなまえはエイリア学園の仲で一番ともいえる仲の良い姉妹であった。昔からなまえはウルビダの後をくっつき、お姉ちゃん、と誰よりも大切に思い、慕っていた。ウルビダも自分の唯一の血縁であるなまえを大事にしていた。お父様に幸せになってもらいたい、それと同じぐらいなまえにも幸せになってもらいたい。それがウルビダの願いでもあった。そのためか妹のことが絡むとウルビダは誰よりもうるさくなった。しかし、最近なまえはウルビダの天敵ともいえるグラン前だけウルビダに見せる笑顔とは違う笑顔を浮かべる。グランも同様になまえの前では他の仲間には見せない表情を見せる。しかも頭を撫でるなどのボディタッチが多くなってきたようにウルビダは感じた。グランには近づくなとなまえに注意しても、でもグランはキャプテンだし、優しい人だし、悪くはないよ、といって言うことを聞こうとはしない。グランにもこれ以上私の妹に近づくな、といっても同じチームだからしょうがないし、なまえは可愛いからしょうがないと笑うだけだった。ウルビダは何度もそのグランの笑顔を粉砕したいと思った。そして今回二人は誰にも言わず、いわば秘密のデートというところまで至った。二人は誰にもバレていないと思っているが、実はこのことは大半の人にバレており、もちろんウルビダの耳にもはいった。そのことを知ったウルビダはなまえに手を出したらただではすまさないと二人、主にグランを監視することにした。なぜ後ろにウィーズがいるかというと、物理戦になったとき有利だからというウルビダの理不尽な理由でウィーズは連れまわされる羽目になった。



「もう二人の自由にさせていいんじゃないか?」
「自由にさせたら、グランが何をしでかすかわからないからこうして見張っているんだ」
「二人、メリーゴーランドに乗るらしいぜ、どうすんだ」



そういうと、ウルビダを黙って鞄からカメラを取り出した。



「せっかくだ、なまえが幸せそうにしてる写真を写す。なまえ一人をな」



そうやってインスタントカメラを構えてウルビダだが、どうやらグランとなまえは馬ではなく馬車に乗るらしく、二人で馬車の中に乗り込んだ。空洞になっている窓から二人が幸せそうに笑いあう姿が目に映る。それと同時にウルビダの握っているインスタントカメラがメシメシと音をたてて軋んだ。ウィーズがカメラ壊れそうだぞ、と呆れながら注意してもウルビダは聞く耳を持たず、それ以上なまえに近づくな、と歯軋りした。結局ウルビダの持っていたインスタントカメラは悲惨な姿となり、ウルビダの手によってゴミ箱へと放り込まれた。まったく地球のものはすぐに壊れると、不満を一言漏らすウルビダにウィーズはお前の力が強すぎるだけだ、というつっこもうとしたが、心の底にしまっておいた。それから後をつけて、二人が小休止でベンチに座ったとき、グランがふと席をたってなまえに断りを入れて、どこかへと行ってしまった。一人大人しく、しかも早く帰ってこないかなとキョロキョロと見渡して健気にグランの帰りを待つなまえの姿にウルビダはグラン許すまじ、と般若のような表情を浮かべた。



「なぁ、どうやらなまえはグランのこと本気らしいぜ」



もう、二人を認めてやってもいいんじゃないか、と疲れた表情でいうウィーズ。それにウルビダは最初は黙っていたが、ふと口を開いた。



「別になまえが誰かを恋して、そいつと幸せになるならわたしは嬉しい。わたしもその仲を応援する。だけど……」


優しい口調で語り、一呼吸置く。そして再び口を開いた。


「相手が相手だ!しかもあのグランがなまえと幸せになって、将来二人が結婚したらどうなると思う。グランがわたしの弟になるのだぞ。そんなの断じて認めん!」


私はお父様のように素晴らしい人と、なまえは結婚してほしい。そう先ほどの優しい口調とはかけ離れた、冷酷な口調でそう言い放ったウルビダにウィーズはただ溜息をつくだけだった。そのとき、なまえの周りになにやら得体の知れない男たちが寄ってくるのがウルビダの目に入った。男たちは笑顔も見せるも、どこか厭らしさを含めており、なまえはぎこちなく苦笑いしながらも、相当嫌がっているように見えた。おそらくナンパというものだろう。ウルビダはウィーズに背を向けたまま、行くぞ、と低く声で唸るように言う。ウィーズも黙ってウルビダの後について行った。顔の表情を見なくても、どんな表情をしているかぐらいはもう予想はできた。二人はずかずかとなまえとその周りにいるウルビダにとっては虫けら同然の男たちの元へと歩いていく。



