short | ナノ








『うーん…どっちにしよかなぁ…』



部活がオフの今日、学校帰りにフラフラと買い物。
何を買うつもりでもなかったが、何となく立ち寄った雑貨屋さんで、自分好みの髪飾りを見つけた。
ふと、普段使いしている髪飾りが壊れてしまったのを思い出し、立ち止まって商品を手に取った。



『どっちもええ色やしなぁ…』



同じ髪飾りの色違い。
気に入った二つを両手に、何度も見比べてみる。



『どないしようかなぁ…ん?』



髪飾りを一旦、元の位置に置いて顔を上げると、ショーウィンドウ越しに見慣れた姿。

急いでお店から出て、通り過ぎていった背中に呼び掛ける。



『ざいぜーん!』

「…」



呼び掛けに立ち止まる姿に、歩いて近付こうとすると、また歩き出したその背中…



『ちょっ、なんで無視するん!』

「人違いです。俺、ちょっと急ぐんですんません」

『目も合わせないで人違いや言うて逃げる冷たい男はあんた位やで』



そう言いながら、逃げようとする財前のリュックを掴んだ。
リュックを掴まれ、仕方なしに立ち止まってこちらを振り向く財前の顔は、いつものように面倒臭そうなそれだった。



「ハァ…せやから人違いや言うてるやんか」

『同じクラスでミクスドも組める相手に、なんて酷い言い種や…』

「で、何か用か?」

『…あ、そうやった。ちょっと、こっち来て!』



嫌そうな財前の腕を引っ張り、再び雑貨屋へと入る。
男が入るような雰囲気の店ではないせいか、財前の脚が戸惑うように一瞬止まったのがわかったが、お構い無しに髪飾りコーナーの前へと連れて行く。



