Halloween | ナノ







昨日の夜は結局、私がお風呂に入っている間に、吸血鬼さんには外に出ててもらう事にした。
どうせ内側から鍵を掛けたって、吸血鬼さんは鍵にも触れずに、開けて入って来れるんだけど…



(…やっぱり寝てる)



今日は休日。
いつもよりゆっくりめに起きてみるが、吸血鬼なだけあって朝は苦手なのか、まだソファーで寝ている吸血鬼さん。

それでも朝ご飯は用意してあった。



□□□□□□



『ただいまー…あれ?』



吸血鬼さんが寝ている内にちょっとした買い物に出た。
必要な物がなかなか揃わなく、時間はもう昼だった。

慌てて家に帰るという事が無かった私が、家に誰かが居るというだけで、早く帰らなきゃ…と足早に帰宅した。
が、いつも目の前に現れて出迎えてくれる姿所か、返事すらも聞こえてこなかった。



(まだ寝てる?)



そーっとリビングに入ると、吸血鬼さんは今朝の状態のまま、ソファーに寝ていた…

空いているソファーに買ってきた物を置いて、何かお昼ご飯でも用意しようとキッチンへ向かおうと、忍び足で吸血鬼さんの前を通り過ぎようとすると、手を掴まれた。



『ひゃっ!?』

「ん…ああ、名前ちゃんか…おはようさん」



寝ぼけているのか、ゆっくり、途切れ途切れに喋る吸血鬼さん…やけに体温の低い手に驚いた。



『おはようじゃないですよ…もうお昼です』

「……ほんまか、」



低血圧な人がそうなように、しんどそうに体を起こす吸血鬼さん。
私も低血圧で朝が苦手だから、気持ちはよくわかる。



『お昼、私が作るので、吸血鬼さんは休んでてください』

「んー…名前ちゃん、料理できるん?」

『失礼な…吸血鬼さん程じゃないですけど、人並みにはできます』

「ほな…頼もうかな、」



そう言って、吸血鬼さんはまたソファーに倒れ込んだ。



『なので…離してくれませんか、手』



□□□□□□



「うん…普通に美味いで、普通に」

『なんで普通にを二回も言うんですか…』



「冗談、美味いよ」と悪戯そうに笑う吸血鬼さん…本当にこの人は人をからかうのが好きなんだなぁ…あ、人じゃなかった。

なんて思っていると、「なぁ、」と話し掛けられた。



「今日休みやろ?どこ行っとったん?」

『ちょっと買い物に』

「言うてくれれば荷物持ちくらいしたるのに…」

『重い物でもないんで大丈夫ですよ』



つい一昨日までは名前も顔も知らない、赤の他人だった人と、普通にお昼ご飯を一緒に食べて、こんな会話をしているなんて、どう考えてもおかしい。

だが、これも吸血鬼さんの力によるものなら、この状況に違和感を感じないのもおかしくない事なのかもしれない。



「言うとくけど、催眠とか心理操作とかは一切してへんからな?」

『じゃあなんでこんなに違和感無いんですか……え?今、私…声に出してました?』

「ああ、ごめん…俺、人の考えとる事わかるから…」

『そういう事は最初に言ってくださいよ…』

「ごめんて、怒らんで…」



苦笑いする吸血鬼さんを睨むが、また心の声を覗かれてなだめられるんだと思うと、怒るだけ無駄だと諦めた。



『私を操ってないって…そしたら、何の違和感も感じてない私のこの感覚は何なんですか』

「それは…」



吸血鬼さんが何か言い掛けた瞬間、呼び鈴が鳴った。
インターホンの画面には忍足くん…『今開けるね』と、ボタンを押した。



「友達でも来るん?」

『うん、今来ま……あ、どうしよう』

「ん?」



食べ終わった二人分の食器を重ねる吸血鬼さんを見て思い出した…そうだ、吸血鬼さんの事はどう説明しよう、と。



「彼氏でええやん」

『心の声読むのはやめてください!てか、彼氏ってなんですか、彼氏って!!』



「えー…」と、不満げな吸血鬼さんに、『絶対出て来ないで、物音も立てないでくださいね!』と言い聞かせ、返事も待たないまま私は玄関に向かった。
玄関に置かれた吸血鬼さんの靴をシューズボックスに隠すと、思いの外早く呼び鈴が鳴った。



