『いよいよ明日か…』
部屋のカレンダーの日付を辿り、止まった指先には印の付いた14日…
4月14日…明日は蔵の誕生日。
白石蔵ノ介、私の彼氏。
(蔵、喜んでくれるかな…)
机の上に置いてある蔵へのプレゼント。
明日の為に用意した物…机の上にあるのを確認して、私は学校へ行く為に部屋を出た。
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「名前」
『あ、蔵!』
今朝も賑やかな校門を過ぎて玄関へと向かうと、蔵の声が私を呼び止めた。
その声に振り向いてみると、綺麗な顔で微笑む蔵が私の方へと駆け寄ってきた。
「おはようさん」
『おはよう、蔵。朝練?』
「せや」
『お疲れ様』と、背の高い蔵の顔を見上げると、「おう」と私の頭を撫でてくる…私はこの手が好き。
大きくて、あったかくて、優しいこの手が私の頭を撫でる度、私はこの人に大事にされていると安心する。
『あれ?それ、何?』
「ん?ああ、これか?」
二人並んで玄関に向かいながら、蔵の手に持たれた紙袋を指差す。
「プレゼントや」
『部活のみんなから?』
「あいつら、ああ見えて意外と律儀やねん」
「ま、しょーもないもんばっかやけどな」と苦笑いする蔵。
でもその顔は困る所か、とても嬉しそうに見える。
『それだけ蔵が慕われてるって事やん?』
「慕われるような事してへんけどなぁ…基本、放任主義やし」
靴を履き替えながらそう言う蔵だが、明日が休日な為に今日のうちにプレゼントを渡すだなんて、それだけでテニス部のみんなの蔵への信頼度が伺い知れる。
「あ、白石〜。誕生日おめでとー」
「おー、ありがとさん」
「白石誕生日なん?おめでとう!」
「おおきになー」
教室に着くまでの間に、何人かの人に誕生日を祝う言葉を掛けられる蔵。
テニスだけでなく、私生活までもが完璧人間なくせに、堅苦しくないこの性格がテニス部以外の人をも引き寄せる…そういう人柄なんだと思う。
「あ、名前」
『ん?』
「今日、部活休みやねん」
『え、そうなん?』
蔵とは違うクラスな為、私の教室の前での別れ際にそう告げられた。
「一緒に帰るやろ?」
『うん!』
私の返事に笑顔を見せた蔵は、「ほな、放課後迎えに来るから待っといてな」と言って、自分のクラスへと向かった。
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今日はなんとなく、一日が過ぎるのが早い気がした。
気が付くと本日最後の授業も終わり、私は迎えに来る蔵の事をただ待つだけだった。
(遅いなぁ…)
教室に残った生徒の数もまばらになって、外からは部活に勤しむ生徒の声が聞こえてくるが、蔵はなかなか来ない。
こちらから迎えに行こうと立ち上がり、自分の鞄を持って教室を出た。
『…あ、』
廊下に出ると、少し離れた所に蔵の姿を見つけた…他の学年の女子生徒と向かい合って、何か話しているようだった。
その女子生徒が蔵に、プレゼントらしき包みを渡すと、蔵もそれを受け取りながら微笑み返した。
誕生日を祝われたり、プレゼントを貰うのは嬉しい事だけど、満更でもなさそうな蔵の表情に少し苛ついた。
「あ、名前…」
『え?』
こちらに気が付いた蔵と、蔵につられてこちらを向いた女子生徒と目があった。
蔵はその子に「おおきにな」と言うと、私の方へと駆け寄ってきた。
「すまんな、待ったやろ?」
『うん』
「ごめんごめん」
蔵はそう言いながら私の頭を撫でた。
蔵にプレゼントを渡した女子生徒がチラッと見え、睨んだつもりはないが、女子生徒が気まずそうに去っていった所を見ると、私は今とてつもなく面白くなさそうな顔をしているのだろう。
『今の子…』
「ん?」
『仲ええん?』
「いや、話しかけられたんは初めてや」
『ふーん…』
あの子の態度からして、きっと蔵の事が好きなんやろなぁ…せやなかったら、学年も違って喋った事もあらへんような相手にプレゼントなんか渡さへん。
蔵がモテるのは確かやけど、やっぱり彼女としては面白くはない。
「なんや?妬いてるん?」
『…ふん!』
「なっ…あ、ちょっ…待ってや名前!」
未だに私の頭の上に乗っていた蔵の手から抜け出すように歩き出すと、蔵は慌てて追いかけてきた。
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先程の女子生徒の件も、別段怒っていた訳でもなく、機嫌を損ねる様な事ではない。
校門から出る頃には元の機嫌に戻っていたのだが、何故か蔵はやけに私の顔色をうかがってくる…
