「集まったか〜?」
中に居るであろうメンバーに声をかけながら部室に入ると、いつものメンバーの怠そうな視線が俺に集まった。
そらそうや…部活の無い月曜日にわざわざ集められたんや、怠いわな。
「やっと来たか、白石…」
「呼び出した本人が遅刻とはどういう事やねん」
「すまんすまん。ほな早速、緊急会議始めよか〜」
謝りながら荷物を置くと、頬杖をつく謙也が「せっかくのオフに何やねん」と訊ねた。
「いや、それがな…
「白石〜、名前ちゃんまだ来てへんで〜?」
金太郎の言葉に他のメンバーも「そう言えば…」と、時計を見上げて集合時間を確認した。
「今日は名前はええんや。寧ろ、名前の事で集まってもろたんや…」
「名前の事?どういう事や?」
みんなの視線を集めた俺は、ミーティングの時の様にホワイトボードを持ってきて、その前に立った。
「自分ら…名前の誕生日を祝った記憶、あるか?」
「名前の誕生日…小春、覚えてるか?」
「名前ちゃんの誕生日ねぇ…そもそも、誕生日が何月何日か自体知らないわね…あら?」
「…あれ?」
次々に動きを止めていく俺らに、「どないしたん?」と金太郎が首を傾げ、珍しく集まっていた千歳が「まさか…」と苦笑いを浮かべた。
「名前ちゃんの誕生日だけ祝ったこつば無か、とか…言わんばいね?」
「…」
「…」
「…」
「…そう言う事で、今日の緊急会議の議題はこれや」
呆れた様な千歳の表情を見ないように、俺はホワイトボードに向かってペンを走らせた。
「"名前の誕生日を祝っていない件について"、話し合いたいと思う」
「まんまやな」
「ちゅーか部長、名字と付き合うてるなら、あいつの誕生日知っとるんちゃうんスか?」
片手を挙げてそう発言した財前に、みんなも「せやせや」と、また俺に視線を集めた。
「…ちゅー事でまず
「おいコラちょぉ待てや」
「な、何やねん謙也…ガラ悪いで…」
「お前、名前の誕生日知らんのか?」
無視して進めようとしたが、謙也の言葉とメンバーの視線に耐えられへんかった…
「し、知らんっちゅーか、聞くタイミングがあらへんかったっちゅーか…ほら、俺ら付き合う前から仲良すぎたやろ?せやから誕生日訊くとか今更な感じがしてやな…」
「えーっ!?名前ちゃん可哀想やん!!」
「あー、なんや俺、白石に幻滅やー」
「そうねぇ…彼女の誕生日も知らないなんて、完璧パーペキパーフェクトで聖書な蔵リンにはあってならない事やのに…」
「なんや部長、男前は見掛け倒しっちゅー訳ッスか」
「彼女の誕生日も知らんなんて…話にならんばいね」
「聖書の名も廃れたモンやなぁ…」
「名字、俺らの誕生日は張り切って祝ってくれとるのに…」
「罪な男や、白石はん…」
今までに無いくらいの集中攻撃を受け、かなりのダメージを食らった俺は、目の前のテーブルに手をついてうなだれた。
「そんなん俺自身が一番わかってるわ…」
落ち込んだ様子の俺に気まずそうな空気が流れると、金太郎がみんなに訊ねた。
「誰か名前ちゃんの誕生日いつか知らんの〜ん?」
「知っとったらこないな緊急会議なんて…
「俺、知ってますよ」
予想もしなかった言葉が聞こえた気がした。
顔を上げてみると、みんなも光に視線を集めていた。
「な、なんやて…」
「ちなみに言うと、あいつの誕生日…今週末なんスわ」
あの光ですら知っていると言うのに俺ときたら…彼氏失格な気がした。
□□□□□□
週末、ちょうど良く部活も休みになった今日、俺は名前の家の玄関で、インターホンを鳴らしていた。
「あら、白石くん」と聞こえたのは名前のお母さんの声。
おはようございますと挨拶すると「今、開けさせるね」と、インターホンの通話が切れた。
名前を呼ぶお母さんの声が聞こえると、階段を降りる音が聞こえ、ガチャリと鍵が解かれる音に続いて、ドアが開いた。
『蔵さん、何か用…
「「うぇ〜い!!」」
名前の顔が見えたか見えないかのタイミングで、テンション高く陰から出てきたテニス部のメンバーは、名前に向かってパンパーン!とクラッカーを鳴らした。
