体が何かに当たった衝撃と同時に私は意識を取り戻した。
ぼんやりとした思考をなんとか働かせれば、今の状況を咄嗟に思い出す。
薬品を嗅がされて意識を失ったんだ。
ここはどこだろうかと勢いよく体を起こした。
すると突然体が一気に燃えるように熱くなりバクバクと動悸がし、今までにない異常事態に混乱する。
(なに?この感覚・・・っ)
思わず自分の体を抱きしめる。
(体が・・・あつい・・・)
「零子、起きたか」
声が聞こえその方向を確認すれば、先程まで飲んでいた松山樹の姿があった。
(・・・松山・・・っ)
周りを確認すれば薄暗い部屋に赤色の間接照明が見える。
自分が座っている場所はベッドの上で、少し奥にガラス張りのバスルームが見えた。
間違いない、ラブホテルだ。
連れ込まれたのだろう。
首元を確認すればチョーカーは付けているようだったが耳にはイヤリングが着いていなかった。
むしろ足元もいつのまにか靴が脱げていて、髪の毛もまとめていたはずなのに下ろされている。
だがチョーカーさえあれば本部との連絡は取れているはずだ。
「零子。俺は欲しいと思ったらすぐに手に入れたい。時間なんて必要ないんだよ」
松山の声が聞こえる。
しかしそれよりも体中が火照ったように熱く、思考が働かない。
少しずつ息が上がるのが分かる。
明らかに身体に異変を感じ、未知の感覚に思わず震えた。
「効果も出てきた頃か?俺たちの仕事はな、零子。表では金融系事務所を構えているが、裏では麻薬や違法薬物を密輸して儲けてるんだ。特に零子が飲んだ薬は今いちばん人気のドラッグだよ」
「・・・・・・っ」
少し動くだけでも敏感に体が反応し、苦しい。
駆け上がる衝動を抑えるように体をぎゅっと抱きしめる。
「楽にしてやるから、ほら、」
松山がベッドへ登ると私の身体をゆっくりと押し倒した。
「・・・っ!!!」
すっと太ももを撫でられるだけで快感が走り目の前がチカチカと真っ白になり意識を失いそうになる。
松山は首元に顔をうずめて、ゆっくり唇を這わせると舌でつーっと舐めながら吸い上げれば、チクリと首筋に痛みが走った。
「これを飲んでヤれば何度もイキまくって病みつきになるんだぜ。お前も俺から離れられなくなるさ」
松山が耳元で囁きながら大きく開いている胸元に手を這わせて侵入する。
「でけーな、これはすげー」
そのまま胸をゆっくり揉みながら唇を鎖骨に這わせればその快楽にも似た強烈な感覚が全身に走り、思わず気が狂いそうで首を左右にふった。
(やばい、どうしたら・・・!)
私は泣きそうになるのを必死で耐えぎゅっと目を瞑りながら先輩の名前を呼んだ。
その時
勢いよく入口の扉が開いた。
「なんだ!お前は」
私に馬乗りになりながら振り返り、慌てる松山。
しかしその返答を聞く間もなく、私の上に跨る松山は唸り声と共に床に崩れ落ちたのだった。
「楓!大丈夫か!」
名前を呼ぶ声に目をゆっくりと開ければ、汗だくで息をきらせながら私をのぞき込む先輩の姿が目に映る。
「・・せんぱ・・・い・」
私は安堵で涙をこぼしながらも、弱々しい声で応えた。
なぜここに先輩が居るのかという疑問が浮かぶが、それはすぐに身体の疼きによって消えた。
息が出来ない。
荒く呼吸を繰り返しながら、耐え続けていれば先輩が私の肩を掴んだ。
私の様子を確認するように見つめる先輩の表情はいつもよりも険しく、少し苛立っているのが分かる。
「・・・・っ!」
「どうした!?」
「わか・・・んない・・・。からだ・・・あつくて・・・」
その言葉を聞いた先輩は、はっとした表情をした後、確認するかのように頬や体に触れる。
「あ・・・っ!や・・・」
その瞬間ゾクゾクした快感が身体を支配し駆け巡り声が漏れる。
すると先輩は私の首元に付いているチョーカーをむしり取るように外してから床へおもむろに捨てた。
それから携帯を取り出して素早く通話ボタンを押す。
「風見か、例の人物は捕らえた。場所もビンゴだ。俺は楓の状態を確認する。ああ、その件は後で。」
先輩が通話を終わらせたと同じタイミングでパトカーのサイレンが聞こえて来るのがわかった。
先輩は刺激しないようにゆっくり私を抱き抱えると、その場を後にしたのだった。