「忍足やけどー」

『は、はいっ』

「うわっ!?で、出てくるん早いな…」



慌ててドアを開けた為か、驚いた顔をする忍足くんに謝る。



「近くに来たついでに寄ったんやけど…ほら、家族でも友達でもない奴がどうこう言うてたやろ?」

『あ、ああ…その話ですか…』

「大丈夫かな?思て…って、全然大丈夫やないな」

『え?』



何を言っているのかと忍足くんの顔を見上げると、忍足くんの目は私ではない何かを見ていた。
その視線を辿り、後ろを見てみると…



『ちょっ!な、何勝手に出てきて…』

「なんや、まさかこの気配と思て見に来れば…」

「それはこっちの台詞や。なんで吸血鬼のお前が名字さんちに居んねん、蔵ノ介」

「お前こそなんで名前ちゃんちに来んねん、謙也」

『え…知り合い、ですか?っていうか、吸血鬼って知って…』



私の問いに、「ちょっとな」と声を合わせて答える二人…私が焦った意味は無かったらしい。
玄関先では人目があるので、とりあえず中に入ってもらった。



「名字さん、ええ所住んどるやん」

『親が所有してるマンションなんです』

「所有て…金持ちなんやな、名字さん…」

「で、何の用やねん、謙也」



リビングに通すと、先にソファーに座った吸血鬼さんが長い脚を組みながら訊ねた。



「なんでお前は人んちやのに、そない偉そうやねん…」

「今は俺が名前ちゃんの面倒見とるからな」

「は?ど、どういう事や、それ!」

『わ、私が説明します!』



お互いに食ってかかる態度の二人を見かね、お茶を出しに二人の間に入った私が、斯く斯く然々と忍足くんに説明した。
忍足くんが黙って聞いている間、吸血鬼さんはそっぽを向いてトマトジュースを飲んでいた。



『…と言う訳なの』

「まぁ、大体事情はわかった…が、結局お前が無理矢理押し掛けてきたっちゅー話やないかい、蔵ノ介!」

「しゃーないやろ、吸血鬼やバレてもうたし、名前ちゃんの血液型好物やねんもん」

「お前の事情なんか知るかいな…」



友達の様に会話する二人に挟まれ、うずうずしていると、「何や?名前ちゃん」と、吸血鬼さんが声を掛けてくれた。



『お二人は、一体どういう関係なんですか?』

「どういう…まあ、簡単に言うと、俺が吸血鬼で、こいつが狼男っちゅー話なんやけど…」

「お、おい!勝手にバラすなや!」

『おおかみ…おと、こ?』



吸血鬼さんの存在に慣れたせいか、忍足くんの正体よりも、こんな身近に真の姿を隠した人が居た事に驚いた。



「いや、狼男言うてもな?狼に化けたりはでけへんねん…」

『そうなの?』

「昔と違って、血が薄なってて…今やともう、先祖が狼男やったっちゅーレベルの話やねん」



忍足くんは大学の陸上部の所属で、大会では記録を残す程の実力を持っているらしいから、それも狼男の名残なのかなぁ…なんて、勝手に考えていると、吸血鬼さんが耳打ちするように私に囁いた。



「こないな事言うとるけど、満月の夜はめっちゃテンション上がって興奮するから、気を付けるんやで…」

「聞こえとるわ、アホ」



小さな声だったのに聞き取れるなんて、やっぱり狼だから耳が利くのか…
すると、今度は忍足くんは呆れた様に私に言った。



「蔵ノ介は夜な夜な女の子を襲いに行くような吸血鬼や…そっちの方がよっぽど危ないで」

『え…女の子ばっかり狙ってるんですか?』

「えっ?い、いや…ほら、言うたやろ?健康な人間の血の方が美味いって。男やと煙草やら酒やらで、血が濁ってて不味いねん…そしたらほら、選ぶとしたら必然的に女の子になるやろ?」

「ちなみに蔵ノ介は、シャンプーの香りがする子がタイプやで」

『確信犯じゃないですか』

「ああああもう!謙也!お前、早よ帰れや!!」



取り乱した吸血鬼さんの姿を初めて見たが、案外人間っぽい感じで意外だった。
忍足くんは「何やねん、もう…」と悪態をつきながらも、大人しく玄関に向かう。

見送りに私も玄関に来ると、吸血鬼さんも私の後ろにくっついてきた。



「名字さん、身の危険を感じたら叫ぶんやで?助けに来たるから」

『うん、わかった』

「名前ちゃんの血を頂く以外は、手出さんわボケ」

「…早いとこ追い出した方がええで、コイツ」

『う、うん…考えとく』



忍足くんに向かって、シッシッと威嚇する吸血鬼さんを背後に、苦笑いするしかない私に、「ほな、また学校で」と出て行った忍足くん…
ハァ…と、溜息を吐くと、ふわっとした浮遊感と風を感じ、いつの間にかリビングのソファーに座っていた。



『あ、れ…?』

「ハァ…やっと帰った」



横でグラスに入ったトマトジュースを飲む吸血鬼さんに、やっぱり瞬間移動を使ったんだと理解した。



「名前ちゃんも飲む?」

『い、いいです…血みたいだし』

「まぁ、俺も気紛らわす為に飲んどるだけなんやけどな…」



なんだか不機嫌そうな吸血鬼さんに、『忍足くんと、仲悪いんですか?』と訊くと、息を一つ吐いた吸血鬼さんは答えた。



「いや…何となく、ムカついただけや」





吸血鬼のお友達





未だ見ぬ本性。



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他の四天メンも出す予定。


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