Halloween | ナノ







「名前ちゃんのハロウィンの衣装が完成した訳やけど…」

『に、似合いますか?』



渡された衣装に着替え、リビングに戻ってえくすたちゃんとソファーに座る蔵ノ介さんの目の前に立つ。
指で顎を撫でながら、真面目な顔で私の頭のてっぺんからつま先まで見る蔵ノ介さんに、何だか恥ずかしくて視線を外した。

暫く黙ったままの蔵ノ介さんに、若干不安に思い、声を掛けようとすると、蔵ノ介さんの方が先に口を開いた。



「アカン…」

『えっ?』



アカン、とは…似合わなすぎたのだろうかと、思わず狼狽えてしまう。



「可愛すぎるわ」

『……はい?』



真剣で険しい表情とは裏腹の台詞に、思考が追いつくのが遅れる。
蔵ノ介さんはそんな表情のまま、膝に肘をついて手を組み、深刻そうに言った。



「なぁ、やっぱハロウィン行くんやめよう?」

『何でですか!せっかく衣装まで作ったのに!』

「その衣装を着た名前ちゃんが可愛すぎるからアカンのやて」

『なっ…何言って…』



私の為にと、蔵ノ介さんが作った衣装は黒猫だった。
蔵ノ介さんの性格上、露出の多い衣装だったり、人様に見せられないようなデザインだったとしたら、適当な仮装セットでも買ってきて、私だけ行こうかとも考えていた。

が、手渡された衣装は既製品かと思うくらいの綺麗な出来で、デザインも可愛すぎずシンプルすぎず、洗練されたデザインはシックさも感じさせる、予想を遙かに越えた物だった。



「どないな男が来るかもわからん所に、こないかわええ黒猫ちゃんが迷い込んだらなぁ…なぁ?エクスタちゃん」

『教会でナンパなんて誰もしませんよ…大体、私がナンパなんてされる訳がないですし』

「…前から思っててんけど名前ちゃん、自分の事過小評価しすぎやで?」

『そうですか?』



足元に絡まってきたえくすたちゃんを抱き上げ、ソファーに座る蔵ノ介さんの隣に座った。



「ほんま、かわええ顔しとるのに…まぁ、性格はちょっと暗めっぽいけどな」

『性格は兎も角…顔は並、中の下くらいだと思いますけど…』

「そしたら世の中の女の子の大半が、下の中っちゅー事になるな」



ソファーの背もたれに寄りかかりながら笑う蔵ノ介さん。
私は膝の上に乗せたえくすたちゃんを撫でる。



『蔵ノ介さんて、女の子口説くの上手そうですよね…』

「口説かへんでも寄ってくる…て、何言わすねん」

『…』

「その目やめてくれ…そもそも、逆ナンしてくるような子は好かんし、俺がナンパしてそれにホイホイ付いて来るような子も好かんわ」



『どうだか』とだけ返すと、困った顔で私を見る蔵ノ介さん…正直、蔵ノ介さんの言葉に若干イラッとした。



『じゃあ、いきなり押し掛けてきた見ず知らずの得体の知れない男と普通に暮らしちゃうような女なんて、もう論外ですね』

「え…あ、それは…」



私の言葉に、蔵ノ介さんは更に困った様子で狼狽えた。
蔵ノ介さんのこんな姿は珍しく、なんだか悪戯心の様なものがくすぐられる感じがして、笑いが込み上げた。
蔵ノ介さんは、私に対していつもこんな気持ちなのかと、からかう理由が少しわかった気がした。



『冗談ですよ。ほら、そろそろ行きましょう?』



□□□□□□



「あ、名前ちゃん、こっちこっち!」



教会の部屋を借りて衣装に着替え、イベントを開いている外へと出た。
私を見つけた長太郎くんの元へ駆け寄ると、飲み物を渡された。



「ジュースだけどいいかな?」

『うん、ありがとう。今日、暖かくてよかったね』

「本当、天気も良くて助かったよ」



今日は10月の末にしては例年より暖かく、高い青空が清々しい。



『子供いっぱいだね』

「うちの教会の施設の子達や信者さんの家族、近所子供達も集まってるからね」



わいわいと賑やかな教会の敷地内では、仮装した子供やその親が、用意されたお菓子やジュースで寛いだり、バザーやバルーンアートなどのイベントで盛り上がっている。



「その黒猫の衣装、似合ってるね」

『そう?蔵ノ介さんが作ってくれたの』

「え?白石さんが?器用だなぁ…」

『そう言えば、蔵ノ介さんは?』



着替える時に別れてから見当たらない姿を訊ねると、「あそこだよ」と示された方を見ると、子供達に囲まれた吸血鬼の仮装をした蔵ノ介さんの姿が。

子供達にせがまれ、何をするのかと思って見ていると、どうやら手品をしているみたいだった。
驚き喜ぶ子供達に、笑顔を見せる蔵ノ介さん…あんな事も出来るのかと、感心してしまう。



