#金魚 その昔、ある村が水の底に沈んだと言う。 とある子供がその湖に二匹の金魚を放した。 やがて、そこには二匹の人魚が住み着いた。 その二匹の人魚は、子供が放した二匹の金魚の色にとても似ていたと言う。 金魚 「妹子〜ッ!!」 「う、うげ〜何ですか太子…」 「お前!摂政を見るなり『うげ〜』って言うなよ!」 「ソレより何か用ですか?」 「あぁ!そうだった!見ろ妹子!」 太子は片手に持っていた袋を高く掲げた。 「…金魚、ですか?って言うかでか!!」 「どうだ?凄いだろー、ざまーみろ!アホ妹子!」 「いや、別に…、」 「ムキー!何でだよ!悔しがれよ!聖徳太子が金魚捕ってきたんだぞ!」 「(なんでそんな事で僕が悔しがらなくちゃいけないんだ…)悔しがる理由が見当たらないので…、それより捕ってきたんですか?そんなデカイ金魚良く掬えたな…」 「そうだ、あそこに屋台があってな!何だか凄く懐かしくて、一回三百円だし、やってきたでおま!」 太子はそう言うと満足気にフフっと笑っていた。 今日は近くの神社で恒例の夏祭りに僕はたまたま来ていた。 そして今バッタリと太子に出会した、と言う訳だ。 「(金魚掬いか…、って言うかなんでこのおっさん金魚すくいでそんなに満足気なんだ…単純なんだ、やっぱアホだこのおっさん…)」 太子の片手には金魚が二匹入った水袋。 一匹は青と白を帯びた金魚。もう一匹は、赤と白を帯びた金魚。 「どうでもいいですけど、アンタまさか独りですか?」 「そうだけど?」 「バカだろアンタ!え?このイモムシが!」 「な、なんで怒るんだよ…?」 「当たり前じゃないですか!アンタ仮にも聖徳太子だろ!?なんでそんな無防備でうろちょろしてんだ!ダメおやじ!」 「おま…おやじって…」 大層凹んでいた太子を横目に僕は仕方なく太子を朝廷まで送ることにした。 その帰り道。 話は先程の金魚が話題となった。 「そう言えば、太子の捕った金魚。1匹珍しい色をしてましたね」 「え?どっち?」 「いや、青ですよ!普通に考えて青だろ!?赤なんてそこら辺にうようよいるじゃないですか!あんたバカだろ!」 「お前今日一日で何回私に罵倒した!?」 「…いや分かりませんけど、出来れば毎日罵倒したいです」 「最後の話は別に聞いてないぞ、妹子」 「寧ろ僕としては僕の罵倒で太子が泣いてくれるだけでオカズになります」 「オアまァッ!?サラッとお前何いってんの!?」 「そんな事より、太子。その青色の金魚の名前を知っていますか?」 「…知らん」 「羽衣秋金(はごろもしゅうきん)と言う金魚なんですよ。でこっちの赤いのが、桜東錦(さくらあずまにしき)ですかね…」 「妹子のくせに金魚詳しいな」 「まぁ、学ぶのは嫌いじゃないですからね」 「ふーん!まぁでも摂政程ではないな!妹子なんか私の足元にも及ばん!」 太子はそう言うと、持っていた袋を顔まで持ち上げ金魚を眺めた。 そして『懐かしいなぁ〜』と呟いていた。 「太子前にも金魚飼ってたんですか?」 「あぁ、昔な!私がまだ幼い頃だったな〜、前も祭りで捕ったんだよ」 「アンタ金魚好きだな」 「いや、お祭りと言えば金魚掬いってもんだろ!まぁでもあれ以来1回も捕れなかったんだよ、だから今回は捕れて凄く嬉しかった!捕ったとき思わずオアまァッ!?って叫んじゃったからね私」 「オアまァッ!?って叫んだの!?カッコ悪い叫び方だなぁ〜」 「うるさい!でも私凄くない!?こんなにすごい金魚2匹も捕っちゃったんだぞ!?あ、そうだ!