あなたが望むなら 07
その音を確かに聞きながら、高杉は静かに振り返った。
また子は俯いて、着物の裾で目を擦っている。その姿を見て高杉は、獣のように呻き続けている混沌とした己の心に、このときだけ高杉晋助という一人の男の想いが占めるのを感じた。
それでも今は、この呻きが止むまで止まれないから。
高杉は表情を変えぬまま、また子に近付き、
「こんなうざったい髪、戦闘の邪魔だ。結んでおけと言ったはずだ」
と言い、布団に潜っていたからか髪がボサボサになっているまた子の頭にポトリと何かを落とした。
「…………?」
また子がおそるおそる顔を上げると、目の前に高杉が見えた。
「しっ、晋助様!」
驚いて仰け反ると、頭に乗っていたものが床に落ちてしまった。また子が不思議そうにそれを見ると、パッと顔を上げた。
「……用件はそれだけだ」
「晋助様……っ!」
きょとんとしていた顔が、みるみるうちに笑顔に変わった。それを見て高杉は、平然を装い煙管を吹きながら去っていった。
「大好きッス!」
また子はそれを拾い、きゅっと両手で握った。
小さなハートの付いた、髪留めを。