あなたが望むなら 05


 万斉は確かに感じていた。だんだんと近づいて来る力強い音を。



「晋助様!」



 万斉、そして高杉の後ろから発揚とした高い声がする。この時間帯、奥の部屋に居たのは、また子一人。



「おめェ――――!」


「あ! 振り返らないで下さいッス!」


 僅かに動揺の声を見せ、首を動かそうとした高杉に、また子が制止の声をかけた。


「私は晋助様に近付くなと言われた身ッス。でも、遠くからなら、少しだけ……話してもいいッスか?」


 それを聞いた高杉は、驚きながらもククッと喉を鳴らした。


「……とんだ屁理屈だな」


 高杉の鋭い声色が響き、また子はまずかったかと思い目を泳がせる。


「構わない。それに、俺も言おうと思っていたことがある」


 そんなまた子の様子を知ってか知らずか、高杉はそう付け足した。


「は、はいッス」

「……」


 また子の言葉を待つかのように、沈黙する高杉。


「……」


 それに対し、自分から話してもいいのかと思考を巡らせるまた子。


「……」

 そんな一組の男女に挟まれ、呆れ顔の万斉。


「……双方、言いたいことがあるんでござろう」


 痺れを切らした万斉は静かにそう言い、高杉の前を歩いて去っていった。

 晋助はああ見えて照れ屋で素直でないから、また子殿も苦労しそうでござるな――。




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