4
ラビと知り合って半年も経った頃、家を訪問してインターホンを鳴らすと、ひどくしわがれた声が聞こえてきて、アレンはたじろいだ。 風邪をひいたのだという。
「うつしたらいけないから、今日は帰ってくれる?」 「よ、よかったら看病します…」
自分が何を言っているのかわからなかったが、自然と出てきた言葉だった。 ハッとしてすぐに訂正しようとしたのだが、ラビの返事は早かった。
「いいの?嬉しいさ」
なぜか胸が高鳴り、アレンは慌てて病人食の材料を買いにマンションを飛び出した。 粥やスープの材料を買い込み、駆け足でマンションに向かう。 小さな薬局を通りかかり、ふと足を止めた。そういえば風邪薬を買っていない。
「すみませーん…」
少し寂れた様子のその薬局の受付には、白衣を着た青年が一人。黒く長い髪を あろうことか、受付のカウンターに悪態をついて、煙草をふかしている。
「あ…の…。風邪薬を…」 「誰だテメエ」
客に向かってそれはないだろうと思った。が、口に出すこともできず、アレンはただただうろたえる。
「風邪薬が欲しいんです…けど…」 「へえ。で?」 「え、あの、ですから…」 「俺はここのクソッタレの店主に、ここで店を見張ってろと言われただけだ。何を欲しいと言われても、何をする気もねえな」 「え…そんな…」 「それにテメエ、顔色はたしかに悪いが、見たとこ風邪なんかひいちゃいねえじゃねえか」
青年はぐりぐりと煙草の火をカウンターに直接押し付けて揉み消すと、懐から煙草を一箱取り出し、それがもう空であるのに気付くと、不満げに眉をひそめた。
「チッ」 「僕の分じゃありません、その…友達の…」 「ふうん。こき使われてんのか、お前」 「違います!ラビは人をこき使ったりする人じゃ…」 「ラビ?」
青年がぴくりと眉を動かした。
「ラビって、赤毛で、眼帯の、垂れ目の…?」 「…え?し、ってるん、ですか?」 「ふん。ただの知り合いだ。あんなキチガイ野郎と、てめえみたいなモヤシ野郎が、どこでどう知り合ったか知りやしねぇが、知り合いのダチのよしみで薬はくれてやる」
そう言って青年は店の奥へと姿を消し、間も無く戻ってきて、アレンに薬の入った小包を投げてよこした。
「あの、お代は…」 「いらねえ。後日あのキチガイ野郎が自発的に金持ってくるさ」 「ただで貰ったなんて言いませんよ!気を遣われる…だから僕がちゃんと払いますから…」 「タダで貰ったと言おうが言うまいが、奴は後日に自発的に金持って此処へ来るさ」
言っている意味がわからない。アレンは首を傾げた。
|