次の日の朝。
あまりにも気まずくて先輩に顔を合わせないようにそーっとリビングを覗いてみたが、もう家には居ないようだった。
テーブルの上には先輩がいつも朝作ってくれるサンドイッチが置いてある。
その近くにメモが残されており《仕事で3日程留守にする。帰ったら覚悟してろ》と書かれていた。
読み上げた瞬間、ゾゾゾっと背中に悪寒が走る。
恐らく仕事とは黒の組織絡みの事だとは思うが最後の一言が物凄く怖い。
少しの罪悪感と恐怖で苛まれそうだった。
それから夕方頃まで警察庁で書類を片付けたあと、昨日と同じようにクラブへと潜入していたが相変わらず目当てのターゲットは来店せずその日も収穫ゼロのまま帰宅したのだった。
家へ帰ればシーンとした部屋が出迎える。
(そうだ、先輩居ないんだった)
私は少し焦燥感を感じ、カレンダーを見つめる。
あと2日すれば先輩は帰ってくる。
居なくなったわけではない。
冷蔵庫を開けて食べ物を探すが特にこれといってめぼしい物はなかった。
(まいっか。今日はたくさん食べさせてもらったし・・・)
クラブで客からお酒やらおつまみやら勧められたおかげで空腹感はあまりない。
時計を見れば丁度夜中の1時を過ぎた所だった。
(お風呂にでも入ってはやく寝よ)
私は着替えを準備してから浴室へと向かおうとした。
その時。
突然部屋に携帯の着信音が響き渡る。
(こんな夜中に・・・もしかして先輩??)
テーブルの上を見れば着信を知らせるランプが光っている。
すぐにそれを手に取り着信相手を確認した。
ディスプレイには『沖矢昴』と表示されている。
(沖矢さん?なんだろ)
私はその名前に首を傾げながらも通話ボタンを押した。
「もしもし、楓です」
「夜分遅くにすまない。少し用事があって連絡したんだが」
受話口から聞こえる声は沖矢さんのものではなく、紛れもなく赤井さんだった。
「あ、赤井さんでしたか。珍しいですね、貴方から連絡だなんて」
「いや、今日のお昼頃にここの家主である工藤優作さんから楓宛に荷物が届いてな。昼頃だと都合が悪いと思って今掛けたんだが・・・」
「良かったです。普段ならこの時間寝てますし、もし先輩も居たらとても怪しまれてますよ。それより優作さんからの荷物ですか?なんだろう・・・」
「そんなに大きな物では無いようだが、こっちに置いておくか?」
「うーん。そうですね・・・」
ふと考えてみれば、昼間は警察庁で会議、夜はクラブへ潜入捜査をしているためなかなか工藤邸へ行くタイミングがなさそうだ。
しかし優作さんがわざわざ荷物を送ってくれたのも気になる。
少しだけ悩んだ後、赤井さんにこう返事した。
「赤井さん、もし良ければ明日の夜10時に六本木交差点にある「捧げる像」まで届けに来て頂けませんか?」
「あぁ、別にかまわないが・・・。なんでまた六本木に?」
「すみません、今ちょっと仕事が立て込んでまして・・・」
「なるほど。ではそこで落ち合うとしようか」
「はい、よろしくお願いします」
順調に予定が決まれば「じゃあおやすみなさい」と一言挨拶をして終話ボタンを押した。
優作さんからの荷物が何なのか物凄く気になる所だが、なれない仕事の疲労感もそれなりに感じる。
私は手短にシャワーを済ませれば、そのまますぐに就寝したのだった。