*risky game




「鬼男くん、ゲームしない?」
「仕事しろ!!」


閻魔がそう言うと、鬼男は一喝して閻魔を爪で刺した。






risky game







「ごめんなさい…」


閻魔は刺されながら鬼男に謝った。
そんな一連の流れがあった後に気を取りなおして鬼男に話を持ちかけた。


「ゲームしない?」
「…大王まだ刺され足りないんですね…」


懲りない閻魔に鬼男は人相を変え、右手を顔の位置まで持ってきて手のひら上にバッと開いた。
その指先の爪は鋭く尖っており刺し味が良さそうな程の磨がれ具合だった。
閻魔はその光景を目にし「ヒィィィ」と滑稽な叫び声を上げて言った。


「ちち、違うんだ鬼男くん!話せばわかる!これを見てくれ!」


そう言うと閻魔は鬼男に現世の様子を見せた。


「なんですか、これは」
「現世なんだけどさ」

閻魔は風景を差し替えた。
鬼男の目に映るは、都会の中にポツリと立つ木々に囲まれた山だった。
その中心部には地上から山の山頂に続く階段があった。


「ここは…?」
「さぁ。気になるでしょ?」
「まぁ…気にならないと言ったら嘘になりますけど…」
「じゃぁ行ってみない?」
「はぁ!?」
「仕事もいいけど、息抜きも必要だよ〜?」
「息抜きってお前全然仕事してねぇだろうが。そもそも下界には無闇に降りてはいけないと言う決まりが…」


鬼男はまだ言い切っていないと言うのに閻魔は強引に話を逸らす。


「ただいって観るだけじゃ詰まらないから、賭けようよ?」
「大王話は最後まで聞いてください」
「この場所が何か賭けて、負けた方は罰ゲーム!どうだろう?」
「…話聞けよ」


眉間に皺を寄せて閻魔をギリリと睨みつける鬼男。
しかし閻魔には通用せず、ただひたすら鬼男の回答をうずうずして待っているだけだった。
そんな閻魔に重いため息を吐き、呆れた口調で答えてやった。


「神社かお寺じゃないんですか」
「そう来たか…、俺はね…ツチノコがいる森だと思うんだよね」
「だったらもうそれでいいじゃないですか」
「えーダメダメ!ちゃんと観に行こうよ!真剣勝負なんだからー」
「真剣勝負ってアンタな…」
「そうだ!罰ゲームまだ決めてなかった」


そう言うと閻魔はうーんと人差し指を唇に近づけ首を少し右に傾けた。
そしてハッと目を見開き、楽しそうな口調で言った。


「じゃぁもしあそこがツチノコがいる神秘の森だったら鬼男くんは1週間セーラー服で過ごす」
「…刺すぞ」
「(罰ゲーム言っただけなのに刺されそうになった…)ご、ごめんなさい…、調子に乗りすぎました。1日で大丈夫です」
「まったく…」
「じゃぁ鬼男くんも罰ゲームなんか決めてよ」


そう言われ何も考えていなかった鬼男はまた眉間に皺を寄せて考え始める。
(…してほしい事ならいっぱいありすぎて困るな……って言うか罰ゲームで仕事しろって言うのはどうなんだ?仕事は仕事だよな…)

そんな風に思いながら、悩みに浸る鬼男。
そんな鬼男をみて閻魔は少し慌てた口調で鬼男に言った。


「あの、ゲームだからそんなに悩まなくても…って言うかハードなのはやめてね…」
「あ」


閻魔がちょうどいい終わった頃に鬼男は普通の表情で言葉を零した。


「大王が負けたら、僕の言成りになってください」
「…へ?」
「だから、あそこが神社かお寺、つまり僕の回答通りの所だったら大王は僕のペットになってくださいね。一週間」
「ちょ、一週間ペット!?俺のは1日なのに!?」
「一週間でも足りないくらいですよ。むしろ一生でもいいですよ」
「…一週間でお願いします」


そんなやり取りの後に下界に降りてくる二人。
そんな二人の格好は季節もピッタリの甚平だ。

しかし下界・現代の日照りは強く、コンクリートジャングルな為暑さがモンモンと容赦なく二人を襲う。


「…暑い」
「…本当に暑いですね」
「それに今ここどこ?こっちであってんの?」
「ちょっと調べないで来ちゃったんですか!?」
「調べてないよ〜」
「ったく使えねぇな!」
「ちょ、鬼男くん!?仮にも俺君の上司だぞ!?」


