白い息と紡がれる言の葉


顔に当たる風が冷たい、というより痛い。けれど、そんな痛みも忘れさせてくれる温もりが、右手から伝わってくる。俺の右手を握る左手は豪炎寺のもの。
豪炎寺と付き合ってから、いろいろあった。付き合い始めは手を繋ぐなんて考えられなかった。俺はいつも人の目ばかり気にしていた。豪炎寺はそんな俺に怒ることも、呆れることもせず、笑って返してくれた。
豪炎寺とのことを振り返っていると、いつの間にか、豪炎寺の家についていた。

「荷物は適当に置いて、夕食を作らないと…」

俺は荷物を豪炎寺の部屋に置き、台所へ向かった。俺はエプロンをつけ、包丁で食材を切っていく。この淡いピンク色の、ウサギがプリントされているエプロンは、豪炎寺の妹が選んだものだ。
豪炎寺は料理の本を眺めている。基本豪炎寺は料理をしない。俺が作って、二人で食べる。作っている間は、豪炎寺はずっと隣で俺を見ている。俺はその視線を無視する。俺も料理は得意な方ではない。集中していないと指を切る。

「っ!」

この通り。深くはないが、血が止まらない。

「大丈夫か?」

豪炎寺が心配そうに覗き込む。俺はああ、と短く返し、水道で流そうと水を出そうとしたが、怪我した方の手を豪炎寺が引っ張る。振り返ったときにはもう、指は豪炎寺の口元にあった。

「ご、豪炎寺!?」

豪炎寺は黙って俺の指を加える。体が熱くなっていく。血が止まると豪炎寺はひと舐めしてから解放してくれた。

「絆創膏を持ってくる」

そういって台所から逃げ出すように飛び出した。けれど、豪炎寺に腕を捕まれ阻止される。取りあえず自由がきく右手で顔を隠す。今は、見られたくない。

「可愛いな」
「う、うるさい」

豪炎寺はポケットから絆創膏を取り出す。持っているなら先に出せ、と思ったが、口にはしなかった。

「これでよし。何か考え事でもしてたのか?」
「なんでもいいだろっ」
「俺の事、考えていたのか?」

豪炎寺はまっすぐ見て問いかけた。俺はその目に捕らわれたが、すぐに顔を反らした。顔が熱くなっていく。風邪でも引いただろうか。いや、違う。この熱は…。

「今年の冬はずいぶんと暖かいな」

豪炎寺が、誰に話しかけるでもなく、呟いた。俺はまだ暖まりきっていない部屋の中では、息は白い。
けれど、不思議なことに寒さは感じなかった。






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