午前中の授業が終わり、中庭でお弁当を食べていた私たちの話題は今日転校してきた2人で持ちきりだった。

「ねね、室谷凛人くん!思ってたよりイケメンだよね!!」

「また園子ったら。あんまりそんな事ばっかり言ってると京極さんに言っちゃうよ〜?」

「ちょっと蘭、それとは別よ!」

蘭ちゃんと園子ちゃんがきゃっきゃっと盛り上がっている。

私の隣でお弁当を広げている世良ちゃんは顎に手を付けながら眉をしかめていた。

「でも、なんかアイツ嫌な感じするんだよな〜」

「確かに、クールな感じだったね」

「楓、まだまだね。そこがまた良いんじゃない!チャラチャラしてる奴より余程良いわ」

園子ちゃんがいつも以上に太鼓判を捺している。

「楓はどうなの??安室さんと進展ないならこの際、新しい出会いを求めて転校生を狙いに行くってのは??」

「いや、どう・・・って。私、そもそも安室さんとは別に・・・」

突然話題を振ってきた園子ちゃんに
思わずしどろもどろになっていると、突然少し離れた所から、悲鳴に似た声が辺りに響き渡った。

「え・・・っ!?」

ドキリとして反射的に聞こえた方角を見てみれば、女子生徒が数人、1人の男子生徒を囲んで騒いでいるようだった。
特に事件とかでは無さそうだ。


「・・・なんだ?あれ」
世良ちゃんが不思議そうに尋ねる。

「あぁ、あれね。彼がもう1人の転校生らしいわよ。聞いたところによると彼もかなりのイケメンらしいけど・・・室谷くんと正反対でめっちゃチャラいって噂よ」

園子ちゃん、いつの間に情報を集めていたのだろうか。
どうやらさっきの悲鳴は女子生徒達が感極まって叫んだ歓声のようだ。

「うん、やっぱり楓ちゃんには、室谷くんが似合うなあ〜」

蘭ちゃんが笑顔を向けながら何かを言いたそうに私を見ている。

「そんな顔で見ても何もないし起こさないからね・・・!」

私がそう言えば、3人ともつまらなさそうな顔で「ちぇ!」「残念」と呟いていた。

「ははは・・・」
私の乾いた笑いが響き渡る。
恋愛沙汰を楽しんでいる余裕など少しもないのだ。

突然現れた転校生。
もしかすると組織と関係があるかもしれない。

(少しでも調べておかないと・・・)



それから午後の授業も終わり校内を巡回していると、窓の外は少しずつ夕焼け色に染まりつつあった。

時刻は5時。

生徒達も下校し人気の少なくなった廊下を歩いていると、ふと、目の前に立ち尽くす男子生徒が目に入った。

確か、彼は隣のクラスの転校生で名前は『暁月 滉(あかつきあきら)』

私の視線に気づいた彼は、にこりと微笑むとそのまま近づいてきた。

「僕の顔に何かついてる?」

「え、あ。ごめんなさい・・・不躾に凝視してしまって」

突然声をかけられ、思わず慌てる私。

「ははは、不躾にって。なんか変わってるね、君」

「・・・は、はあ」

「ほんと、まるで高校生じゃないみたいだ」

その言葉に固まる私を他所に、はははと笑いつづけている暁月くん。

きっと偶然出た言葉なのだろう。と私は少しだけ早くなった鼓動を隠すように、にこりと微笑んだ。

「あの、暁月滉・・・くん?だよね?転校生」

「あれ?知ってるんだね。もしかして僕って有名人なのかな?」

「ま・・・まあ、そうかな。転校生だしね」

すると何かが面白かったのか、笑いを堪えるように室谷くんは口元を抑えながら私を見つめた。

「僕も知ってるよ、楠原楓さん。」

「・・・え?」

「僕、可愛い子はスグに覚えるから。今日の昼休みに中庭に居たでしょ?」

「え!うん。居たけど・・・」

見られていた事にまったく気づいていなかった私は、驚いて目を丸くさせた。

「目立つよ、君。可愛いし、スタイル良いし、それに・・・」

歩きながら話す彼は、私の隣を通り過ぎる瞬間、私の耳元に顔を寄せた。

「とても不自然だから・・・」

その言葉で背筋が凍りつき、思わず心臓が止まりそうになる。

さっきの言葉も偶然ではない。
この暁月滉は・・・私を知っている。

驚きを隠すように、眉をしかめ睨みつける。

「・・・なんのこと?」

「ん?別に。今は気にしなくても良いよ。仲良くしようね、楓ちゃん」

そう言った彼はそのまま振り向きもせずに、私に背を向けたまま廊下を歩いて行った。

残された私は、バクバクと鳴り続ける心臓を抑えるように胸に手を当ててそのまま立ち尽くしていた。
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