「おい、長太郎」

「あ、先輩。遅かったですね」

『宍戸さん、こんにちは』

「あれ?名字も来てたのか。久しぶりだな」



そこへ私服で現れたその人は、私と長太郎くんの中高の先輩である、宍戸さんだった。
宍戸さんはこういうイベントは苦手そうなのに珍しいな、と思っていると、長太郎くんに「あいつか?」と訊ねた。
その視線の先には蔵ノ介さん…まさかまた吸血鬼や狼男の仲間なのかと思ったが、そこは黙っておく事にした。



「はい、そうなんですけど…」

『蔵ノ介さんがどうかしたんですか?』

「え、もしかしてあいつと一緒に暮らしてるってのは…」

『私ですけど…』



宍戸さんは「マジかよ…」と、困った顔で頭を掻いた。
何だか、今までの謙也くんや一氏くん達とは違う反応に、違和感を感じた。



「だから宍戸先輩に来て貰ったんです…」

「そういう事かよ…しかし、確定してないにせよ、条件が揃っちまってるからなぁ…」



二人の口振りは、蔵ノ介さんの正体を知っているようなそれで…
でも、嫌な予感がして様子を見るしか出来ない。



「そう言えば名前ちゃん、白石さんとの同居のきっかけは何なの?」

『え?んーと…蔵ノ介さんの恩人が私の叔父さんだったみたいで…』

「あいつに何か変な事されてねぇか?」

『貧血の私の為にご飯作ってくれたり、お世話になりっぱなしですよ…たまにふざけた発言がありますけど』



同居のきっかけは、本当の事を話す訳にもいかない為、適当にごまかした。

すると、不意に背後から肩を掴まれた。



「どないしたん?名前ちゃん」

『蔵ノ介さん…』



蔵ノ介さんと宍戸さんを会わせてはいけない気がして、どう話を逸らそうかと考える間もなく、宍戸さんが蔵ノ介さんに話しかけた。



「お前、名字に変な事してねぇだろうな?」

「初対面でいきなりお前はないんちゃう?」

「そうですよ、宍戸先輩…いくらなんでも

「自己紹介はあんたの正体がわかってからだ」



そう言いながら、宍戸さんは懐中時計を開いて蔵ノ介さんに向けた。
懐中時計の蓋の内側は鏡の様になっていて、蔵ノ介さんはそれを無表情で見た。

そこには、映っていたのは透けた蔵ノ介さんの姿。



『蔵ノ介さん、これ…』

「一応、鏡には映るみたいだな」

「なんや、やっぱバレてたか…」



苦笑いしながら溜息を吐く蔵ノ介さん。



「で、宍戸くんは普通の人間みたいやけど…」

「先輩はヴァンパイアハンターの家系なんですよ」

「先祖がそうだったってだけで、もう何代もやってねぇよ。そういう時代でもねぇしな」

「こんな時代に吸血鬼らしき男が現れ、しかも自分の知り合いの女の子を誑かしてるみたいやから、さっさと退治しようっちゅー話か?」

『えっ!?』



"退治"という言葉に、ついこの間に自分も蔵ノ介さんを退治しようとしていたにも関わらず、蔵ノ介さんに手を出させまいと警戒した。



「いや、退治の道具はあるが、そんな事出来ねぇよ」

「白石さんも優しそうな人だし、話を聞く限りでは悪い事もしてなさそうだし…それに、名前ちゃんの様子も楽しそうだったので、念の為に…」



「すみません」と謝る長太郎くん。
宍戸さんは疑うような目で蔵ノ介さんを睨む。



「本当に何もしてねぇんだな?」

「ほんまやで。まぁ、貧血が良くなったら血を飲ませて貰う約束はしとるけどな?」

「「なっ!?」」



「全然危ねぇじゃねぇか!」と焦る宍戸さんに、私が間に入った。



『宍戸さんっ、いいんです!もう一回吸われてますし…』

「はぁ!?もう吸われてるって何だよ!」

「し、宍戸先輩!一旦落ち着きましょう…」



私と長太郎くんの二人がかりで宍戸さんを抑える。



「名前ちゃんの叔父さんは白石さんの事知ってるんだよね?」

『う、うん…蔵ノ介さんの正体も、同棲してる事も、全部知ってる』

「ほら先輩、名前ちゃんの家族が許してるんですから、俺らは何も口出し出来ないッスよ!」

「っ…ったく、」



やっと私達の言葉を聞き入れ、落ち着いてくれた宍戸さんに、私は長太郎くんとホッと溜息を吐いた。



「結婚を前提とした、親公認の恋人同士なんやで〜」

「最初と話が違うじゃねぇかよ!」

「宍戸先輩、落ち着いて!」

『そういう設定なんです!蔵ノ介さんも余計な事言わないでくださいよ!』





Halloween Party





「つーか、吸血鬼が吸血鬼の仮装って何だよ」

「本物っぽいやろ?」

「ぽいじゃなくて、本物だろうが…」



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Halloween要素も吸血鬼ハンター要素少ない。


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