「おきやさぁーん、帰りました〜」

玄関の扉を開ければ倒れ込むように床へ突っ伏した。
床がクルクルと動いているような感覚が襲い思考能力を奪う。

「楓さん、どうかしましたか?」

奥の部屋から現れたのは相変わらずハイネックを好んで着ている沖矢昴だった。
私は目が回る視界の中、何も考えれない状態で目の前の沖矢さんの足にしがみつくとそのまま意識を手放したのだった。







目が覚めれば、そこは自室のベッドの上だった。
服を見れば昨日残業した姿のままだ。

立ち上がれば酷く頭痛がした。

(・・・昨日何してたっけ・・・)

私は寝起きで頭が回らない中ぼんやりと思い出す。

確か仕事が終わって帰る途中に、立ち飲み屋を見つけて・・・
お酒を軽く嗜む程度に飲むつもりがついつい進んでしまったのだった。

そこからあまり記憶はないがここに居るということは無事に帰れたのだろう。

私は痛む頭を抑えながら水を飲むためキッチンへと向かった。





「おはようございます、楓さん」

「おはよーございます」

キッチンへ向かえばお味噌汁の良い匂いが漂っていた。
どうやら朝食を作っている最中のようだ。
沖矢さんはお玉を片手に持ちながら私を凝視する。

「楓さん。昨日、遅くに帰ってきたと思えば、随分お酒が入ってたようですが・・・」

「え!!」

沖矢さんと遭遇していた事を知って思わず顔を青ざめる。
私の中では完全に誰にも会わず帰宅したと思っていたのだ。

「未成年の方が飲酒とはあまり賛成出来ませんが・・・」
しかも泥酔してましたよ。と言われ私は目を泳がせた。

(やばい、見られてたんだ!)

何か言い訳を考えようと必死だったが何もいい策が思いつかなかった。

「とにかく、あまりハメを外しすぎないようにして下さい。私は楓さんからしたら保護者のようなものなんですから」

「はい・・・すみません・・・」

残業が終わった開放感でつい飲んでしまったが、私は表向きは高校生だ。

説教されてシュンとしている私の前に沖矢さんは暖かいお味噌汁を差し出した。

「しじみの味噌汁です。飲み過ぎた後にはこれが効きますよ」

「ありがとうございます・・・」

沖矢さんの優しさに涙が出そうだった。
私はお味噌汁を飲みながら、もうしばらくお酒は飲まないと心に決めたのだった。



それから私はお風呂に入り部屋着に着替えた後、リビングでゆっくりテレビを見ていた。

今日も警察庁へは登庁する予定なのだが少しだけリラックスする時間が欲しかったのだ。

沖矢さんも同じくテレビを見ていた。
テレビの内容は少し昔の刑事ドラマだった。
透視能力をもった主人公が犯人のヒントとなる映像を透視して事件を解決するという話だ。
当時はよく流行って話題になったのを覚えている。

私も沖矢さんも真剣になってそのドラマを見ていたのだが、終盤に差し掛かった時、突然玄関のインターフォンが鳴った。

思わず沖矢さんと目が合う。

「私が出ますね」
素早くそう言ってから立ち上がると、私は玄関へと向かったのだった。




ガチャリと扉を開ければ、そこにはビジネススーツを着た営業マンの男が立っていた。

30代後半に見えるその男は痩せ型で眼鏡を掛けていた。
どうやら何かの訪問販売のようだ。

「こんにちは、工藤様。いま大丈夫ですか?」

「はい大丈夫ですけど・・・。でもセールスとかでしたらお断りします」

「いえ、そんな大した事じゃないですよ」

男はそう言うと、素早く内ポケットから何かを取り出した。

「・・・・・・っ!」

一瞬の事で私は咄嗟に動けず目を丸くしたが、男はその瞬間を逃さずスプレーを噴射した。
しまった・・・!と思ったその後すぐ、私は意識を失ったのだった。







楓が玄関へと向かってからいっこうに戻る気配がない。
テレビの電源を消すと、玄関へと向かった。

「楓さん、どなたでしたか?」

そう言いながら玄関の方を見る。
しかしそこには彼女の姿は見当たらなかった。
おまけに玄関のドアは開いたままで、彼女の靴も綺麗に揃えられたままだった。

「・・・・・・ふむ」
そのまま玄関を開けて外を見渡したが彼女の姿はなかった。

先程までの彼女は特に出かける様子もなく、部屋着のままでさして用事もなさそうに見えた。

「・・・・・・何かに巻き込まれたか?」

沖矢は顎に手をつけながらそう呟いた。
そしてすっとポケットから携帯を取り出す。

発信ボタンを押したその画面には(江戸川コナン)の文字が映っていた。

喉元の変声機のスイッチを切り替える。
「もしもし、ボウヤか?ちょっと面倒な事になったようだ・・・」
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -