逆さまラプソディー






幼い頃から顔を合わせていた。 何をするのも、どこへ行くのも、音を奏でる時も俺と那月はいつでも一緒だった。
始まりはいつからだろうか。 俺が『那月』を意識し始めたのはいつからだろう。













「ねぇ翔ちゃん、翔ちゃんは僕の事好き?嫌い?僕は翔ちゃんの事だぁーいすきだよ!」











いつも通りの那月の言葉が寮の部屋にこぼれ落ちた夜。
その口調はいつも那月そのものだったけど、それでも顔はどこか切な気だった。

毎回毎回思うのは、仮に『友情愛』だとしても男相手に『好きだ好きだ』とサラっと発言できる那月の精神には俺も流石に関心する程。




「何バカな事言ってんだよ」




呆れた口調でいつもの様に返答すると那月は いいから と急かす様に俺の回答を待っている。
ハァ…と大きなため息を吐くと自然と肩も落ちた。


よくもまぁこんなくだらない質問してくるよなぁ…ったく。


俺は大きく息を吸い込んで自分に気合を入れなおしてから、腕を組んでから俺の回答待ちの那月の方を向いて口を開いた。





「いいか那月!好き嫌いの以前にお前と俺はライバルなの!ラ・イ・バ・ルッ!!!だから好き嫌い関係ねーっての!わかったらそんな事一々聞いてくるな!これが俺様の回答だ」





俺の回答に那月は大層不服そうな顔をした。
那月の気分なんてどうだって良かった。 そんな事を気にするだけ無駄だと知っているから。




「じゃぁ今度は俺がお前に質問する番な。まぁ聞きたいことは山程あるけど、お前さなんでそんな事聞くんだよ」




俺の質問に少し驚いた様な顔をしていた。 でもそれは一瞬で普段の那月のふやけたような笑顔に戻った。
そして嬉しいのか何なのか、上機嫌で俺に答える。




「『嫌よ、嫌よも好きのうち』なんだって、ほら翔ちゃんは僕の事『イヤイヤ』って言うから…」




那月の話を整理して聞くと、どうやら那月は俺があまりにも嫌がるのを気にしていたらしい。
その話を七海達に話したそうだ。 するとレンが 『嫌よ、嫌よも好きの内』という言葉だろう?それだよ、オチビちゃんも表ではあんな態度取ってるけど、実はそこまで嫌じゃないのさ。 と那月に言ったそうだ。 本当に余計な事言いやがって、レン……覚えてろよ…。
すると周囲も激しく同意したそうだ。 それを確かめたくてあんな質問をぶつけてきた、と言うのが今回の経緯らしい。

でも俺の回答が思わしくない回答で残念だと零した。





「でも何時か夢中にさせてあげるからね、今はライバルでも、近い将来翔ちゃんは僕の恋人になるんだからーね?」




那月はいつだって自分勝手だ。 相手の事は考えてなくて、自分の理想ばかり。
理解不能な理想にいつも付き合わされている俺はいつも同じようなパターンで交わしている、変わらない関係。




「は、はぁ!?な、なな、な、何訳わかんねー事言ってんだっ!ばーかっ!!って言うかもういいから寝ろっ!さっさと寝ろ!!」





そう促すと那月は渋ったように俺の指示に従った。 布団に入ったのを確認してから俺は電気を消して真っ暗にした。
部屋には窓から溢れ出してくる月の光が部屋と俺たちを照らし出していた。 お陰で那月の表情は電気を消したはずなのに手に取るように見える。

部屋に微かに聞こえる呼吸はきっと那月と俺のものだった。



俺は怖いのかもしれなかった。 那月の『好き』と言う発言をよく聞くせいなのか、軽く聞こえてしまって。
現実を受け入れるのが怖いのかもしれない。




「おい、那月」



ココロを奪われる事なんてある訳ないと、断言していたから。
今まで隠してきた。 自分の中でアヤフヤに、無かった事に、押し殺してきた本当の気持ち。




「俺は……‥」




真実を伝えたら消えてなくなってしまうかもしれない。 今まで押し殺してでも手に入れたかった物も築きあげてきた物も、全部音を立てて脆く粉々になってしまうんじゃないかと。
だから、俺は今日も明日も、カワイクないヤツでいようとしているのに。 それはそれで嫌だと悟っている自分もいて。 だから素直になれない。





「俺は…、那月の、事…、嫌い…じゃ、ない…と、思う…ぜ……」




別に『好き』と言った訳じゃないけど、顔の温度は異常な程熱を持っていた。
そんな格好悪い顔を月あかりで見られないように布団の中に慌てて潜り込んで寝たフリをしたけれど、高鳴っている心臓の音が鳴り止む事はなかった。






逆さまラプソディー
(知らないうちにお前を落とそうとしてたのは俺の方だったんだ。)






@あとがき

久々の那翔です。 両思いなのに、臆病な翔ちゃんです。
兄弟喧嘩の話を聞いてそう言えばと思いだしたのが例の『嫌よ嫌よもなんとやら』ってやつです。
この言葉嫌いじゃないな…(笑)





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