そんな態度をとられると、先程の女子生徒からのプレゼントの時、蔵にも下心があったのではと疑ってしまう。
「なんや…今日はあっという間に時間が過ぎる気がするわ…」
『あ、私も』
そう言っている傍から、もう私の家の目の前まで来ていた。
『ほなね』
「…なぁ、」
玄関に入ろうとした瞬間、蔵は私の手首を掴んで呼び止めた。
引き止められた私は蔵の方へ振り向くと、蔵は一瞬目を泳がせた。
「あの…家の前まで来てあれなんやけど、どっか行かへん?」
『え?今から』
「あー…嫌やったら、もうちょい一緒に居れへんか?」
『んー…』
今、蔵を部屋に入れるとプレゼントが見つかってしまうかもしれない…
それに、明日の為の準備もある…
そんな事を考えて唸っていると、蔵は「やっぱええわ」と私の手首を離した。
『ごめんね…その代わり、明日ね?』
「明日…」
「そやな」と呟くように言う蔵は、どこか寂しそうな表情で…
でも、明日は誕生日当日。
一晩の辛抱だと、私は玄関のドアを開いた。
『ほな明日』
「ああ…」
腑に落ちないような、何か言いたげな顔の蔵…焦らなくても、誕生日は明日なのに。
家の中に入った私は、まっすぐに自分の部屋へと向かう。
すると、部屋に入った瞬間に鳴った携帯。
出てみると、たった今別れた蔵だった。
《なぁ、何か忘れてへん?》
『え?何かって?』
《いや…俺に何か言う事とか渡すもんとか…》
そこまで聞いて、私も察した。
机の上に置いた蔵へのプレゼントに目をやりながら答える。
『ああ…でも誕生日は明日やろ?』
《…は?》
《何言うてるん?》と言う蔵に、え?と聞き返す私。
《俺の誕生日、15ちゃうで?》
『14やろ?わかってるで?』
《…名前、今日が何日か言うてみ?》
最近、特にこの一週間は毎日カレンダーを確認していた。
わざわざ確認するまでもないが、部屋の壁に掛かったカレンダーの日付を見てみる。
『13日』
《ほな、携帯の日付見てみ?》
蔵の言うとおりに携帯を一旦、耳から離す。
だんだんと嫌な気がしてきた。
携帯に表示されている14という数字に、慌てて壁のカレンダーを確認した。
『こ、これは…』
《名前?》
『アカン…く、蔵!ちょぉ待って!!』
蔵の返事も待たず、机の上のプレゼントを引ったくるように手に取り、バタバタと足音を響かせて玄関まで走った。
まだ遠くまで行ってないはずの蔵を追いかけようと、玄関の扉を勢い良く開いた。
『きゃあああっ!?』
「っ!?」
扉を開くと、目の前に学ランを着た胸元。
誰も居ないと思っていたから、とんでもない悲鳴を上げてしまった。
『び、びっくりしたぁ…』
「そら俺の台詞やっちゅーの…」
視線を上げると、先程別れたばかりの蔵の顔…
困ったような顔の蔵は、眉尻を若干下げて言う。
「誕生日の"た"の字も言わへんで帰るもんやから…流石に泣くかと思ったわ」
『じ、実は…部屋のカレンダーが去年ので…せやから誕生日、明日やとばかり…』
部屋で使っているカレンダーは、たまたま家にあったものが好みのデザインだったから使っていた物…未使用だったから、いつのかなんて気にしていなかった。
蔵は「そういう事かいな…」と、呆れたように笑った。
『ごめんね、蔵…』
「ほんまやで…」
溜め息混じりにそう言う蔵に、恐る恐るプレゼントを差し出す私。
『これ…』
「…」
蔵は何か考えるような間の後、プレゼントを軽く押し返した。
怒らせたんだと思い、いつの間にか見れなくなっていた蔵の顔をチラッと見上げた。
そこには、思っていたような表情ではなく、まるで"しゃーないな…"とでも言いたそうな顔の蔵…
「明日でええよ」
『え?』
プレゼントを押し返した手で私の頬に触れると、蔵はやっと微笑んでくれた。
「今日一日待たせた分、明日楽しませてくれるんやろ?」
mistake
「さっきの女の子の件もあるしなぁ…」
『…』
「ハードル高なるなぁ」
『う…』
「いや、名前から祝われるならどんな形でも嬉しいで?」
『ううっ…』
「明日が楽しみやな〜」
『ほ、ほんまにごめんね、蔵…』
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待たせた挙げ句この出来…orz
匿名希望さんからのリクエストで、夢主が誕生日を勘違い、原作っぽい白石でした。
原作白石…ってどんなでしたっけ←
と、とりあえずこのサイトに生息している変態ではなく、正統派っぽくしたつもりです、はい…
お持ち帰りはリクエストをくださった方のみ。
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