名前何にしようかな〜」 色々名前を考えている内に朝廷に着いてしまった。 朝廷に着くなり太子は僕の方を向いて袋を差し出してきた。 「何ですか、これ」 「この金魚妹子にやるよ」 「いりませんよ、こんなの」 「お前、私が捕ってきた金魚をこんなの扱いするな!お芋のくせに。いいか、これは摂政命令だからな!ちゃんと育てろよ!」 「えぇ!?ちょ!太子!!」 太子は金魚の入った袋を僕に押し付けて、朝廷内に帰ってしまった。 (…荷物が増えた……) 家に帰りさっそく僕は水槽の中に金魚を放った。 金魚は優雅に水槽を泳いでいた。 ―――――― 数日後。 ゴソゴソと部屋の中で物音がする。 その物音で目を覚ました僕は起き上がり周囲を確認するとそこには太子が居た。 「おはよう妹子」 「おはようございます。…すいません、なんで居るんですか。しかもまだ夜中じゃないですか!全然おはようじゃないじゃないですか!」 「うるさいな〜、金魚の様子を見に来たんだよ〜、私が捕った金魚だからな!」 「じゃぁアンタが飼えばいいだろうが!」 「駄目だ!朝廷内に生き物を持ち込んでは馬子様に怒られるんだよ〜」 「じゃぁどうして捕ったんですか!」 「だから懐かしくて」 「死んでください太子」 「し、死ね!?死ねってアンタ酷くない!?」 時計を見るとちょうど丑三つ時だった。 それから太子は金魚の様子を見に毎晩丑三つ時に、金魚の元を訪れた。 水槽に入った二匹の金魚を、ずっと眺めている。 「妹子と私」 水槽の中の二匹の金魚を眺め、太子は不意に言った。 不思議そうに見つめていると、僕の視線を察したのか太子は、僕の方を振り向いた。 「見ろ妹子。この2匹はとても似ている。私たちみたいだな」 「……そうですか?(色がかな…)」 「よし決めた!」 「何をですか」 「名前だよ。何時までも名無しのままでは可哀想だろ?」 「そうですけど…。で、どんな名前なんですか?」 「えーっと、まず赤いのがアホ妹子で、青いのがハーブの香り聖徳太子だな」 「誰がアホ妹子だ、え!?おんどりゃー!却下です!そもそも青いのなんてもう名前じゃないじゃないですか!長いよ!」 「えー。じゃぁ、妹と子ってのはどうだ?繋げたら妹子だぞ!」 「いや、どうだってあんたホントバカですね」 「何が不満なんだよ〜このヤロ〜!妹は妹子の妹で、子は太子の子から取ったんだぞ」 「それだったら普通に『妹子』と『太子』でいいじゃないですか」 「え〜普通すぎる…」 「寧ろ普通でいいでしょ!?変なとこ無理にこだわらなくていいんだよ!このアホ!」 「またアホって言った!お前何回人をバカにする気なんだよ!」 「毎回」 「なめてんのかー!ちくしょー!」 「舐めていいんですか、じゃぁ遠慮無く…」 「そういう意味じゃないんですけど!?」 僕はじたばた暴れる太子の服を強引に脱がせて太子の白い肌に下を這わせた。 そして金魚の前で淫らにも繋がった――。 事の終で、ぼんやりと太子は金魚を眺めている。 そして、息を吐いて一間置いてから立ち上がり呟いた。 「…………さぁそろそろ帰るとするか…」 太子はそう残して、僕の家を後にした。 ――――――――― 太子は次の日、その次の日も必ず丑三つ時に僕の家を訪れた。 雨の日も、風が強い日も、絶えず僕の家に通い詰めた。 ある日、僕が家に帰ると一匹青い金魚が居なくなっていた。 水槽の水かさは減り、周りは濡れていた。 その日の丑三つ時、やはり太子は現れた。 僕は太子に事実を告げると、太子は黙りこんでしまった。 