*初恋






クルクル廻る、切なく淡い記憶。

巡る巡る、『あの日』の記憶―。




初恋。





私は、ずっとずっと好きな人がいた。
ずっとずっと、遠くから眺めていた。
私の『特別な日』。
そう、『あの日』からずっと…。

その者は好青年。
髪は茶色。
凄くいい匂いがして、優しい青年だ。
彼は冠位十二階五位。
名前は……――。



『あの日』は丁度梅雨時期だった。
外は雨で空気は湿って、周りは梅雨の香りに包まれていた。
その日は大好きなジャージを脱ぎ、正装をし朝廷の中を歩いていたのだが、雨で湿っていたためか、足を滑らせてしまった。


「ッ!?」


一瞬にして世界はゆっくりと時を刻み始めたように感じた。
私が後ろに倒れそうになっているのを周りを取り囲む人々は誰ひとりとして、私に手を貸してくれそうなモノはいなかった。

怖い。と強く思った。
痛い。と言う感情など諸共せず、ただただ助けてくれない周りの者になんとも言えない恐怖を感じた。


「危ないっ!!!」


急に叫び声がどこからとも無く聞こえた。
降りしきる雨で床は濡れているのにも関わらず、その者はドタドタと品の無い音で近づいてくるではないか。
雨の音と一緒に激しさをまして。


人とは不思議なモノだ。
次に襲い迫るモノに恐怖を感じると、ギュッと目を強く瞑ってしまう光景にある。
今の私は正しくそうだった。


ドスッ


衝撃は思ったより感じ無かった。
痛みは殆ど無いに等しい。

私は恐る恐る目を開くと、そこには好青年の姿があった。
いい匂いがして、同性にも関わらず、胸の高鳴りを感じた。
心臓がドクドクと私の身体の中で大きく鳴り響く。

綺麗な顔立ちの青年に私は見惚れてしまっていた。
状況も把握しないままに。

そんな私に青年は足を滑らせた私を笑いもせず真っ先に安否を心配してくれた。


「…大丈夫ですか?」
そこでやっと現実に引き戻される。
ハッとして、冷静に事をみると、足を滑らせた私の身体を支えてくれていたらしい。
つまりは、青年の『腕の中』と言う事。

これに周りの者はざわつき始めていた。

しかし青年は私を気遣い、私がしっかり立った後に、前に来て立膝で顔を伏せ謝った。


「聖徳太子殿。ご無礼を申し訳ございません。聖徳太子殿と知りながら、あの様な無礼な真似をしてしまい。いかなる罰も受ける覚悟でございます。」


私はこの言葉に顔をほころばせた。
だって、周りの者達よりもずっとずっと、慇懃(いんぎん)ではないだろうか。
(※慇懃=真心がこもっていて、礼儀正しい事)


「その者、顔をあげよ」
「はい」
「名を何と申す?」
「はい、小野妹子と申します」
「そうか、なら妹子よ。罰などいらぬ。お前はずっとその清い心を持ち続け、人を大事にせよ。これは摂政命令だ」


そう告げてその場を後にした。


そして、その後その青年は『遣隋使』に任命され、私の前に再び姿を表すことになる。
『その話』は馬子さんから既に聞いており、この日の為にと、私は妹子へとジャージを送ることにした。

私の大好きなジャージを、大好きな妹子とお揃いで着てみたい。

妹子は貰ってくれるだろうか?
妹子は喜んでくれるだろうか?


妹子は、『あの日』の事を覚えていてくれているだろうか?


私の胸の高鳴りがどんどんと激しくなっていく。
青年が私の部屋へと近付いている足音と一緒に……。





[fin.]









@あとがき

はい。初恋(上司ver.)いかがでしたでしょうか。
部下は多分書きませんけどね…(汗)

まぁ簡単にまとめてしまうと、足を滑らせた太子を抱きしめて助けてくれた妹子にドキドキして、
「これって恋じゃね!?(太子)」と思い、なんかもうジャージ着てください。私とこの先ジャージライフを楽しみませんか?的な話です。

太子の喋り方が全然ぽくないのでなんか凹みました(苦笑)
なんかもっと日和感が出せればなぁ…と思う今日この頃です(笑)

ここまで読んでいただき、ありがとうございます!(*´∀`*)






















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