Halloween | ナノ







吸血鬼さんが来て早一週間…この短い間に、身近居た人が人間ではなかったと発覚した人数は3人、新たに出会った狼男は1人、それに協力している人間が2人…

吸血鬼さんや忍足くんみたいに、特有の能力を見せられると、やはり人間ではないと思わされるが、今までは普通の人間だと…
いや、そういう思考にすら至らない程、人間の生活に馴染んでいて、未だ時折、夢の中に居るのではないかと錯覚する。



「先輩とはどうなんですか?」

『え?』

「変な事されたりしてませんか?」



大学の帰り、何となく叔父さんの本屋に寄ると、新しい本を仕入れたばかりだが、店長も居ないので手伝って欲しいと光くんに頼まれた。

そんな光くんが、ダンボールから出す作業をしながら訊ねてきた。



『別に何も…ご飯作ってくれて、最近だと部屋の掃除とかもしてくれてるかなぁ…』

「何や、ただの家政婦やないですか」

『そうだね〜。でも、されてばかりもなかなか気を遣うよ?』

「名前さんの家なんやから、堂々としたらええのに」

『女の立場の話だよ…』



カッターの刃を仕舞いながら、「ああ…」と納得した様子の光くん。



「でもほんま…珍しいわ」

『何が?』

「あの人が、店長とか小春先生以外の人間に、こない深い付き合いするなんて、初めて聞きましたわ」

『へぇー』

「暢気に返事しとりますけど、それだけ危ないっちゅー事なのわかってますか?」



ダンボールの中から本を取り出しながら、呆れた顔をする光くん。



『だって吸血鬼さんの目当ては私の血ですから』

「それもそうやけど、あの人かて男な訳やし…」

『大丈夫ですよ、そういう素振り無いし…そもそも、私なんかそういう目で見る人なんか居ませんよ』

「そういう所が危ない言うてるんですって…」



そう言って溜息を吐く光くんに笑ってみせる。



『それに、それを言ったら光くんと二人だけの今だって危ないじゃないですか。光くんだって吸血鬼で男でしょ?』

「せやから俺は血吸わんて…」

『あ、それ。気になってたんですけど、光くんはなんで血を吸わなくても大丈夫なんですか?』



この前、光くんの正体を知ってから会っておらず、聞くタイミングが無かった。
光くんは「うーん…」と何か考え、空いたダンボールをたたみながら答えた。



「俺、吸血鬼と人間の半々やないですか。せやから、吸血鬼の血が薄いんですよ」

『人間寄りって事?』

「どちらかと言えば。せやから、血を吸う力はあるけど、別に吸わんでも生きていけるし…ほな人間との違いは何かっちゅーたら、普通の人間より老いるのが遅いってだけの話で…」

『でも血は吸った事あるんでしょ?やっぱり美味しい?』

「んー…何とも。ただ、栄養ドリンクの比やないくらい、体が元気になりますね」



光くんの話に、吸血鬼さんの話を思い出した。

吸血鬼さんは薬か何かを飲んだ人の血を吸ったらしいが、血を吸っただけでそんなに元気になるなら、薬の成分が混ざった血を飲んだ吸血鬼さんが半狂乱になって、忍足くんと喧嘩するのも無理は無いなと、苦笑いを浮かべてしまった。



「まぁ俺は、2、3回位しか吸うたこと無いんやけど」

『なんで吸わないの?』

「吸う必要が無いし…他人の血を"吸う"って嫌やないですか?」

『うーん…何となくわかる、かも』



紙で指を切って出た他人の血を舐めとるのとは違い、他人の血を吸う…感覚的には飲むのと同じ様な感じかな?と、勝手に想像してみたが、例え小さなお猪口一杯の血液ですら飲める気がしない。



「その点、先輩は今時の吸血鬼の中やと、かなりの力の持ち主ですよ」

『そうなの?』

「どの力も、身体能力も、知識も…たぶん、今存在しとる吸血鬼の中でもずば抜けとる」



「せやから気ィつけてくださいよ、言うてるんです」と、解体したダンボールを重ねる光くん。



『そうだね…痛っ!』

「っ!大丈夫ですか?」



そんなに凄い吸血鬼だったのかと思う反面、やはり真の姿は危ないのか…なんて考えていると、カッターの刃で親指を切った。
光くんはダンボールを跨ぎ、私の元に来ると怪我した手を取り、顔をしかめた。



「何やってはるんスか…」

『ご、ごめんなさい…』

「…」



溢れた血が伝う私の親指を、厳しい表情で見つめる光くんに、とりあえず血を拭くか洗うかしようと、手を引っ込めようとした。
が、次の瞬間に、光くんは私の親指を口に含んだ。



『なっ!?ち、ちょっ…光くん!?』



突然の行動に動転していると、親指に絡む光くんの舌の感覚に、背筋が震えた。
傷口に当たる痛みすら快感のようで、思わず声が漏れそうになるのを堪える。

私の様子に気付いてか、口を離した光くんは「すんません…」と謝った。



『あ、あの…えと…』

「…あ、すぐに消毒します」



光くんはそう言うと、カウンターの奥から救急箱を持ってきて開いた。
また私の手を取ると、「染みますよ」と消毒液を傷口に掛けた。



『いっ…』

「我慢してください、すぐやから」

『う、うん…』



薬を塗り、大袈裟だがガーゼをあてて包帯を巻くその手際の良さに、ふと吸血鬼さんが頭に浮かんだ。

すると、お店のドアベルが鳴った。



「どうも〜…って、ちょ…名前ちゃん、どないしたんや!?」

『吸血鬼さん…』

「カッターで指切ったんスよ」

「ほんまか…大丈夫なん?」



入ってきた吸血鬼さんは、私を見るなり駆け寄ってきた。
心配そうに私の手を取って撫でる吸血鬼さんに、『光くんがちゃんと処置してくれたので、大丈夫ですよ』と笑ってみせると、「そうか…」と心配そうだった表情が少し和らいだ。



