彼は戻ってきた


今日は珍しく朝練が無かったため、いつもよりも遅く家を出ることが出来た。いつもの新鮮な空気とは違い、なんだか濁っているように感じるのは、人が多いせいだろう。俗に言う通勤ラッシュに私は巻き込まれている。人通りの少ないこの道も、人を避けながら歩かなければいけないほど混雑していた。こんなことならいつも通りに家を出れば良かった!
後悔という不快感を胸に抱いているとき、懐かしい後ろ姿を人混みの中に見つけた。間違いない、あれは……、

「久しぶりだな、凌牙」
「!?」

驚いて振り向く彼に安心する。この大勢の中から知り合いを見つけられて安心したのではない。彼が昔のような優しさを取り戻したことに安心したのだ。顔を見ただけでそれは一目瞭然だった。少し前に会ったときは、嫌悪感剥き出しの瞳で睨まれたからな。凌牙の年齢では誰もが経験する、反抗期というやつだと思ったが、璃緒のことを聞いてそうではないと確信した。彼は、心を閉ざしたのだ。全てを敵と判断したのだ。
私は女だから、きっと凌牙を救えない。彼を変えること、いや、戻すことが出来るのは同じ男にしか出来ないことなのだ。…私の持論だがな。
そう思って放置していたが、どうやら彼を戻すことが出来た男が現れたらしい。是非会ってみたいものだ!

「○○、部活はどうした?」
「今日は休みだ。それより凌牙、明後日私の高校で学園祭があるんだが、君を救った子と一緒に来てくれないか?」
「なっ!?なんで俺が遊馬と…!」
「そうか、遊馬君というのか」
「っ…とにかく行かねぇからな」
「ふふ」

昔のように凌牙と話せている。実に愉快だ。
笑いが止まらず怒られてしまったが、彼も満更でも無さそうなので余計おかしくなってくる。
ああ、今日はとても良い日だな。

130602

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