あなたが望むなら 01
「晋助様っ!」
部屋の戸を勢いよく開けて、また子は真剣な表情で入ってきた。窓際に座っていた高杉は、三味線を弾いていた手をピタリと止めた。
「勝手に入ってくるなと言ったはずだが」
高杉が切れ長の瞳をまた子に向ける。普通にしていても睨んでいるように見えるその目線に、また子は怯えたように体を強張らせる。
また子はまだ、このような瞳に慣れていない。それでも高杉の瞳に自分が映っていることは嬉しく感じられる。
「すっ、すいません! でも……どうしても納得できないんス!」
高杉に真摯な瞳と意見とをぶつけ、一呼吸置いた。そして今度は眉を歪めて目線を俯かせる。
「どうして……紅桜の件があってから、私を使ってくれないんスか?」
また子の切なげな声にも、高杉は表情を変えない。また子は自身の着物の裾を、クシャッと手で掴んだ。
「あの時私が似蔵を止められずに、深手を負ったからなんスか? だったらもうあんな失態はおかさないッス! だから……」
「言っただろう、俺ァ仲間っていうものが死のうが何しようがどうでもいいんだよ。でもな、半端に弱い奴がノコノコ行って敵に捕まったら面倒だ」
高杉の目はもう、また子を映していなかった。それがとても悲しく感じられた。
「捕まるだけならいいが、そいつがもしベラベラと俺達の情報をだだ洩れにしたなら話は別だろ?」