Halloween | ナノ






『おはよーございま…あれ?』



昨晩は吸血鬼さんと忍足くんの仲直りもあり、3人で深夜まで盛り上がった。
という事で、今日も遅めの起床…寝ているであろう吸血鬼さんに気を遣い、静かにリビングに入るが、ソファーにいつもの姿はなかった。



『部屋で寝てるのかな?』



私が寝室として使っている部屋の隣は使っておらず、吸血鬼さんはそこを自分の部屋にした。
吸血鬼さんはここに来てから、ずっとソファーで寝ていたが、そろそろ部屋で寝てもらわないと困る…

今日は朝食も用意されてないみたいだし、寝かせておいてあげようと、私は静かに洗面所への戸に手をかけた…



『っ!?』

「お、すまん名前ちゃん…おはようさん」



私が開けようするより先に、戸の方が先に開いた。
びくっと肩を跳ねらせると、戸の向こうに現れたのは吸血鬼さん…



『…』

「…ん?どないし

『失礼しました』



開いたばかりの戸を思いっきり閉めると、暫しの間の後、向こう側から「ええ〜っ?」と言う声が聞こえた。



「なんで閉めるん…」

『服着てください、服』

「え…ああ、そういう事か…」



目の前にいきなり、ボクサーパンツ一枚で出てこられ、筋肉質な綺麗な体を見せつけられ、気まずさと恥ずかしさで顔が熱くなる。

扉越しに布の擦れる音がして、「着たで〜」の声に戸を開けた。
吸血鬼さんの濡れた髪に、お風呂に入ったんだとわかった。



『服を着てから出てきてくださいよ…』

「すまんすまん…いっつも、名前ちゃんが寝とる時とか、居らへん時に入っとるから…つい」

『…私が居ない時に私の部屋の中を裸でうろうろしないでください!』

「うん、覚えてたら気を付ける」



守る気なんてこれっぽっちも無さそうな返事をしながら、洗面所から出る吸血鬼さん…白いうなじにチラつく濡れた毛先が、やたら色っぽく見えてしまって、思わず目で追ってしまった。



「朝ご飯今から作ったるから、ちょぉ待っといてな」

『あ、あのっ』

「ん?何か食べたいもんでもある?」

『そうじゃなくて…朝ご飯、外で食べませんか?』

「外で?」



私の方を振り返って、首を傾げる吸血鬼さん。
近くで見上げると、思っていた以上に大きな身長に気が付いた。



『つ、作ってもらってばかりだし、昨日は遅かったので…どこか奢ります』

「女の子に奢ってもらうのもなぁ…」

『…昨日、いきなり襲った上に肘鉄までしちゃって…でも、お詫びとか思いつかないので…』

「別にそんなんええのに…」



私が吸血鬼さんに対して、何ができるだろうと、ふと思いついた事を提案してみる。



『じゃあ、お詫びに私の血、少し吸ってもいいですよ』

「それは魅力的なお話やけど…」



申し訳なさそうな笑顔に断られ、どうしようかと俯くと、「うーん…」と何か考えるような声。



「ほな、俺とデートしてもらおかな」



□□□□□□



『動物が苦手なら、最初からそう言ってくださいよ』

「苦手ちゃうよ。動物の方が俺の事苦手なんや」

『ペットショップの動物達が吸血鬼さんを見た瞬間、暴れ出した時はどうしたのかと思いましたよ…』

「動物にはわかるみたいやな、俺が普通の人間やないて」



外でブランチをした後、吸血鬼さんの要望で私の行きたい所に行くことになった。
それがペットショップだったのだが、店内の動物が吸血鬼さんを見た瞬間、吠えて威嚇し始めた。



「黙らせる事もできたんやけどな」

『どうしてしなかったんですか…周りの目が酷かったのに…』

「名前ちゃんが、あんま変な力使うな言うからやん」

『え…』



確かに普段、心の声を読んだり、いきなり目の前に現れて脅かしたり、そういうのはやめて欲しいが…こういう時は別問題で、吸血鬼さんは変な所が抜けている気がした。
でも、私の言葉を守ろうとしてくれている辺り、やっぱり悪い人には思えない。



