「これで・・・よし!」
先輩がコードを切ると起爆装置の文字が変わり解除された事が分かった。
途中で停電した時はどうなる事かと思ったが、とりあえず無事に事なき終えたようだ。
先輩はふぅ、と安堵のため息をついた。
私もほっと胸をなで下ろす。
「楓」
「え?」
突然名前を呼ばれ振り返る。
先輩の端正な顔が思ったよりも近くに見えたかと思えば勢いよく先輩に唇を奪われた。
「ん・・・っ」
頭を両手で抑えられ、呼吸をする事も許さないような、そんな激しい口付けに思わず目眩がする。
味わうように何度も口付けを繰り返す先輩。
長く感じられたその時間は先輩の唇が離れた事で終わりを告げた。
私は大きく呼吸を繰り返した。
「せ、先輩、こ、こんなところで・・・っ」
酸素が足りなかったのもあって、顔を真っ赤にさせながら私は先輩にそう言った。
「これはお前が悪いな」
先輩はぎゅっと私を抱きしめて少し楽しそうにそう言った。
するとその時、突然銃声と金属が当たる音が私と先輩の周りに響いた。
どうやら本格的に黒の組織が攻撃を仕掛けてきたらしい。
私は足場が揺れているのが分かり思わず先輩にしがみついた。
「楓、俺はこの爆薬を回収してからFBIと合流する」
「私も・・・!」
「楓は少しの間だけで良いからここでじっとしててくれ。」
私の不安そうな顔を見た先輩は、頭をポンポンと叩いてから私に軽く口付けをした。
「大丈夫だ、すぐ戻る」
先輩はそう言うと走って観覧車の上側へと向かっていった。
取り残された私の心には以前と違って孤独感など1ミリとも感じなかった。
離れているはずなのに、先輩と気持ちが通じ合えている気がするのは何故だろう。
辺りで銃声が木霊する中、私は不思議と震えることもなく冷静にしゃがみこみ様子を伺うのだった。
度重なる銃撃により、何度か足場を無くしたり落ちそうになったが何とか無事だった。
動かないでいれば敵も攻撃してこないらしい。
しばらくすれば辺り一面に花火の光が降り注いだ。
コナン君達が何か反撃を仕掛けているのだろうか・・・。
眩しい光に目を細める。
すると銃撃が少し止んだかと思えば、すぐに先程よりも激しく銃声が響き渡った。
先程よりも集中して狙われている箇所を確認すると、私は顔を青ざめた。
車軸を狙ってるんだ!!
あれほどまでの弾丸を受けていれば車軸が壊れるのも時間の問題だ。
ガタガタと大きく足場が揺れ始め、何度も落ちそうになりながらも必死にしがみついた。
すると片方の車軸がメキメキと音を立てて少しずつ落下していく。
「そ、そんな・・・!!」
私は思わず階段を駆け上がり外側へと出る。
思ったよりも高い視界と強い風に少し驚く。
足元も揺れていて不安定だった。
でも、今はそれどころじゃない。
私は辺りを見回した。
少し離れたところで先輩が立っているのが見える。
少しよろけながら私は先輩の元へと駆け寄った。
「先輩!観覧車が・・・っ」
「楓!危ないだろ・・・!」
あまりにも危ない足取りに先輩は慌てて私の腰を抱きしめ自分にピタリと引っつけた。
「今、FBIとコナン君とでこれを使って何とかしようとしている。きっと大丈夫だ」
先輩が指を指した方向にはベルトのような物が張り巡らせてあり、それは回転している観覧車の方へと伸びていた。
私は転がる観覧車を見つめた。
その先にはイルカショーの会場があり大勢の人達が避難しているのが見える。
どうか、お願い!神様!
止まって!
私は先輩の胸にしがみつきながら、強く祈った。
ベルトが勢いよく巻かれ、ピンと張るが思ったよりも効果は得られない。
それからすぐ後に大きなサッカーボールがだんだんと膨らみ、観覧車を遮るように現れる。
あれは間違いなくコナン君のものだ。
しかし、それでも観覧車の動きは止まらない。
「先輩・・・っ」
私は絶体絶命の状況に先輩の服をぎゅっと握った。
もうぶつかってしまう・・・と思ったその時。
どこからともなく現れた重機がすごい速さで突進して行ったのだ。
そしてその重機が潰れる爆風の力もあってか、観覧車の回転がゆっくりと止まった。
「やった・・・!先輩、やりましたよ!!」
私は涙目になりながら歓喜した。
先輩も安堵の表情を浮かべると、ぎゅっと私を強く抱きしめる。
「楓、さっき言い忘れてたけど」
「・・・?」
私はふと先輩の顔を見つめる。
風で先輩の金色の髪が揺れていた。
先輩は今まで見たことのない程の優しい笑みで私を見つめてこう言った。
「俺も、好きだよ。楓」