翌日


土曜日のため学校はお休みだ。
窓の外を見れば昨日の雷雨が嘘のように晴れている。

今日は前から予定していた工藤邸を清掃しに行く日だ。


私は自室で着替えてから、隣のリビングへ行けば、想像通り先輩の姿は無かった。

私の中でざわざわと寂寥感が襲う。
取り残された孤独感は何度も経験したはずなのに。

私は気持ちを切り替えるように、先輩が作り置きしてくれたサンドイッチを冷蔵庫から取り出し食べると、すぐに工藤邸へと向かった。





工藤邸へ着けば、癖でインターホンを鳴らさずに玄関を開けてしまう。

私が靴を脱いでスリッパに履き替えていると玄関の奥にあるリビングへと繋がるドアがゆっくりと開いた。

「来たか」

そこには見覚えのない男性が立っていた。ニット帽を被り鋭い目つきでこちらを見ている。

しかし、その声には聞き覚えがあった。

「変装しなくても良いんですか?赤井さん」
私はそう言いながら、赤井さんに近寄った。

「別に君に気を使うこともないだろう。」
私は冷静に答える赤井さんを見上げた。
初めて見る姿に違和感はあるが、一緒に住んでいたためか不思議と安心感を感じた。


「赤井さんにちょっと、聞いておきたいことがあって」

「・・・なるほど。ならこちらで話そう」
赤井さんに誘導され、私達はリビングのソファーへ腰掛けた。


久しぶりの部屋に思わず辺りを見回す。
清掃に来たもののそこまで汚れてはおらず、一緒に住んでいた時も家事は沖矢さんに任せっきりだった事を思い出した。

これは半年に1度で良いのレベルかも・・・。


「で、どうした?その様子だと彼から何か言われたようだが・・・」

「何で分かるんですか!?」
私は驚いて赤井さんを見る。

「真面目な君の事だ。我々にも例の話は届いている。大方、心配性の彼に警察庁には近づくなと言われたんだろう・・・」

「・・・はい。その通りです・・・」
あまりにも的確な内容で何も言えなかった。

「先輩から・・・組織の事も赤井さんの事も聞きました。これから起こることも。私、心配で・・・」

良くない想像が何度も脳裏に過ぎる。
それは先輩だけではない。
ここに居る赤井さんも同じ立場なのだ。

すると赤井さんはフンと鼻で笑う
「君に心配される程落ちぶれてはおらんよ。彼も頭がきれる男だ・・・そう簡単にヘマはしないさ」

それは私も重々承知だ。
先輩も赤井さんも手際が悪いだなんて思ってはない。


だけど


「・・・嫌なんです。ただ、待ってるだけなんて。」

幼少の時の記憶がぼんやりと頭に過ぎった。
いつも待っているだけの自分が嫌だった。
あの時のようにただそこに居るだけしか出来ない無力感は、もう・・・味わいたくない。

だから、私も守りたいのだ。
組織からノックリストを。そして先輩や赤井さんを。


「・・・君はただ守られているだけのお姫様という訳ではなさそうだな」

赤井さんは驚いたようにそう言うと、ポケットから1枚の紙を取り出した。

なにやら白い紙切れに文字が並んでいるようだ。
赤井さんはそれを私に差し出す。

「これを君に託そう」

私は赤井さんからメモを受け取り、それに目を通した。
そこにはどうやら人物の特徴が書かれているようだった。

女性で銀色の髪、左目が青色、右目が白色のオッドアイ?

「赤井さん、これは・・・?」

「おそらくノックリストを奪いに来るであろう奴の特徴だ。こいつを辿れば何か組織の事が分かるかも知れない」

こいつは組織のNo.2の右腕だ。と赤井さんは言う。

さすが組織に潜入していただけあって情報網が広い。

「どうしてこれを私に・・・?」

「さあな、ただの気まぐれだ」
赤井さんは口だけでふっと笑った。

私は公安警察だ。FBIである赤井さんが情報をくれるだなんて予想外だった。

1人で考え込む私に彼なりの優しさなのだろうか。
私は思わず笑みがこぼれた。

「ありがとう、赤井さん」
私はメモをぎゅっと握ってから赤井さんを見つめる。

「私もこれを頼りに何か探ってみ・・・

その時だった。

玄関の方からドアが開く音が聞こえた。

私と赤井さんはお互いに目を合わせる。



(あれー?鍵開けっ放しだよ、沖矢さん)

(なんか、見慣れない靴もあるし・・・まさか!沖矢さんの彼女・・・!?)



声の主に聞き覚えがあった。
この声は蘭ちゃんと園子ちゃんだ。
ほぼ毎日顔を合わせているため間違いない。

今の状況を冷静に考える。
変装していない赤井さんとクラスメイトの私。
あの2人に接点がないと思われている私たちがここに居るのはかなり怪しいだろう。
どう見ても空き巣だ。

「や、やばいです!!赤井さん、どどどどどどどどうしよ・・・っ!」

「落ち着くんだ、楓。こっちに来い」

すると赤井さんは私の腕をぐいっと掴み立たせれば、そのままリビングの端にある掃除道具用の物入れへと入り込んだ。

畳1畳分くらいしか無いそこは掃除道具も入っているため、かなり狭い。

赤井さんとどうしても体が密着してしまい思わず驚くが、当の本人は涼しい顔のままだった。

私はそのままの体勢で声を押し殺し、すぐそこで部屋を歩き回っている二人に意識を集中させる。


(あれー?ここにも居ないよ?)

(おっかしいわね〜、靴はあるから絶対どこかに居るはずなのに・・・)

(しょうがない。先にコナン君達と合流しようよ、園子)

耳を澄ませていれば、だんだんと遠くなっていく足音と声。

しばらくしてから玄関のドアが閉まり、しっかりと鍵がかかる音が聞こえる。



「た、助かった・・・」
私は思わず安堵のため息が出た。

バレたらきっと言い訳出来ない。
特に赤井さんは蘭ちゃんたちと赤の他人だし。

私はふと赤井さんを見上げる。
思ったよりも距離が近い事に気がつき、あわわと慌てた。

「ご、ごめんなさい、すぐ退けますっ!」

「・・・楓」

私の声とは裏腹に赤井さんは冷静に落ち着いたまま私の名前を呼んだ。

思わず顔を見ればお互いの目が合う。


「俺と一緒に来ないか?」

「・・・え??」
私は思いがけない赤井さんの提案に驚いた。

「もちろん無理にとは言わない。ただ、その方が君1人よりも遥かに多く情報が入るだろう。」

確かにその通りだった。
私1人とFBIという大きな組織の力だと比べるまでもない。
できるなら情報を共有したい。

「でも、いいんですか?私、これでも公安警察でして・・・」

「楓の個人的な悩みだろう?構わないさ。それに君をこのまま放っておけば1人でも奴らのところへ飛び出して行きそうだ」

さらりと肯定する赤井さん。
勝手にそんな事を決めていいのだろうか。
FBIという大きな組織でどれだけの決定権を持っている人物なのだろう。
それでも断る理由は何も無かった。


「それなら・・・是非お願いします」

私はそう言ってお辞儀をしようとしたが、ポスンと赤井さんの胸に頭が当たる。

そして、私と赤井さんの体勢を改めて思い出し慌ててそこから出たのだった。
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