Halloween | ナノ







昨晩、と言っても日付的には今日だが…
不法侵入してきた男は吸血鬼の格好をし、自ら吸血鬼だと名乗り、勝手に人の血を吸ったと思ったら薄すぎるだのと文句を言い、何故か関西弁で勝手に話を進められた挙げ句、一緒に住む事にされ、お泊まりセットを持ってまた戻ってきた。
しかもその男の正体は、昼間、この部屋に荷物を運んでくれた配達員さんだったのだ。

と、ここまでが前提。


流石に知らない男が押し掛けてきたのを通報しようかとも思ったが、どう考えたって、8階のベランダを出入りするなんて話は通じないだろうし、話した所で私が変人扱いされるのがオチだろう。
それに、目の前で人間離れした行動の数々を披露されては、通報しよう物ならば何をされるかわからない。

そんな葛藤を頭の中で繰り広げている内に、寝てしまっていたらしい私は目覚ましの音で目が覚めた。
知らない男と二人きりの部屋で寝るなんて、我ながら危機感が無さ過ぎて自分が怖かった。


リビングに行くと、私に気を遣ってか、ソファーに吸血鬼さんは寝ていた。
テーブルには朝食と、お弁当箱…と、置き手紙が用意されていた。
置き手紙には、


《朝食を食べて朝日を浴びる事!
お昼もちゃんと食べなアカンで!》


と、吸血鬼らしからぬ言葉が書かれていた。



『ただいま…』

「ちょぉ、名前ちゃん!今朝のはどういう事や!?」

『な、何がですか…ていうか、まだ居たんですか…』



大学の講義も終わり、夜中の出来事は夢だったんだと、その夢から目を覚まそうと時間を潰してから帰宅した。

…が、玄関に入った途端、目の前に現れた吸血鬼さん…吸血鬼さんは不満そうな顔で言った。



「朝食もお弁当もそのまんまやったで?」

『だ、だって…知らない人が作った料理なんて、食べれるわけないじゃないですか』

「…それもそうやな」



吸血鬼さんは少し考え、納得すると「ごめんごめん」と謝った。
昨日のドラキュラ伯爵風な格好ではなく、普通にセンスのいい部屋着姿に、若干拍子抜けした。



「まぁ、玄関やと難やし、上がってや」

『ここは私の家です!』

「ああ、せやったな…」



何だか調子のいい吸血鬼さんに呆れながら脱いだ靴を並べ直して振り返ると、私に差し出された、包帯が巻かれた左手。



「お帰り、名前ちゃん」

『…なんでちゃん付けなんですか』



その手を無視してリビングに向かうと、吸血鬼さんもその後を、足音も無く付いて来る。



「あら…これから一緒に住むんやし、ええやん名前くらい」

『だから、なんで勝手に一緒に住むとか決めてるんですか!』

「なんでって…名前ちゃんの血を美味しく頂く為や」

『…』



なんとも微妙な台詞を、堂々と言ってのける吸血鬼さん…そうだ、そもそも住む世界が違うのだ。
まともに話が通じ合う訳が無いんだ…と、リビングに入ると、これまた驚きの光景が広がっていた。



『な、な…何、これ…』

「何って、晩ご飯やで?あ、朝ご飯とお弁当は仕方ないから俺が食べたったわ」

『晩ご飯て…こ、この薔薇とか、テーブルクロスとか…この食器のセットとか、どっから…』



見慣れた殺風景な食卓は見事に装飾され、真っ白なテーブルクロスの上には薔薇が飾られ、高そうな食器には高級レストランのような本格的な料理が…

その光景に驚いている私に、吸血鬼さんはさも当たり前のように、きょとんとして答えた。



「こうした方がドラキュラっぽいやろ?」

『ドラキュラっぽいて…』

「さー、冷めへん内に、はよ食べよ!」



誘導されるがままに席に付く。
グラスに赤ワインを注ごうとする吸血鬼さんを止めた。



「あれ?もしかして、お酒飲めへん?」

『お酒は少し苦手で…ていうか、この料理…全部あなたが作ったんですか?』

「せやでー。あ、ほなカクテルにしよか」



私の返事も待たず、キッチンに立った吸血鬼さんは、手際良く冷蔵庫から出したドリンクで、カクテルを作ってくれた。



「はい、シンデレラ」

『えっ?』

「ん?ああ、カクテルの名前がシンデレラ。ノンアルやから安心して?」

『あ、ああ…ありがとうございます』



一瞬、自分の事をそう呼ばれたのかと驚いたが、吸血鬼さんの顔を見る限り、あれは絶対にわざとだと思う。

おちょくられた気がして、気恥ずかしさを紛らわそうとカクテルを一口飲んだ。



『…美味しい、』

「せやろ?ほな食べよか」

『はい…あ、』



また上手く雰囲気に乗せられ、知らない男が作った料理を食べようとしている自分…
そんな自分に呆れていると、それに気付いた吸血鬼さんが微笑みながら「毒なんて入ってへんよ」と言った。



