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思い立ったが吉日。
俺はリナリーに咎められたその翌日、すぐに森へと向かった。
まずは下見にと、とりあえずランプとコンパスだけを持って、立ち入り禁止の看板の脇をぬって森へと足を踏み入れた。
静かで、澄んだ空気。蒼く茂る木々の隙間から差し込む日の光が神々しく、本当に神が住んでいるかのように思える。が、引き返すつもりはない。
ラビはガサガサと草木を掻き分け、どんどんと森の奥へと突き進んでゆく。
「いてっ!」
歩みを止めることなく進むこと三十分。だいぶ深いところまで来たところで、不意に木の枝で指を切ってしまった。
つぅ、と人差し指から血が流れる。
と、その時。どこか柔らかな風が頬を撫で、ラビは辺りを見回した。
「なんか、今の風…」
切った人差し指を舐めてから、風の吹いてきた方角へと足を向けた。なんとなくだったが、それから数分も歩いたところで、ラビは驚きで目を見開いた。
「い、家?!」
小さな湖と、そのほとりには、なんと小さな小屋が立っていた。ラビはそろりと小屋に近付く。
「誰か、住んで…る、の、か?」
そっと窓から家の中を覗き込もうとした、 その時。
「何かご用?」 「うわ!!」
突如背後から声がして、ラビはこれ以上ないほど驚き、大袈裟なほどに肩を跳ね上げた。
「あ、あんた…この家に…?」 「そうですけど」
振り返った先にいたのは、絹のようなサラサラの銀髪の、象牙色の肌をした華奢な少年。 まるで危害はなさそうで、ラビは落ち着いて溜息をついた。
「こんなところに人が来るなんて珍しいですね」
銀髪の少年は、まじまじとラビの頭から爪先までを見ている。ラビもまた同じく相手を一見して、思ったことは「儚げ」の一言だった。なにせとにかく白いのだ。
「君、ここに住んでるの?」 「はい」 「ここ、立ち入り禁止のはずじゃ…」 「え?立ち入り禁止なら、あなたはどうして立ち入ってきたんです?」
白い少年はおかしそうに笑った。
「あ、いや、ちょっとね」 「綺麗な森でしょう」 「え?うん…ところで君ってさ、こんな森の中でひとりで住んでるの?」 「そうですよ」 「ふうん…。町には住まないんだ」 「僕、騒がしいの苦手で」
少年はそう言ってから自分の家を指さして見せた。
「お茶でもいかがです?久しぶりのお客さまだから、少しお話がしたいです」
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