『光くん、ありがとう』

「すまんな、光」

「別に…」



ぶっきらぼうに返事をして、道具を仕舞った救急箱をカウンターに戻しに行った光くん…照れるといつもこう。



「名前ちゃん、気を付けなアカンやろ?」

『すみません…』

「包帯て…そない深いんか?」

『結構血出てました』

「勿体無い…俺が居ったら味見しとったのに」

『私の心配より血の味の心配ですか』



吸血鬼さんを睨むと「冗談やて、冗談」と笑って誤魔化された。



「ま、同じ吸血鬼や言うても、光は血好かんからな」

「先輩の言うとおり、名前さんの血、独特な味しますね」

「せやろ?この味が…は?今、何て…」

「癖になるのもわかりますわ」



吸血鬼さんは光くんの顔を見ると、ハッと我に返って私の首筋を確認した。



「傷口から出た血舐めただけやから、安心してくださいよ」

「なっ…ま、紛らわしいわ…」



ばつが悪そうに光くんを横目で睨んだ吸血鬼さんは、「帰るで」と私の手を引いた。
慌てて立ち上がると、吸血鬼さんが操っているのか、私の荷物が勝手に手元に来た。



『ご、ごめんね、光くん』

「いいえ。ほな、また…」



私は新しい本の作業もそのままに、吸血鬼さんに引っ張られるがまま、店から出た。



「…血、もう薄ないやん」



□□□□□□



『そう言えば、お店に何しに来たんですか?』

「オサムちゃんに話があったんやけど…店に入った途端、名前ちゃんと光が手に手を取り合って見つめ合うてたからな…」

『処置してもらってただけです!』



こういう風にからかわれるのも、無理矢理手を引かれて歩くのも、もう慣れた…が、やはり外では人目もあり、なんだか気恥ずかしい。



「どうやろねぇ…」

『何ですか、その疑ったような口振りは…』

「…あ、名前ちゃん、今日の夕飯は何がええ?」

『そうやってまた話を逸らす!』



悪戯そうに笑ってみせる吸血鬼さんに、思わずこちらも笑ってしまう。



「名前ちゃんかて、俺の年齢聞き出そうと騙そうとしてくるやん」

『それとこれとは…別です』

「同じやて。寧ろ、年齢という個人情報を侵害しようとしとる名前ちゃんの方が質悪いわ〜」

『吸血鬼さんこそ、そういう誤解される私や光くんの気持ちも考えてくださいよ』

「名前ちゃんはともかく、光はどうやろな」



少し声のトーンが低くなった吸血鬼さんに『え?』と首を傾げる。



「吸血は好かん言うても、光も吸血鬼の端くれやからな…本能には逆らえへん事もあるはずや」

『でも…あ、』



さっきの事を思いだし、もしかしたらあれは吸血鬼の本能がさせた行動だったのか?と、吸血鬼さんの言葉で納得した。



「あ、って何や?やっぱさっき、何かされたんやな?」

『さっき私の血を舐めたのは、そういう事だったのかなぁ…って』

「…名前ちゃん、隙あり過ぎや。もうちょい気を付けな…俺が言うのもあれやけど」

『ですよね…自分でも思います』



たった一週間前には、不法侵入者の吸血鬼に勝手に住み着かれて、どう退治しようか考えていたのに…
今は、いつの間にか恋人のように繋がれた手を引かれて、外を歩いている。

また、これは夢なんじゃないかという錯覚に囚われた。



『…』

「急に黙って、どないしたん?」

『いや…何で私の周りに、こんなに非現実的な事が多いんだろうって…なんか、夢の中みたいで』

「ほな俺は、実際には存在せえへんくて、名前ちゃんの夢が覚めたら消えるっちゅー事やんな」

『…たまに、わからなくなります』



微笑みをたたえたままの吸血鬼さんに、いつかも訊いた質問をする。



『私、どうして吸血鬼さんをすんなり受け入れたんでしょう…吸血鬼さんは私の気持ちを操ってないって言ってましたよね?』

「そうやね」

『吸血鬼さんと一緒に暮らしてる事に、何の違和感も感じないんです…寧ろ、これが普通なんだって思う位に…何なんですかね、この感覚』

「…それは、」



立ち止まった吸血鬼さんにつられて、私も足を止め、高い位置にある綺麗に整った顔を見上げると、その優しそうな目と視線が合った。



「名前ちゃんが、それを望んだからや」

『え…?』

「名前ちゃんと初めて会うた時…覚えてる?」



吸血鬼さんが配達員として家に来た時…まだ、吸血鬼さんの名前も正体も知らなかったあの日、確かに私は非日常を望んだ。



「せやからあの日の夜、俺は名前ちゃんを選んだ。名前ちゃんが俺を引き寄せたんや」

『私が…吸血鬼さんを?』

「せやから、名前ちゃんがこの生活が嫌になったら、何もかも俺達が出会う前の状態に戻したる」

『それって、どういう…』



吸血鬼さんは優しそうな微笑みで言った。



「名前ちゃんの中の俺らに関する記憶を消して、俺は名前ちゃんの血だけを頂いて、目の前から消える…それがルール」

『ルール?みんなの事、忘れちゃうんですか…?』



その微笑みが、いつか見た悲しげなものに変わった。



「忘れるのは、俺の事だけや」





吸血鬼の世界





「さ、早よ帰ろ?」


繋いだ手が、離せなかった。



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今更ですが、みんな年齢操作有りです。


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