『ひゃああああっ!?』と驚いた名前はその場に尻餅をついて、呆然と俺たちを見上げた。
『な、な…何なん?いきなり…ちゅーか、なんでみんな居るん?』
「何って、誕生日祝いに来たんやんか」
「名前ちゃん、おめでとー!!」
『へ?誕生日?』
未だその場にへたり込んでいる名前の手を取って立たせると、『なんでうちの誕生日知ってるん?』と目をぱちくりさせた。
「そらお前、俺は名前の彼氏やからな…名前の事なら何でも
「白石がお前の誕生日知らん言うから、光に教えてもろたんやでー」
「…謙也、それは言わん約束やで」
「そないな事より、早くお祝い始めましょっ☆」
「ケーキっケーキっ!!」
『ちょっ、ちょぉ待っ…』
俺たちの騒ぎに玄関に出てきたお母さんが「どうぞどうぞ〜」とリビングに招くと、俺たちは招かれるがまま次々と家の中へとお邪魔した。
「誕生日おめでとさん、ほれ」
「おめでとう。つまらんモンやが、受け取ってくれ」
『え?プレゼント?ありがとう謙也くん、健ちゃん先輩』
「これは俺と小春からや」
「これで蔵リンの事、悩殺しちゃって☆」
『嫌な予感しかせえへんけど…あ、ありがとう』
すれ違いがてら、みんなからプレゼントを受け取る名前。
なんやかんや言うても、それぞれプレゼントを用意してる辺り、みんな名前がかわええんやな…
「名前はん、おめでとう。これ、お守りにでもしてくだはれ」
「ほれ、やるわ。ありがたく受け取っとき」
『銀さんありがとう!財前のは…受け取っといたるわ、しゃーないな…』
「名前ちゃん、おめでとー!女の子にプレゼントなんて、初めて買うたで!」
『おおきにね〜、金ちゃん』
「俺は女の子の趣味ばようわからんたい…お礼ばミユキに言ってやって欲しいばい」
『ちい先輩、ありがと〜。ミユキちゃんにもお礼言うといてね』
リビングからは既に騒ぎ始めたメンバーの声が聞こえ、玄関に残された俺と名前は顔を見合わせて苦笑いした。
「俺からは…って、もうプレゼント持てへんな」
『そやね…とりあえず、ありがとう蔵さん』
□□□□□□
昼前に集まった俺らは飽きる事無く騒ぎ続け、気が付けば日が傾いていた。
家が近い俺以外のメンバーが先に帰ろうと、ぞろぞろと玄関に向かった。
「なんや、ただ名前んちに集まって騒いだだけになってもうたな」
「そんなん、誰の誕生日でも同じやん」
「そうそう、いつもの事やで」
「蔵リン、名前ちゃんの誕生日ちゃーんと覚えたかしらぁ?」
「せやで〜、ちゃんとメモっときや〜」
「自分らしつこいわ」
帰る直前まで喧しいこいつらに『今日はありがとう、楽しかったで』と嬉しそうに言う名前。
去年、祝ってやれへんかったのが悔やまれるわ…
「おー、ほなまた学校でな〜」
「名前〜、遅刻するんやないで〜」
「片付けすまんな、白石」
「名前ちゃん、白石、ほなな〜!」
元気良く手を振る金太郎に笑顔で手を振り返す名前。
ドアが閉まると、外から聞こえる賑やかな声が段々と遠ざかって行った。
「なんや、急に静かになったなぁ…」
『せやね』
苦笑いしながらリビングに戻ると、「食材買い足しに行ってくるね」と、お母さんが出て行く所やった。
「白石くんも食べていって」と、返事も待たずに出て行こうとするお母さんの背中に「すみません」とだけ謝った。
『ちゃっちゃと片付けちゃいましょか』
「せやな」
大人数で飲み食いして散らかったテーブルの上の食器を片付けながら、同じ様に片付けをする名前に話しかける。
「せっかくの誕生日にこないな事させてすまんな」
『え?そんなん気にせえへんでええですよ』
楽しかったし、と言う名前の笑顔に、みんなで計画してよかったとホッとした。
『ちゅーか、蔵さんに誕生日教えてませんでしたっけ?』
「は?聞いた覚え無いわ」
『そうでしたっけ?とっくに知っとると思てましたよ』
「いや、だとしても、自分の誕生日くらい仄めかしたりせえへんか?普通…」
