「どこに行くんだ」

デンジの家の、相変わらず生活感の窺えない冷蔵庫に適当に買った食材と飲み物をぶち込み、適当に借りた映画のDVDを2人並んでソファーに座って観ながら、こいつはハズレだなと思ってたときにデンジがそう言ってきた。俺は動いていない。

「どこにも行かねぇけど」

隣を見ると、デンジは足を組んで真っ直ぐにテレビを見ていた。足長いしほんとスタイル良いよお前。ていうかこれ、面白かったんかな。俺的には微妙だけど、お前にとって面白いなら良かった。デンジからの返事は無い。

「あ、そうだ。紅茶買ってきたぜ。無糖の。好きだろ?」

「オーバがどっか行った」

噛み合わない。会話が成立しなくなったデンジは非常に厄介だ。もう長い付き合いだが、どこでこうなるスイッチが入るのか全く分からない。下手に宥めようとすると、余計にややこしくなるのは過去の実例から学習済みだ。

「離すとすぐにどっか行くんだ。俺を置いて。何も言ってくれない。俺の声なんて聞こえてない。お前に俺の声が届かないのが悲しくて死にたいと思って血はいっぱい出るのに死ねなくて苦しくて痛くてお前はいない」

淡々と言葉を発するデンジは、やっぱりテレビを見ていて、テレビの中ではガタイの良い男が敵と向き合いながら、主人公達を逃がしている。死亡フラグだなこりゃ。俺も後から追う、だなんて無理だろうな、どうせお前は死ぬんだから。

「なんで何も言ってくれねぇんだよ。寂しい」

デンジが俺の方を向いた。やっとこっちの世界に戻ってきたか。俺も向き合う。

「わりーな。でも死のうとするのは良くないと思うぞ」

テレビからはさっきの男の断末魔が聞こえて、ほらやっぱりな。有りがちな展開に呆れる。とっくに映画に興味が失せてる俺がゆっくりデンジに近付いても、拒絶されなかったから触れるだけのキスをすると、デンジがリモコンを手に取った。

「なぁオーバ、この映画つまんねぇよ」

「俺もそう思ってた」

漸くまともな会話ができたのが嬉しくて、リモコンを持つデンジの手に自分の手を重ねて、DVDをテレビの電源ごと消す。さっきの男の死を知った主人公が泣き叫んでいたけど、どうせお前もあいつが死ぬ事ぐらい分かってたんだろ。どうでもいい。リモコンが床に落ちて音を立てるのと同時に、デンジをソファーに押し倒した。返却は明日、散歩がてら一緒に行こうな。



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