そして突然、太子はこう言った。 「…『妹子』を湖に放そう」 「はい?」 突然の太子の言葉に僕は驚きを隠せなかった。 「放すって、そんな事したら食べられちゃいますよ!?」 「うーん…、それもそうかもしれないが、狭い世界に閉じ込めておくのは可哀想だ…」 「可哀想って、食べられちゃうのも可哀想じゃないですか!大体一匹居なくなったんだから十分広いですよ」 「でも放す!もう決めたんだ!放すといったら放す!」 そう言って、太子は後日近くの湖に一匹の金魚を放すことにした。 その日、僕と太子は大きな湖のほとりに来ていた。 一匹生き残った金魚を放す為に。 「本当に放すんですか…?」 「あぁ、放す」 「……、そうですか」 そう言ってから太子は水槽をゆっくり湖に沈めて湖の水と水槽の中の水を混ぜ合わせていく。 すると金魚は水槽の外へでて、大きな湖に静かに消えて行った。 太子は一匹の金魚を見送ってから僕の方を向いた。 「昔な、私は三匹金魚飼っていたんだ。でも直ぐに一匹死んでしまった」 太子は遠くを見つめながら切なそうに喋り始めた。 僕は惹かれて、つい聞いてしまう。 「他の二匹は……、」 「今みたいに湖に放したんだよ。狭い世界では可哀想だと思ったんだ。でも本当はきっと喪うのが怖かったんだろうな。だから、今もこうして…喪うことが怖いから放したんだ」 「……、」 「それに私な、妹子。口実を作っていたんだ。毎日お前に逢いに行く為の口実を作ったんだ。だからお前に『妹子』と『太子』を託した」 「……口実、ですか…」 「だけどもう、嘘は付きたくない。『逢いたいから、逢いに行く』。妹子、お前に逢いたいから……―――」 その瞬間、大きな風が吹き上げた。 僕は思わず目を瞑った。太子の声は聞こえない。 「ありがとう…」 声が遠くでした。どこかで聞いたことのあるような懐かしい声。 目を静かに開けると、大きな湖のほとりに僕独りが佇んでいた。 目の前に有るのはさっきまで太子が持っていたはずの水槽のみだった。 不意に湖を見ると一匹の赤い金魚の周りを人魚が楽しそうに泳いでいるのが見えた気がした。 その人魚の色は何処か、居なくなってしまったはずの青い色の金魚にそっくりだった。 [fin.] @あとがき 今日近くでお祭りがあったので、なんとなく雰囲気でかいたらこんな産物になりました。 すいません。違いました。お祭りだったのに仕事で悔しくて腹いせに書きました。ごめんなさい。 そしたらこんな訳の分からない可哀想な話になりました、(汗) シリアスなのかな…、謎です(汗) ・解説 金魚は太子と妹子そのものです。 冒頭で放した金魚2匹は、太子と妹子の幼少期という考えです。 まぁ、金魚を放したのは太子なんですけどね。 で太子はまた金魚を捕まえてしまいました。 そしてしばらくして青色の金魚は消えてしまいました。→太子の存在も消えます。 赤色の金魚は湖に放しました→妹子は生き残ります。 そんな感じです。 だからもし2匹とも消えていたら、2人とも消えていた、そんな感じです。 最後の出てくる青色の人魚は太子の屍です。 ごめんなさい、屍は言い方が悪いですね。って言うか、湖に屍浮いてたらホラーですよね、すいません(汗) シリアスから急にホラーに変わるもんな、危ない危ない。 あの人魚は妹子の幻想?空想? 太子の死後の魂を妹子は湖の影に見たのでしょう。 妹子の周りを楽しそうに泳ぐ太子。 「いつでもお前の傍にいるぞ」的な…。 ここまで読んでいただきありがとうございました! back |