『彼女の誕生日を知らへんのに、訊いてすら来えへん蔵さんに言われたないですわ』
「それはほんまにすまんわ…」
痛い所を突かれ、思わず視線を逸らすと、名前はうーん…と続けた。
『何ちゅーか…人の誕生日祝うんは楽しいけど、自分の誕生日は嫌やねん…』
「嫌?どういう意味や?」
『自分の誕生日が嫌いとかちゃうんやけど…なんか…その…』
お盆に乗せた食器を台所に運びながら、微妙な表情を浮かべる名前。
俺も続いて食器を運ぶと、名前の隣に立って、低い位置にある名前の横顔を覗いた。
『は、恥ずかしいねん…』
「恥ずかしい?何がや?」
『人に祝われると、どないなリアクションしたらええのかわからんから…』
珍しく照れた様子の名前は、照れ隠しにか食器を洗い始めた。
「しかし、名前の事やから"今月はうちの誕生日やから、みんな気合い入れてプレゼント用意してや〜"とか言うと思ってたわ」
『うちはどないなイメージ持たれとんねん』
笑いながらカチャカチャと音を立てて皿を洗う名前。
横からその顔をのぞき込むと、それに気付いた名前は少し肩をすくめて身を引いた。
『な、何?』
「いや、まだ俺だけ祝いの言葉言うてへんから…」
『へ?そやったっけ?』
「そーなんや。ほな、ちゅー…
『ちょっ、ちょちょっ…何するん!?』
わざとらしく口を尖らせて顔を近付けると、皿洗いで両手が塞がっている名前は、上体を反らして俺から顔を遠ざけた。
「そない全力で拒否らんでも…冗談やがな、二割程」
『殆ど本気やんかそれ』
「あ、ほんまやな」
チラリとリビングの時計を見やり、今度は真面目に名前との視線を合わせ、「なぁ…」と静かなトーンで切り出す。
今日、二人っきりになれる時間は今しか無い。
『お、お祝いの言葉言うだけでええやん…』
「こういうんは雰囲気が大事やろ」
『皿洗い中っちゅーのはどうなん』
「両手塞がっとってちょうどええかと思て」
『それって、うちには抵抗の仕方があらへんって事やんか』
「嫌ならええわ」
そう言って顔を引こうとすると、『ああもう…』と困ったように眉尻を下げた名前。
『蔵さん、ずるいわ…』
「そういう男は嫌いか?」
『うるさい、はよするならして』
「なんやもう、怖いなぁ…」
素っ気ない態度の癖に、顔を見れば照れているのが一目瞭然な程真っ赤な名前に、顔がにやけるのが抑えきれない。
「かわええなぁ…」
『なっ…う、うるさ
「おめでとう」
反論しようとする名前の唇に、触れるだけのキスをした。
誰も知らない大事な日
「はぁ…これで彼氏としてのメンツが保たれたわ…」
『彼氏としてのメンツ?』
「あいつらに、"聖書ともあろうお前が、彼女の誕生日も知らへんなんて、そんなん彼氏ちゃうわ。彼氏(仮)や、かっこかり!"とか言われてな…」
『かっこかり…』
「これで(仮)から卒業…って、何携帯の登録名に(仮)付け加えとんねん!」
『…へ?』
「しかも"蔵さん(仮)"て何やねん!仮ちゃうわ本物や!!」
『うちが認めるまで取らへんで』
「え、認められてへんかったんか?ちゅーか、本彼氏のハードル高すぎるわ…」
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蔵誕企画の麻凜さんからのリクで、夢主の誕生日を祝う連載番外編でした。
長らくお待たせしてしまいすみません!
こんなんでよろしかったでしょうか?
ずっと書き直しばかり繰り返していて、管理人の誕生日にやっとそれらしい妄想が浮かんだものでして…←
白石夢と言うより、微妙に四天夢でしたね…愛され夢主です←←
勝手に未来(夢主→2年、白石→3年)な上に、付き合ってる設定にしてしまいました…すみません(;´д`)
一応、連載のこれからの予定設定です。
それでは、リクエストありがとうございました!
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