強い力で肩を引かれ、着いたのは鈴木邸の裏庭だった。

「あの、安室さ..っ!」
その時背中に痛みが走る。
裏庭の塀の壁に倒され、先輩は私の顔の横に手をついた。


「なにを...してるんですか!」

「え!」


「何をされた?どこを触られた!?」



先輩は私の頬をなぞり確認するように、首筋の左右を見た。
怒っているその姿はどう見ても、安室透ではなく降谷零だった。



「先輩、何もないですよ!ただ、たわいもない話を聞いていただけです」

「たわいもない...本当にそれだけだと思ってるのか?」
先輩は私の顎をくいっと上げて、そう言った。
お互いの視線が合う、その距離が近い。



「でも、ほんと...っ」
何もない、と、そう言おうと思ったより先に、突然、私の視点と脳がぐにゃりと回る。

この感覚には覚えがあった。
この間の新年会でビールとウィスキーをちゃんぽんで飲まされた時と同じだ。




「楓、そのドリンク貸してみろ」

先輩に私の持っていたドリンクを渡すと、少し残っていたそれをすぐに飲み干した。
すると、先輩は更に表情をイラつかせた。


「...between the sheets」

「え?」
私は揺れる景色の中先輩の言葉を思わず聞き返した。


「カクテルの中でもレディーキラーと呼ばれるものだ」



「れでぃーきらー?」
だめだ、うまく脳が働かない。


「一見爽やかな味だが、かなり度数が高く、知らず知らず飲み過ぎてしまう。つまり、女を酔わせる時に飲ますカクテルをレディーキラーと言うんだ」
先輩は私の姿を見つめ、少し凝視をしていた。
視線が合っているのか合っていないのか、もう私の頭では判断できなかった。
それと同時に物凄い睡魔が襲ってくる


先輩は、しばらく私を見つめていたが、数秒後、はぁ…とため息をついた。



「大丈夫か?」
先輩は私の頭を優しくポンポンと、撫でた。



「これ以上心配かけさせるな、馬鹿」

そう呟いた先輩の言葉を聞いたあと、私は意識を手放した。










頬を赤くして、寝込んでしまった楓は明らかに大人の女性だった。
首筋からの滑らかな鎖骨のライン。
豊満な溢れそうな胸の谷間が目立つ。
唇は赤く艶やかに塗られている

嫌な予感はしていた。
ポアロでパーティーに、誘われてから何かあるとは思っていたが。

まさか楓のこんな姿が見れるとは思いもしなかった。
すぐに声をかけられるのも無理はない。
もしあの時、自分があと少し遅かったとしたらきっとあの下心しかない青年の餌食になっていたのだろう。

彼女が飲まされたであろう、between the sheetsというカクテルの意味は《ベッドに入って》
つまり意中の人をベッドに誘う時に飲ませるカクテルだ。

それを初対面であろうの彼女に飲ませるとは…
楓にも、今後こういう事が起きないよういろいろ教えないといけない。



安堵と共に深いため息をついた後、楓を家へ送ろうと自分の車に乗せた。



(そう言えば、こいつの住所聞いてないな...)

かといって、楓のクラスメートである彼女たちに任せても今の楓は何を口走るか分からない。
そもそもお酒を飲んでいる。



(しょうがない...か)

安室は自分の自宅マンションへ車を走らせたのだった。

















「ほら、楓、起きろ」
遠くから、誰かの声がする。

うっすらと目を開ければ、眩しい光が差し込んできた。
しかし、また脳がボーっとしていて焦点が定まらない。

「もうちょっと...」
あと少しだけで良いから寝かせてほしい。
私は近くにある人肌にぎゅっとしがみついた。

(...?人肌?)


「ん?襲ってもいいのか?楓」
その声に一気に脳が覚醒する。


目を開けると、私を上から見下ろし、じーっと見つめている先輩の姿だった。


「えっ!!」

私は慌てて飛び起き、状況を確認する。
先輩の姿を見れば昨日会った時と同じスーツ姿だったが、違うのはジャケットではなくラフなYシャツのみ。
ネクタイを外しボタンを数個外している先輩を見て思わず顔を赤くしてしまう。色気がすごい...!

そもそも、なぜ私はここに?
確か会場で先輩を待ってて、変な青年に声をかけられて...

「お前が腰にしがみついて離れなかったんだよ」
先輩は、グーッと伸びをして欠伸をしている。

そうだ、私、お酒飲んで酔っ払ったんだった。
思い出すと共に、顔色がサーッと青くなった。


「あ、あの、先輩!すみませんでしたっ」

私はその場で頭を何度も深く下げ謝った。
まさか、上司の前で泥酔するまで酔うなんて!
そんなに酔うこと滅多にないと言うのに!

先輩の姿を見れば、私のせいで眠れなかったのか、疲れたような顔をしている。


「…いや、もう、昨日のことはいい。それより」

「?」

「服の着替え持ってくるから、少し待っててくれ」

先輩はそう言って、立ち上がり部屋を出た。
私の服装を見てみれば、昨日のドレスのままで、しかも胸元がかなり空いている。
この姿では私も少々気まずい。


先輩って紳士だなぁ...。
私はぼんやり、そんなことを考えて、先輩を待つのだった。

















(ほら、シャワーも貸してやるから)
(ありがとうございます!先輩の優しさに感謝です…!)
(お前に聞きたい事がが山程あるからな)

((……嫌な予感))
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