ハルには、大好きなものが二つあります。
一つ目は、甘いもの。もう一つは、大好きな人。
でも、最近、変わってきつつあります。
――なぜ?
「おい、アホ、起きろ」
「は、はひっ!?」
聞きなれた声に飛び起きると、そこには昔から少しも変わらない、銀髪の少年の顔がありました。
獄寺隼人さん。大好きな人の――右腕。
「おはようございます、獄寺さん!」
「何言ってんだ、もう昼過ぎてんぞ、っていうか何でこんなとこにいるんだよ」
言われて辺りを見渡すと、そこはボンゴレのアジトの中にある、地下のカフェバーでした。
「あれ?・・・・そういえば、なんででしょう?」
「はぁ?・・・ついにボケ始めたかアホ女」
その言葉に、ムカっときました。
「ちょっと!大人のレディーに向かって、それはないんじゃないですか!?」
すると、獄寺さんは咥えていたタバコを外してため息をつきました。
「大人、ね」
そりゃあ。そりゃあ、確かに、獄寺さんみたいに、ただそこにいるだけで落ち着いている雰囲気みたいなものは出ないですけど。
「ったく、さっさと出ろ」
「あ、まってください、ごくでらさっ」
出ていく彼を追いかけようとしたその時、盛大にハルのお腹が鳴りました。
「・・・・・・あ」
「・・・・しょーがねぇな」
獄寺さんはそういうと厨房に立ちました。
「あの、獄寺さん」
「座れ。お腹減ってんだろ」
減ってます、けど・・・。
「獄寺さん、料理なんてできるんですか」
疑問を口にすると、獄寺さんはアホ、と毒づいた。
「俺だってもうガキじゃねーんだよ」
「・・・・そうですか」
「黙って座っとけ。あー、寝るんじゃねぇぞ」
「わ、わかってます!!」
ああ、どうしていつもこうなっちゃうんでしょう。ハルはただ、普通に――獄寺さんと話がしたいだけなのに。
何年たっても、これだけは変わりませんでした。
「何がいい」
「はひっ!?えーと・・・ですね・・」
突然聞かれて、とっさにおいてあったメニュー表を見ました。
「・・・・サンドイッチ・・・ですか」
「わかった」
そういうと、手慣れた手つきで、彼はサンドイッチを作ってゆく。
「ほらよ」
「はひっ」
出てきたものは、レタスとトマトと卵とベーコンが乗った、オープンサンドイッチでした。
「なんか飲みたいもん有るか」
「はひっ、・・・そうですね、じゃあ、紅茶」
すると、素早くポットでお湯を沸かし、数分後には紅茶も並びました。
獄寺さん、まるで魔法使い、みたいです。
口には、出しませんでしたけど。
「ほら、食べろ」
「・・・いただきます」
食べる前に、紅茶に角砂糖を一つ、また一つと落とします。
「お・・・お前、正気か」
「はひっ、ハル、何かいけないことしましたか?」
「紅茶にそんなに砂糖入れて、飲めんのかよ」
ふん。そんなの、ハルの勝手です。
「いいじゃないですか。・・・・甘いの、好きなんです」
昔も、今も。甘いものが、大好きです。
・・・・でも、大好きなものの一つは、今では苦い記憶にすり替わってしまいました。
「・・・・おいしい」
食べてそういうと、目の前の彼はどうだ、と言わんばかりの顔をしました。
「・・・・そういえば、獄寺さんは、苦いものが好きですよね」
「あ?・・・・まあ、な」
タバコをふかしていた獄寺さんは、いつのまにかコーヒーを沸かして飲んでいました。
「ハルと、正反対・・・」
この苦い記憶を、彼に与えられたらいいのに。そうすれば、ずっと、何も知らなかったころの甘い気持ちのままでいられるのに。
「・・・・」
その時、突然、獄寺さんはハルの紅茶を一口飲みました。
「・・・・な、」
あまりのことに口をぱくぱくさせていると、獄寺さんは顔をしかめて舌を出しました。
「・・・まっず。飲みもんじゃねぇだろ、これ」
「だ・・・だったら、」
反論しようとした言葉は、次の瞬間、獄寺さんの言葉にかき消されてしまいました。
「でも、お前はこれが好きなんだろ。別にいいじゃねーか。好きなものは好きで」
「・・・・・」
びっくりしました。彼は、いとも簡単に、ハルの悩みを取り除いてしまったから。
「・・・・獄寺さん」
「あ?」
「・・・・ありがとう、ございます」
ああ、やっぱり、好きなものは好きです。大好きなものは、大好きなまま。
ふと、その時、思いました。
「・・・・獄寺さんも、結構甘いですね」
「そうかよ。・・・・って、は?」
だって、ハルを起こしに来てくれて、ハルにご飯を作ってくれて、励ましてくれて・・・って、あれ?
「・・・・獄寺さん、ハル、聞いてないことがありました」
「何だよ」
「・・・どうして獄寺さん、ここにきたんですか?」
そういうと、見る見るうちに彼の顔が赤くなってしまいました。・・・ああ、何だ。やっぱりまだ、彼も・・・大人ですけど、変わってないところは、ちゃんとあるんですね。
「・・・かわいいですね」
「ばっ・・・みてんじゃねぇ、アホ女!」
「ふふっ」
ハルには、大好きなものが二つありました。
一つは、甘いもの。もう一つは、今も大好きな、十代目。
でも、そのうち、もう一つ増えるかもしれません。



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素敵な企画、ありがとうございました。
私個人では、この二人の関係は甘くないようで甘いものだと思っていました。なので「角砂糖」を選ばせていただきました。

カフェ企画ということでしたので、いろいろ考えた結果、このような形になりました。
お互いのことをわかっているようでわかっていなくて、でも変わらない二人の関係が大好きです。
拙い作品ですが、獄ハル好きの方々と喜びを共有できたら幸いです。

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ハルの気持ちの変化、獄寺のぶっきらぼうな優しさ、獄ハルに求めたいものがまさにここにあります。獄ハル好きさんの中にも、それぞれの理想や重要性を置く箇所には違いがあるかと思いますが、この二つはなかなか外せない要素なのではないでしょうか。

「苦い」と「甘い」というキーワードにテーマである角砂糖が効果的に使われていて、お題を決めた者として嬉しく思います。
…それと、個人的な好みですが。手際よくサンドイッチを作る獄寺さんにすごくときめきました。かっこいい…!

10年経っても相変わらずなやり取りを交わす二人の今後が気になるところです。

橘薄荷様、素敵な作品をありがとうございました!


Ǐ
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