「他に行きたい所あらへん?」

『急に言われても思い付きませんよ…そっちが誘ってきたんですから、吸血鬼さんが決めてください』

「えー、ほな…」

『やっぱ駄目です。変な所に連れて行かれそうなので』

「名前ちゃんは俺にかなりの偏見を持っている事が、ようわかったわ」



「本屋に行きたかったんやけど」と言う吸血鬼さん。
街中を二人並んで歩いている姿は、どう見ても普通の人間にしか見えないはず。



『本屋さんなら、もう少し行った所にちょっと変わったお店ありますよ』

「ちょっと変わったってどういう…」

『普通の本はあまり置いてなくて、古本から新刊まで、珍しい本なら手当たり次第ってお店です』

「手当たり次第って…なんでも揃っとるっちゅー訳やないんや?」

『私の叔父さんがやってる本屋さんで、その叔父さんもちょっと変わった人なんです。私、春から3ヶ月間、そこでバイトしてたんです』



「へぇ〜」と興味ありげなリアクションの吸血鬼さんの方を見ると、目が合った。



『なんですか?』

「ほんまのデートみたいなぁ、なんて」

『デ、デートしろって言ったのは吸血鬼さんです…』

「嫌々感が否めない…俺の事退治しようとしたり、俺の事嫌いなんか?」

『す、好きとか嫌いとかじゃないです!』



答えにくい質問を突っぱねる様な態度をとってしまった。
何か言いかけた吸血鬼さんだったが、『ここです!』と、目の前の本屋を指差した。


「へぇ…本屋っぽくないな、見た目」

『そうなんですよ…それに、珍しい本ばかりなので、マニアのお客さんが多いんです』



お店の中に入ると、「いらっしゃいませ〜」と、気怠そうな声が聞こえてきた。



「名前さんやないで……は?」

『光くん、久し振り』

「どーも」



カウンターの椅子に座った光くんは、私達の方を見て固まる。
吸血鬼さんと一緒だったからかと、説明しようとすると、光くんは顔をしかめた。



「なんであんたが名前さんと居んねん…」

「久しぶりやな、光」

『え?知り合いですか?』



この流れはどこかで…そう、忍足くんだ。
まさか…と思いつつ、吸血鬼さんに『もしかして光くんも?』と小声で訊くと、笑ってみせる吸血鬼さん。

溜息をついた光くんは「店長〜」と、店の奥に呼びかけた。



「ハァ…店長!名前さん来はりましたよ〜…男と、」

「なんやて!?」



叫んでも返事すら無かったのに、光くんの「男と」の小さな声に、奥からドタバタと騒がしい音と一緒に、男の人が慌てて出てきた。



「男ってどこの馬の骨や!……あれ?蔵ノ介かいな」

「ご無沙汰やな、オサムちゃん」

『え?え…えっ?』



どうやら紹介するまでもなく、みんな知り合いのような会話に、寧ろ私だけが置いてけぼりを食らっている。
この状況にオロオロしていると、私の叔父さん…オサムちゃんが、「今日はもう閉店や」と言った。



□□□□□□



「はぁ…そういう事かいな」



閉店にしたお店で、4人でバックヤードに入り、事情を説明した。
オサムちゃんも光くんも理解したようだったが、私だけまだ3人の関係がわからずにもやもやしていた。



『あの、3人とも…勝手に話を進めないでくださいよ』

「ああ、すまんすまん」

『まず、光くんは一体何者ですか?』

「光も吸血鬼やで」

「ちょっと、勝手にバラさんといてくださいよ…」

『え…じゃあ光くんも、若い女の子ばっかり狙って…』

「若い女の子?」



若い女の子のフレーズに、顔をひきつらせる吸血鬼さんを見て「ああ…」と納得した様子の光くんは、溜息を吐いて答えた。



「俺は血吸わへんから」

『え…吸わなくても大丈夫なんですか?』

「光は吸血鬼と人間のハーフやからな…あ、寧ろハイブリッドか?」

「ミックスでええやん」

「人を犬みたいに扱わんでくださいよ、あんたらはもう…」



呆れた顔の光くんに、悪戯そうに笑う吸血鬼さんと叔父さん。
仲の良さそうなその光景に、疎外感を覚えた。



「まさか名前ちゃんが、オサムちゃんと親戚とはなぁ…」

「なんや、知らんで名前ちゃんに近付いたんか?」

「知っとったら血吸いにすら行かへんわ。あ、そう言えば謙也に会うたで」

「おお、謙也か!元気やったか?」

「最近、謙也さんと全然会うてへんなぁ…」



みんな、私の知らない所で、私が知り合うより前からの付き合いがある。
しかも、普通とは言えない秘密を共有しているのだ。



『そ、そういえば、叔父さんも吸血鬼なんですか?』

「ん?俺は特殊な能力は無いで?」



何故、吸血鬼さんや忍足くんの事を知っているのかと訊こうとしたが、「詳しくは蔵ノ介から聞き」と言われ、仕方なく口を噤んだ。

叔父さんが吐いた煙草の煙を、フーッと飛ばしながら光くんは思い出した様に言った。



「この前、大量に吸血鬼に関する本買うてったのは、そういう事やったんか…何事かと思ったわ」

「名前ちゃん、そない俺の事詳しく知りたかったん?言うてくれたら何でも教えた

『吸血鬼さんの撃退法を探してたんです』

「何や蔵ノ介、お前嫌われとるんか?」

「確かに退治されそうにはなったけど、今はもうデートする仲やで、オサムちゃん」

『肘鉄したお詫びなだけです』

「退治とか肘鉄て…到底仲良しには思えへん単語なんやけど…」



呆れる光くんと、面白そうに笑う叔父さん…そんな叔父さんを見て、肝心な事を思い出した。



『叔父さん、私の親には吸血鬼さんの事…』

「わかってるて。言わへんし、もしバレてもフォローしたるから安心し」



昔から叔父さんにはお世話になっているが、こんな普通の人間には言えない事まで相談できる相手が身内に居て安心した。

吸血鬼さんと一緒に住む事を許してしまった今、一番の問題は過保護すぎる私の親だからだ。
身内には身内の味方が居なければ太刀打ちできない。



「今は名前ちゃんの為は蔵ノ介の為でもあるからな…俺は二人の味方や」

『ありがとう、叔父さん』





吸血鬼さんとお出掛け





「名前ちゃんの彼氏や言うといてや、オサムちゃん」

『嘘はやめてください、私の血だけが目的の癖に』

「何やかんや言うて仲ええやんか、二人とも」


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需要なさそうですが、勝手に続けます。

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