『あんなぁ?ちょっとこれ見て欲しいんやけど…』

「何やねん…今、金有らへんで?」

『買わせようとしてるんちゃうわ。ええからこれ見て!』



引いたような態度の財前の目の前に、先程から悩んでいた色違いの髪飾り二つを突き出した。



『これ、どっちがええと思う?』

「そんなんどっちでもえ

『どっちでもええは無しやで』

「…」



財前は溜め息を一つ吐くと、私の手から一つ髪飾りを取った。



「自分の好きな色選べばええやん」

『好きな色はこっちで、デザイン的にとか自分に似合いそうやと思う色はそっちやねん…』



手に取った髪飾りを私の耳元辺りに、添えるようにあてがって、角度を変えて見てみる財前。



『自分の好きな色と、自分に似合う色ってちゃうやん?』

「まぁな…俺はこっちがええと思うけど?」

『ほんま?財前、そこそこセンスええから言うとおりにするわ』

「お前は素直に感謝の言葉を言われへんのんか」



呆れ顔の財前に『待っとってね』と言い、私は財前が選んだ髪飾りを持って、レジへ向かった。



□□□□□□



『ほんま、財前が通りかかってくれてよかったわ』

「それ位、自分で選ぼうや」

『そしたら軽く1、2時間は悩んどったで』

「そない悩む位なら両方買うたらよかったやん」



何だかんだ言うて、会計が終わるまで待っててくれた財前と店を出て、自然と並んで歩く。



『色違い買うのって、なんか買い物下手な気がして…同じの二つ買うよりやったら、違うデザインの買うわ』

「そらそうやな」



部活のメンバーでよく歩く道で、部活帰りに時々立ち寄るゲームセンターの前を通りかかった。



『…あ、』

「何や?」

『財前…一緒にプリ撮らん?』

「…」



暫しの沈黙が流れ、財前と真っ直ぐ見つめ合う。



「いや、俺…プリンよりぜんざいの方がええから…」

『ええやん、少しくらい。ただの写真やで?』

「ツッコめや。ちゅーか、なんでお前と撮らなアカンねん」

『だって、財前と取った事無いやん』

「この前、テニス部で撮ったやんか」

『あれは部活。これはプライベートや』



「何がプライベートや…」と溜め息を吐く財前の背中に周り、リュックを押してゲームセンターへと入る。



『女子はな、時々無性にプリ撮りたくなるもんなんよ』

「美肌、でか目効果で美化された自分を見せびらかしたいだけやろ」

『簡単に言えばそうなんやけど…写真の中だけとは言え、理想に近い可愛い姿になれて、満足できるんやからええやん』

「実物との差は詐欺やで、詐欺」

『詐欺とか、女の子の夢を壊さないでくださーい』



そんな会話をしている内に、プリクラのコーナーに着いた。
新しいプリ機を見つけ、財前の腕を引っ張る。



『これにしよー』

「いや、何でやねん」

『このシリーズが一番ええ感じに撮れるんやで』

「ちゃうくて…誰も撮るなんて言うてない」



中へと入り、財前が言い終わらないうちにお金を入れる。
『割り勘』と言うと、渋々財布を取り出す財前。

お金を入れ終わると、聞き覚えのあるようないつもの声が、撮影手順の説明を始める。



『でか目効果弱くしとこか。つぶらな瞳の財前とか見たないし』

「ほんまやで。自分でも気持ち悪いわ」



適当に設定をして、いよいよ撮影に入る。
ふと画面を見ると、やたらと端に寄る財前…



『何やってるん、はよ』

「おい…っと、」



財前の腕を引き、画面に入るように肩を寄せる。
撮影の掛け声に、カメラのレンズに視線をやる。



『ちょ、財前…もっと寄ってや』

「お前の身長に合わせとったら腰痛なるわ」

『なっ…う、うるさいわ』



そんな事を言いながら、少し屈んで身長を合わせてくれる財前。
普段は有り得ない顔の近さに、今更緊張し始める。



『も、文句言う割に、ちゃんと撮ってるやん』

「金入れてもうたし、ちゃんと撮らな無駄金になるしな」

『そーですか』



いつもの憎まれ口を吐き合いながら、狭い空間で二人きり、肩と肩が触れ合った。



□□□□□□



「ん?名前…」

『何?蔵さん』



財前との買い物から一週間後の放課後。
部活も終わり、いつものようにみんなでたこ焼き屋に寄った。

椅子に座ってたこ焼きを食べていると、隣に座った蔵さんが私の頭を見て言った。



「その髪飾り、かわええな」

『ほんま?似合う?』

「似合う似合う」



そう言いながら私の頭を撫でる蔵さんに、褒められた私は先週の事を思い出した。



『よかったー、財前に感謝やね』

「そうかそうか、って…財前?」

『うん。先週、この髪飾り色違いで迷ってて、偶然通りかかった財前に選んでもろたんよ』



頭を撫でる手がぴたりと止まり、表情も微笑んだまま固まったように見えた。



「それが…これ?」

『こっちは買わへんかった方』

「…どういう意味や?」



蔵さんの止まった手が静かに離れていくが、私は構わずたこ焼きを食べながら続けた。



『後になって、やっぱそっちも欲しかったなぁて思ってて…』

「ほう」

『そしたら財前が買うてきてくれた』

「はぁ…はい?」



ズレたテンポで首を傾げる蔵さんに、『何?』と訊ねる。



「買うてきてくれたって…光がか?あいつがそない気前のええ事するんか?」

『うちも渡された時、何の企みがあるんかと思ったんやけど、毎日毎日うちの"あー、やっぱあっちも買うとくべきやったわ〜"っていうのが喧しかったみたい』



『これやるから黙れって』と、渡された時の事を説明すると、蔵さんは何やら複雑そうな顔で「うーん…」と唸りながら、たこ焼きを一つ食べる。



『あ!蔵さん蔵さんっ!』

「ええ話な気がせえへんけど、一応聞いとく」

『これ見て!』

「ほんま人の話聞いてへんな、お前は………、は?」



私は携帯を取り出し、この前財前と撮ったプリクラの画像を表示させて蔵さんに向ける。
少しの間、無表情のまま固まった蔵さんは、次の瞬間目を見開いて私の手から携帯を取り上げた。



「なんや…これ」

『え、蔵さんプリクラ知らんの?ゲーセンとかにある、その場で撮った写真に落書きとかスタンプで装飾をして…』

「それ位知っとるわ!そういう意味ちゃうくて…」



若干、苛ついたような声色の蔵さんは、私から奪った携帯の画面と私と、離れた所に座った財前を、眉間に皺を寄せて何度も見比べる。



「なんで二人きりやねん!」

『凄いやろ?カメラ目線やで、あの財前が!レアやで!』

「さっきから二人で何言い争って…ん?白石、何見てるんや?」



たこ焼きを片手に、私達の方へ椅子を寄せてきた謙也くんは、蔵さんの手元の私の携帯の画面を見る。
それに紛れて、小春ちゃんとユウくんも覗き見る。



「…あ?俺、目悪なったんかな…名前と一緒に写ってるん、光に見えるんやけど」

「あら?アタイも眼鏡の度、合わんようになったかしら…」

「なんや白石、いつから光のモノマネできるようになったんや?そっくりやんか」

「お前ら、ほんまにこれが俺やと思うんか?」



三人は暫し黙ると、もう一度画面を確認した。



「いっやあああん!?超レアな光きゅんのプリクラやないの!名前ちゃん、アタイに頂戴!!」

「こ、小春!光のモノマネならいくらでもしたるから、俺とチュープリを…

「それはまた話が違うっちゅー話やで、ユウジ…」

「そうねぇ…海堂きゅんと神尾きゅんのお手製写真集に、今ならユウくんも付けてあげるわ!」

『寧ろ、プリの画像全部送ってあげるから、写真集もユウくんも絶対に寄越さんで』


急に騒ぎ出した小春ちゃん達に、なんやなんやと集まりだした他のメンバー。
財前だけが怠そうにその場から立たず、溜息を吐きながらうなだれた。



「いやー…こぎゃん風に見ると、なかなかお似合いのカップルたい」

「光はん、羨ましい…」

「師範、心の声が漏れとるで」

「お前らん中に、俺の味方は居らんのか?」



「は?味方って何やねん」と疑問符を浮かべる謙也くんに、蔵さんは深く溜息を一つ吐いた。



「何って…そこに写ってるん、俺の彼女なんやけど」





入り込めない二人の間






「なんや、そんな事かいな…」

「意外と心狭いねんな、お前」

「クラリンのヤキモチ屋さん☆」

「ほなお前らは、自分の彼女が他の男とプリクラの個室で二人っきりでくっついとってもええんやな?」

『別にやましい事した訳とちゃうのに…』

「ん?光はどこや?」

「財前なら3分程前に帰ったばい」

「逃げはったな、財前はん」



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意味不。
無駄に長い。
ちなみに、おおきに番外編です。
夢主2年、白石3年。


アンケートのコメからネタ拝借。
こんな仕上がりですみません…orz
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