(sideクラスメート)
恒が学校に来なくなって、もうずいぶん立った。
保健室には来て、先生からのプリントなんかを受け取っているから、進級には問題はないんだろうけど、やっぱり学校に、クラスに来て欲しい。
保健室だから、正確には学校に来ていることになるけど、それでもだ。
「恒、今日もこないね」
「ああ、」
誰もいない、恒の机を見て、クラスメートの何人かがため息を漏らした。
恒が保健室に来ているということを、担任は俺たちに教えてくれない。
その日の帰りのHRで報告するだけだ。
俺たちを恒に合わせたくない理由でも、あるのだろうか。
「いたっ!」
そんなこんなでぼーっとしていた俺は、美術の時間に彫刻刀で指を切ってしまった。
「あーーー、先生。保健室行ってきます」
なかなか止まらない血に、先生は「行ってこい」と送り出してくれた。
保健室なんて久しぶりだ。
「せんせーー手ぇ切ったから手当よろしく」
いつものように、少々手荒に扉を開けた。
普段なら「優しく開けんか」と、先生のツッコミが入るのだが、今日はなぜかそれがない。
居ないのかと思い、顔を上げた俺の目に写ったのは、会いたいと思っていた姿。
「……………恒っ!!」
『!!』
保健室の丸椅子に座り、ノートを広げている恒。
曲を聞いていたのか、その手元にはiPod。
恒は歌を歌うのがうまかった。
音楽の時にしか聞いたことはなかったが、その声は忘れられない。
「久し、ぶりだな」
『……(コクン)』
「大丈夫だったのか?その、ご両親…」
酷い事故だったらしい。
恒も側にいて、それを目撃した。
俺にはわからない。
それが、それがどんなに辛いことかだなんて。
「教室には、来ないのか」
『(コクン)』
「…恒??」
そう言えば、恒は先程から一度もしゃべっていない。
普段の恒ならありえないことだ。
俺が不思議に思っていることが分かったのか、恒は少し眉を下げ、携帯を取り出し文字を打つと、俺にそれを見せた。
『(僕、声が出せなくなっちゃたの)』
「っ!!」
声が出せなくなったと言う事実と、
苦笑いのような、泣きそうな表情。
そうか、
だから教室にこないのか。
でもやっぱり俺は、
「…みんな、会いたがってる」
だから、
「教s「マスター、迎えに来た。帰ろう」」
教室にいかないか・と言いかけた俺の声は、誰かの声にかき消された。
振り向けば見たことのない顔。
マスター…って、恒のことか?
「…担任の先生が渡したいものあるって、職員室いってきなよ。荷物の準備しとく」
ひとつ頷き、職員室へ向かった恒。
残された俺は、目の前の名前も知らない誰かに、ただただ胸の奥に嫉妬心が燻っていた。
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