*聞こえていますか?届いていますか?







「翔ちゃん」


真っ暗な世界に響く那月の声。
瞼を閉じたまま俺は聞こえない振りをした。
それでも那月は俺の名前を繰り返して呼んだ。


「翔ちゃん」


俺は静かに瞼を閉じたままで、相変わらず狸寝入りを決め込んだ。
しかし那月は諦めること無く俺の名前を呼んだ。
寂しそうに、何度も何度も俺の名前を唇から零していく。


「翔ちゃん」
「……」


俺の名前を呼ぶくせに、その声は細く儚い小さな声で、いつもの那月とは様子がおかしかった。
何度も名前ばかりを呼ぶ那月に、俺の狸寝入りは実はバレているんじゃないかと焦り始めていた。
何故なら、俺が狸寝入りを決め込んでからかなりの時間が経っているからだ。
2時間近く俺が横になるベットの隣で何度も呼ばれる俺の名前。


「翔ちゃん……」
「……」


そろそろ痺れを切らしてきた俺は次名前を呼んだら起き上がって那月を怒鳴りつけてやろうと思った。
那月はそんな事も知らずに息を殺しながら小さく呼吸をしてから俺の名前をこぼし始めた。


「翔ちゃん…。ねぇ翔ちゃん…。聞こえていますか?僕の声は…。僕の想いは、翔ちゃんに届いていますか…―?」


怒鳴り散らしてやろうと思ったのに、那月が意味深な言葉を零すから思わず言葉を飲んでしまった。


「翔ちゃん。僕は翔ちゃんが大好きなんです。ねぇ。翔ちゃん。聞こえていますか?届いていますか?僕のこの気持は……」


那月は弱々しい声で呟いた。
那月の『大好き』は聞き慣れているはずなのに、違和感を感じた。
ソレに俺の鼓動はドクドクと速さを増して、謎の胸の高鳴りまで覚えていた。

頭の中はぐるぐると色々なものがめまぐるしく駆けまわる。

そんな事態に俺は耐え切れずに壁側に寝返りをうった。
俺の背中越しにいる那月の切ないため息が聞こえた。


「はぁ……。翔ちゃん………」


そう零して那月は自分のスペースへと戻っていった。





アレから時間が経ち、那月は寝てしまったようだった。
俺は那月のあの言葉から一睡もすることができなくなってしまっていた。
今でも那月のあの言葉が耳に残っている。


『翔ちゃん。僕は翔ちゃんが大好きなんです。ねぇ。翔ちゃん。聞こえていますか?届いていますか?僕のこの気持は……』


相変わらず鼓動は早まったままで、顔まで熱くなってくる。
何度も頭の中でリピートされる那月の声に俺は一々返した。



『翔ちゃん。』
(何だよ!)

『僕は翔ちゃんが大好きなんです』
(何言ってんだ!那月!お前のせいで俺は…、ぜ、全然ねれなくて……)

『ねぇ。』
(ど、どうしてくれんだよ!バカ!)

『聞こえていますか?』
(……ッ)

『届いていますか?僕のこの気持は……』
(………バカ那月。)


意味を少し考えてから、『もしかして』と言う考えに行き着いた瞬間に俺の顔は一気に温度が上がった気がした。
枕をギュッと抱いて小さく身体を丸めた。
熱く熱を持った顔をしっかり枕にうずめてから、あの時の那月に心のなかで小さく返事をしてやった。


「(バカ那月。そんな寂しそうな声だすなよ…。お前の声も気持ちも俺ちゃんと届いいてるっての……)」







[fin.]




@あとがき

初めての歌王子です。すいません。
なっちゃんの淡い片想いかと思いきや、実は両想い的な。
そんな感じです。
青春ですね。解ります。




























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