あなたが望むなら 04
「晋助、何か奥の部屋に用でもあるでござるか?」
また子の部屋を出てから少し歩いたとき、万斉は高杉がこちらへ歩いてくるのを見つけた。
「……いや」
高杉は短く返事をすると、万斉に背を向けた。万斉はそれを引き留めるような仕草はしなかったが、その背に向かって問いかけた。
「まだ意地を張っているでござるか」
「……何の話だ」
高杉は背を向けたまま、この場から去ろうとした足を止めた。
「先日の真選組襲撃のときにも、何も言わなかったようでござるが……」
万斉はつき指した指を少し擦りながら、ついこの間の戦いを想起した。普段なら文字通り鉄砲玉となるまた子を戦闘に加えたはずだった。
「あんな怠けた奴を戦いに出せるとでも?」
「晋助……」
万斉は、小さな子供に簡単な足し算を教えるように諭した。
「紅桜のとき、似蔵殿は人間の身体能力を超越し、いわば化け物状態になっていたでござる。あれに真っ向勝負して怪我を負わないというのは無理な話でござるよ。むしろあの程度で済んだのは幸運でござる」
万斉は鬼兵隊結成当時から、高杉とまた子の音を聴いてきた。
高杉にはまた子が必要。
万斉はそう思っている。
一緒になったことで、高杉の過去が報われることはないだろう。それでも万斉は、もう二人の悲しい音を聴くのはうんざりだった。
「……大丈夫でござる。また子殿は、晋助が思っているほど弱くはないでござるよ」
万斉は僅かに口角を上げた。高杉はまだ背を向けたままであったが、その表情は何となく予想出来た。