プロローグ 02


「つくづく酔狂な奴だな……一人で乗り込んできたと思ったら、仲間にしてくれだァ?」


 高杉は付近にあった樽に腰をかけながら、含み笑いをした。
 青年はそれに同調することなく、一般人なら一瞬怯んでしまうような一瞥を高杉にくれた。


「そうです。これを断ったら、明日の朝には鬼兵隊の皆さんに、お縄がかかっているかもしれませんね?」

「へぇ、脅してるつもりか?」

「そう聞こえましたか? まぁ、承諾すれば良い話です」


「幕府の犬に告げ口される前に、その口聞けなくされれば元も子もねェ話だ……とは思わなかったか?」


 高杉が妖艶な笑みを浮かべた瞬間、二人の男だけが居た空間に乾いた音が響いた。



「それは思わなかったですね」


 青年は目に見えない程の速さで刀を抜き、


「だって」


 背後からの奇襲に向かい、刃を突き立てた。



「そんなことはあり得ないですから」



「くっ……」


 青年の後ろから聞こえたのは、断末魔の叫びではなく、布が切り裂かれる音だった。

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