ワーワーと隣で騒ぐ閻魔を他所に鬼男は周りをキョロキョロ見回し始めた。
鬼男の行動を見て閻魔は弱々しい声で言った。


「ねぇ、ちょっと鬼男俺の話ちゃんと聞いてる…?結構大事な話して…」
「大王あっちです」


完全無視の鬼男は閻魔の後方に指をさして言った。
閻魔は暑さでダルそうに振り向くと、冥界で見た山が大きくそびえ立っていた。


「…結構おっきいね…」


冥界から見降ろすのと、地上から見上げるのでは訳が違う。
その大きさに閻魔は圧倒され思わず口から本音を零した。
その後を鬼男は続けた。


「やっぱり違いますね、見降ろすのと、こちらか見ている世界は」


目印の山を頼りに、住宅街や平凡な道を歩きまわり、山の階段についた時にはもう陽が落ちかけていた。
鬼男はそうでもないが、体力のない閻魔はもう暑さと歩きまわったせいで階段でぐったりしていた。
ぐったりの閻魔が階段を見上げて弱音をこぼす。


「うわーこんなに階段あるのー?もう無理だよー鬼男くん行ってみてきてよ、俺ここで待ってるから」
「何言ってんですか。言い出しっぺは大王でしょ?」
「いやーもう無理だよ、俺もう無理ギブスギブス!あ、間違えたギブギブ」
「ふざけんな。登りますよね?ここまで来といて」


黒い笑みをうっすら浮かべてお決まりの右手を顔の近くまで上げて脅す。
(流石に地上で爪を伸ばしてるとおおごとになりそうだ…困るから格好だけ…)

鬼男の格好を見て閻魔は一気に顔を青くして片言でしゃべる。


「サ、サァ鬼男クン、頂上マデ登ロウカ…」
「はい」


鬼男一人だけなら行き帰りの往復5分で済みそうな所を、閻魔が足をひっぱり登るのに10分もかかってしまっていた。
やっと階段を登り切るとそこには大きなお社があった。


「…神社ですね」
「…神社だったね…」


大層ガッカリした様子の閻魔を見てクスクスと笑っている鬼男。
鬼男の笑い声が聞こえ、閻魔は大きな声で叫ぶ。


「チクショーオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


閻魔の声が遠くまで響いていた。
閻魔は叫び終わった後、地べたにベターっと座って「はぁー」と大きくため息をついた。
鬼男はそんな閻魔の横に立ち、先ほど背を向けていた階段のほうに視線を戻すと、空は丁度鮮やかな赤色と薄暗い青色を織りまぜたような綺麗な色をしていた。
空を見上げると、夜が忍び寄ってきている方には既に星が見え始めている。
鬼男は遠くを見つめて言葉をこぼす。


「綺麗ですね」


鬼男の声に視線を鬼男と同じく空に移すと閻魔は再び圧倒された。
そしてクスリと笑って幸せそうな顔で言った。


「ホントだね…」
「冥界にも、あったらいいのに。こんな風景が…」
「そうだね。冥界にもあったら…」


そう呟いて二人は陽が沈むまでじっと空を見つめていた。


陽もしっかり沈み辺りは真っ暗になった頃。


「あーもう歩けないいいいいいいいいい!」


そう叫ぶは体力なしの閻魔だった。
そんな閻魔の前に草の茂みから何かが飛び出してきた。


「ひいいあぁ!?」


変な悲鳴を上げて、その何かに目をやると目を光らせた猫だった。
そんな哀れな上司を見て呆れた様子の部下・鬼男。


「何やってるんですか、大王。ほら立ってください」
「う、うん…」


仕方なく閻魔の腕を引っ張り立ち上がるのを補助しようとすると閻魔は気の抜けた声で言った。


「…どうしよう。立てない…」
「はぁ!?」
「…こ、腰抜けちゃったみたい…だ…」


ハハハと苦笑いでペタンと階段に座り込む閻魔。
そんな閻魔を見てはぁーっと大きくため息を付くと閻魔に背を向けてしゃがむ鬼男。
閻魔はじっとその様子を意味もわからずにただ見つめていた。


「ホラ、早くしてくださいよ!」
「…なにが?」
「早く乗れって言ってんの!」
「…おんぶ?」
「そうだよ!はやくしろよ!この腰抜け!!!」
「こ、腰抜けって言うなよ〜」
「事実だろうが」
「このやろう〜」


悔しそうな顔付きで鬼男の背中に身体を預ける閻魔。
そんな閻魔をおぶって階段を降りる鬼男。


「そうだ。罰ゲーム忘れてませんよね。忘れたとは言わせませんよ」
「あー…う、うん。覚えてるよちゃんと…」
「ちゃっと一週間聞いてもらいますからね。僕の言う事」
「あーわかったよ、チクショウ。ツチノコの森じゃなかったのかよ」
「ツチノコなんているわけ無いでしょう…」


そんな話をしながら二人は階段の途中にできた真っ黒い入り口に姿を消して行った。



[fin.]




@あとがき

一応続編を予定してます。
今はまだちょっと内容で悩んでいます…。
天国の初エロにしようか、甘甘にしようか…。
どうしようかなぁ…。

世間様は夏休みということで、里帰りとか遠出とか、そんなのに絡めてみました。



ここまで読んでいただき、ありがとうございます!



















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