「なまえ」
「お姉ちゃん!」


そうウルビダがなまえに声をかけると、なまえはウルビダの姿が目に映った瞬間、安堵の表情を見せ、ウルビダへと急いで駆けていった。ウルビダに飛びつくように抱きつくと、助かったぁ、と何度も震えた声で呟いた。ウルビダはそんななまえの頭をなで、怖かっただろうと優しい表情をしてあやした。ナンパをしようとした男たちはウルビダのその一際整ったその美貌にこりゃラッキー、と思い、声をかけようとしたが、その真後ろにいる一際厳つい雰囲気を放って男たちを睨むウィーズの姿が目に映った瞬間、何かと理由をつけて、蜘蛛の子を散らすように各自退散していった。



「なまえ!」


ここでようやくグランが走って帰ってきた。急いだせいか、額には汗をかき、前髪が若干ペタリとくっついていた。グランの姿が目に映った瞬間、なまえは一際嬉しそうな笑みを浮かべた。しかし、なまえがグランに近づくよりもウルビダがグランに近づき、グランの胸倉を掴んだ。



「グラン、どうしてなまえを一人にした!!わたしたちが来ていなかったらなまえは得体も知れない男たちに何かされていたかもしれないぞ!」



青い瞳を鋭くしてグランを睨みつけるウルビダ。ウルビダからその言葉を聞いたグランは目を見開いたあと、本当なのかと真剣な表情をして聞き返し、すぐになまえへと視線を向けた。



「ごめんなまえ……怖い思いをさせてちゃって……」
「ううん、こうやってお姉ちゃんたちが来てくれたし……私は大丈夫だよ」



お互いに見つめ合い、甘い雰囲気が漂う二人の間にウルビダは心なしかイライラした。この男のどこがいいんだ、と再度グランを睨みつけたとき、ふとグランがウルビダ、離してくれないか、と真面目な表情で言ってきた。一発殴ってから離してやりたいとこだが、なまえにお姉ちゃん……と子犬が懇願するときのような瞳で見つめられたためか、少々不満だが、黙ってグランの胸倉から手を離した。やっと自由になったグランはなまえに体を向け、可愛らしくラッピングされた小さな小包を取り出した。それをなまえに手渡すとなまえは目を丸くしたまま、それを受け取り、丁寧に包装をといていく。そして箱を明ける。するとそこに入っていたのはシンプルだが形の美しい指輪であった。予想外のプレゼントに最初はただ驚き、固まるだけだったがグランがその箱から指輪をそっととり、なまえの薬指にはめた瞬間、なまえの瞳は感激の涙で潤んだ。



「グラン、これ」
「さっき、君が欲しそうにしていたのを見て、プレゼントしようと思ったんだ。だけど買いに行っている途中で怖い目に合わせちゃうなんて……プレゼント買った意味がないね」


眉をハの字にしてそういうグランになまえは首を左右に振り、グランの瞳を見つめ、喜びに震える声を紡いだ。


「ううん、グランのその気持ちだけでいい。私本当に嬉しいよ。この指輪一生大事にするね」


グランの胸元にゆっくりと体を預けるなまえにそれを優しく受け入れるグラン。そんな二人を見つめるウルビダとウィーズ。もちろんウルビダは面白くなさそうな表情で二人を見つめている。ウィーズはもう俺たちに出る幕はねぇよと手を頭の後ろに当てた。そのあとグランとなまえはら二人で小声で話し合い、何やら決心を決めたようで、ウルビダへと向き返った。どことなく嫌な予感のするウルビダは腕を組んで二人を見据えた。


「お姉ちゃん、あのね……」
「なんだ」
「私、グランと」
「付き合っているんだ」


なまえが言うよりも先にグランが言い出した。グランはなまえに優しく微笑むと真剣な表情でウルビダを見つめた。
「だから、近づくなと言われても無理なんだ」


本気でなまえのことが好きだからとなまえの肩を引き寄せるグラン。ウルビダは金槌で頭を叩かれたようなものを感じた。もう二人がすでに付き合っているなど知らなかった。しかも二人は何があっても離れないという勢いであるし、誰にも二人の仲を邪魔するようなことはできそうになかった。しかしウルビダは認めたくなかった。だが、と声を荒げたとき、ウルビダが言うよりも先になまえが言った。「私本当は付き合ったとき、最初にお姉ちゃんに言おうとしたの、でもお姉ちゃん、絶対反対するって思って言えなかったの。だけどね、私、お姉ちゃんに一番最初にただおめでとうって言ってほしくて、一番大切なお姉ちゃんに認めて欲しかった」



なまえの素直で穢れのない真っ直ぐな瞳に見つめられたウルビダは、今一番自分のすべきことを思い出した。自分のすべきことは相手はどうであれ、なまえの幸せを祝福することではないか。なまえに幸せになってほしいと一番願っているのは自分だ。ウルビダはきちんとなまえのほうへと向き、青い瞳を細め、穏やかな表情で優しくゆっくり



「おめでとう、なまえ」





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