『…なんで、こんな事するんですか?』

「ん?せやから、名前ちゃんの血を美味しく…」

『別に、私じゃなくたって…もっと健康的な人の血を吸えばいいじゃないですか』

「昨日も言うたやろ?名前ちゃんの血液型は珍しいからって」



私の血液型は世界的に見ても珍しい。
その血液型のせいもあってか、家族は私に病気や怪我をさせまいと、一層過保護が加速した。



『血液型で味とか変わるんですか?』

「変わるで〜。まぁ、その人間の健康状態でめっちゃ変わるけどな」

『だから不健康な私のは不味いと…』

「不味ないて、名前ちゃんのは薄いんや」



向かい側に座り、ナイフとフォークを優雅に使いながら料理を食べる吸血鬼さん。
目が合うと、私にも食べるよう視線で促され、ひとくち口へ運んだ。



『…』

「…美味いやろ?」

『はい…すごく、』



満足そうに笑った吸血鬼さんは、ナプキンで口元を拭うと、グラスの赤ワインを飲んだ。



「名前ちゃんには健康的な体になって、美味しい血液を提供してもらわなアカンからな」

『あの…血を吸われたら、私も吸血鬼になるんですか?』

「え?ああ…ならん程度に吸うようにしとるから、その心配はあらへんで」

『そうなんですか?』

「今の時代、仲間増やすだけ不便な世の中やからなぁ…」

『ふーん?』



しみじみとワイングラスを傾ける吸血鬼さん…こうしている姿は、やはり普通の人間にしか見えない。



『日中は働いてるんですか?』

「午後からな〜。午前中は流石にキツい」

『宅配便はバイトなんですか?』

「せやで。吸血できるお宅も増えて、一石二鳥なバイトやからな」

『…どういう事ですか?』



意味がわからず首を傾げると、吸血鬼さんはグラスを置いた。



「俺らは、誰の家にでも自由に出入りできる訳とちゃうねん。その家の人間に、招かれへんとアカンの」

『へぇ…ん?でも私、招いてませんよ?』

「せやからここで、宅配便のええ所や。お荷物重いんで、中に運びましょか〜?ってな具合にな」

『ああ…そういう事ですか…』



昨日のやり取りを思い出し、納得がいった。



『そういう手口で不法侵入する訳ですね』

「手口とか不法侵入やなんて人聞きの悪い…俺かて生きていく為には、こうするしかないんやからしゃーないやろ?」

『やっぱり血吸わないと死んじゃいますか?』

「不老不死の為にはやっぱ、それなりの理由があるっちゅー訳やな」

『…あれ?じゃあ吸血鬼さん、何歳なんですか?』



ずっと同い年だと思って会話していたが、不老不死の言葉にハッとした。



「…知りたい?」

『はい』

「…」

『…』

「…やっぱやめとく」



焦らすだけ焦らせておいて、ふと視線を外した吸血鬼さん。



『えっ!?な、何でですか!』

「名前ちゃん、何かめっちゃ期待した目しとるんやもん」

『しっ、してないですよ…』

「それに、言うたら引かれそうやし…」

『そ、そんなにお年を召してらっしゃるんですか…?』

「ほら、やっぱそういう目で見てたんや」

『違っ…え?それ嘘ですか?どっち?』



疑うような目を私に向ける吸血鬼さん…もし、こんなやり取りを100歳を越える人がしていたとしたら、かなりの違和感だ。



「内緒や、ないしょ」

『引かないから教えてください』

「ええやん、見た目同い年くらいなんやし」

『気になって眠れません』

「睡眠不足は肌荒れと不健康の元や…俺が添い寝するしか

『すみませんもう年齢については訊かないので許してください』



「なんや、残念」と笑顔を見せる吸血鬼さん。
その綺麗な笑顔とチラリと見える牙に、少しだけドキッとした。



「っちゅー事で、少しは警戒心が解けたかな?」

『え?』



吸血鬼さんの言葉に我に返った私。
気が付けば、用意された料理も殆ど完食していた。



『ゆ、油断させておいて、私の血を吸うつもりですね!?』

「せやからそれはもっと濃くなってからや言うてるやんか…」





奇妙な共同生活





「まぁ、悪いようにはせえへんから」



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吸血鬼の生態については、改変したりするので悪しからず…


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