僕はきっと幸せ者だ。だってこんなにも空が青い。赤いかもしれない。まあいいや。草木も生い茂っているし、命の芽吹きを感じる。でも生きてるものなんて、だれもいないんだ。ああ安心して、ミナキ君はいるよ。僕とミナキ君しかいない。ミナキ君は僕に、ずっと笑い掛けてくれているんだ。ほら、今も。笑ってないかもしれない。分からないや。分かっているよ。今日の空は青でも赤でもなく曇ってる事だって、草木も枯れてる事だって、僕とミナキ君の他にもたくさんの命が歩いてる事だって。ミナキ君が笑い掛けてくれてる事だけは同じだけど。だよね?ねぇ見えないよ。僕はおかしいのかい?

「おかしくないさ。それが君に見えている世界ならそれが正解だ」

そっか。じゃあなんでそんな苦しそうな顔するんだ。笑ってよ。でも無理に作ったような笑顔は見たくないんだ。僕の世界のミナキ君はおひさまだからいつもニコニコ明るいんだ。だから今は真っ暗だよ。


ミナキ君が、こほっ、と乾いた咳をして、ああ僕、手を離してしまったのか。あんまりにも暗いから。見えなくなってしまった。手持ち無沙汰な僕の手がまたミナキ君の首に伸びようとして、やめた。ミナキ君は、僕の下で呼吸を整えようと頑張ってる。苦しそう、かわいそう、止めてあげたいけれど、できないよ。もっともっと暗くなりそうで。

「好きだから殺したくなるなんてよく言うよ。こんなにも怖いのに」

「…マツバ」

「見て?僕の手こんなに震えてる。はは、力も入らないよ、きっと包丁も持てないな」

ミナキ君の首から離れた僕の指はどんどん冷えていって、かじかんだ。外は雪が降り出したんだね。僕の方はね、真っ暗だけど、土砂降りなのは分かるよ。だってね、いっぱいになって、溢れてるから。僕の喉が情けなく嗚咽を漏らすからミナキ君にしたみたいに僕の首に手を掛けたけれど、やっぱり力は入らない。悔しくて親指の付け根を強く噛んだ。痛くない。痛いよ。

「マツバ、君の方がよっぽど苦しそうだぜ」

ミナキ君が僕の手を口から外させるとまた嗚咽が漏れて泣きたくなった、ああもう泣いているのか。こんなに寒いのに冷たいのにミナキ君の指は温かい。やっぱり君はおひさまなんだね。温かい指が僕の手に付いた歯型を撫でて愛おしそうにするから、凍りついた僕の手は溶けて無くなりそうだ。いっそそうなってしまえば良いとも思う。

「ミナキくんはマゾなのかい?」

え?ってきょとんとした顔に少し苛立つ。けれど世界は明るくなってきた。見えるよ。しあわせ。

「僕に首絞められて嬉しいの?」

「なっ!?嬉しくないぞ!いや、嬉しい…嬉しいかもしれん…そうか私はマゾだったのか…」

ぶつぶつ言ってるミナキ君がおかしくて、僕の世界はすっかり晴れてしまっていた。しあわせ。幸せ?

「雪、積もるかな」

「雪?ああ、そうだな。積もるかもしれないな」

「そしたら雪だるまを作ろう。僕とミナキ君の」

「はは、それは良いな!楽しみだ!」

溶けてしまってもいいんだ。僕の世界にずっと置いておくから。あっちなら絶対に溶けないよ。永久保存しよう。



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