標的は風を切る羽


どこまでも青い空に目眩がした。微風に揺れる木々に心がざわつく。人間の世界とはこんなにも美しいものなのか、とバリアン世界とのあまりの違いに目を見開いた。

「…バリアン世界を救えたら、あの様になるのだろうか」

先程の景色が脳裏から離れず、ついそのようなことを口走ってしまった。このような世迷い言を聞かれたら、アイツに笑われてしまう。辺りを見渡したが、私の心配は無用だったのか、真っ赤な空と鋭く尖った岩が広がっているだけであった。安堵の息を吐いた直後、背後から聞き慣れた声が響く。

「誰を探してんだァ?○○?」
「…ベクター」

絶妙なタイミングで現れるベクターに、聞かれていたと肩を落とす。にやにやと目を歪ませるベクターが憎い。

「ヒヒャ!お前馬鹿だろ」
「うるさい。それより、サルガッソでの作戦は失敗したんだろう。今度はどうするんだ?」

私の話を聞いているのかいないのか、ベクターは指で私の髪を絡めて遊ぶ。長い爪が皮膚を掠める度に身を震わせると、紫の目が楽しそうに笑った。

「回りくどいやり方はもう止めだ。九十九遊馬とアストラル諸共、○○がだァい好きな人間界は、俺がぶっ潰してやるよ。ンヒャハハハ!」

何でもないような振る舞いをしているが、腹の中は煮えくり返っているらしい。ベクターの本音を垣間見ることができ、口元が緩む。だが、あんなにも美しい人間界を壊すことは絶対に許さない。
風を切りながら飛んでいくベクターの羽をむしり取ったら、少しは大人しくなるだろうか。

『風切羽』様の名前をヒントに書きました。鳩さんへ捧げます。相互リンク、有り難う御座いました!
130509

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