3

思い立ったが吉日。

俺はリナリーに咎められたその翌日、すぐに森へと向かった。

まずは下見にと、とりあえずランプとコンパスだけを持って、立ち入り禁止の看板の脇をぬって森へと足を踏み入れた。

静かで、澄んだ空気。蒼く茂る木々の隙間から差し込む日の光が神々しく、本当に神が住んでいるかのように思える。が、引き返すつもりはない。

ラビはガサガサと草木を掻き分け、どんどんと森の奥へと突き進んでゆく。

「いてっ!」

歩みを止めることなく進むこと三十分。だいぶ深いところまで来たところで、不意に木の枝で指を切ってしまった。

つぅ、と人差し指から血が流れる。

と、その時。どこか柔らかな風が頬を撫で、ラビは辺りを見回した。

「なんか、今の風…」

切った人差し指を舐めてから、風の吹いてきた方角へと足を向けた。なんとなくだったが、それから数分も歩いたところで、ラビは驚きで目を見開いた。


「い、家?!」

小さな湖と、そのほとりには、なんと小さな小屋が立っていた。ラビはそろりと小屋に近付く。

「誰か、住んで…る、の、か?」

そっと窓から家の中を覗き込もうとした、
その時。

「何かご用?」
「うわ!!」

突如背後から声がして、ラビはこれ以上ないほど驚き、大袈裟なほどに肩を跳ね上げた。

「あ、あんた…この家に…?」
「そうですけど」

振り返った先にいたのは、絹のようなサラサラの銀髪の、象牙色の肌をした華奢な少年。
まるで危害はなさそうで、ラビは落ち着いて溜息をついた。

「こんなところに人が来るなんて珍しいですね」

銀髪の少年は、まじまじとラビの頭から爪先までを見ている。ラビもまた同じく相手を一見して、思ったことは「儚げ」の一言だった。なにせとにかく白いのだ。

「君、ここに住んでるの?」
「はい」
「ここ、立ち入り禁止のはずじゃ…」
「え?立ち入り禁止なら、あなたはどうして立ち入ってきたんです?」

白い少年はおかしそうに笑った。

「あ、いや、ちょっとね」
「綺麗な森でしょう」
「え?うん…ところで君ってさ、こんな森の中でひとりで住んでるの?」
「そうですよ」
「ふうん…。町には住まないんだ」
「僕、騒がしいの苦手で」

少年はそう言ってから自分の家を指さして見せた。

「お茶でもいかがです?久しぶりのお客さまだから、少しお話がしたいです」








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