次の日の朝
いつも通り自室で着替えてからリビングへ行けば、もう先輩の姿はなかった。その代わりテーブルにラップされた朝食が置いてある。
先輩はどんなに忙しくても朝食を作り置きしてくれているのだ。
(・・・潜入捜査かな・・・)
甘くふわっとしたスクランブルエッグを食べながら、先輩のことを思うと少しだけチクリと胸が痛むのは、朝から先輩の顔が見れなかったからだろうか。
私は自分の中のなんとも表現しづらい感情を持て余しながら朝食を食べた後、いつものように学校へと向かうのだった。
「おはよ」
「おはよう、楓ちゃん」
自分の机に鞄を引っ掛けていると、横から名前を呼ばれる。
園子ちゃんと蘭ちゃんは既に教室に着いていたようだ。
振り返ってから2人に向かいニコリと笑った。
「おはよう、園子ちゃん、蘭ちゃん」
いつもこうやって登校すれば声をかけてくれる2人。
本当は何歳も年下のはずなのに、この2人が居てくれるだけでほっとするような安心感がある。
「楓聞いた?転校生の話」
「え?転校生??」
ぼんやりとしていた私は聞きなれない単語に思わず聞き返す。
この時期に珍しい。
「しかも2人よ。どのクラスになるかは知んないけど、今朝見かけた子がいるらしくて、学校中その話で持ちきりよ」
「それは珍しいね」
転校生自体そう多い話ではない。
それに加えて2人も転校してくるとは。
しばらく会話を交わしていると、チャイムが鳴った。
時計を見ればホームルームの始まる時間だ。
「あ、もうこんな時間か」
「転校生、うちのクラスだと良いね」
会話を交わした後、じゃあ後でね、と散り散りにそれぞれの席に座ったのだった。
「それじゃあ、転校生を紹介する」
静まる教室の中、担任が連れてきた男子生徒に注目が集まる。
「はじめまして、室谷凛人(むろたにりんと)です。よろしくお願いします。」
淡々と静かな口調で挨拶する転校生。
新しいクラスメイトの姿に教室中は少しだけざわざわと騒がしい。
転校生である室谷凛人の第一印象は、割と端正な面持ちの割には涼し気な冷たい印象の表現だった。
声色も低く、笑顔もない。
さして緊張している様子もなかった。
(・・・年齢の割には肝が据わってる気がする)
私はぼんやりそんな事を考えながら頬杖をついて転校生を見ていた。
そして、少しだけ疑問に感じている事がある。
(・・・あの青年・・・どこかで見たような・・・)
担任が話を続けている中、必死で頭脳をフル回転させたが思い出せないまま、授業が始まったのだった。