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軽くなった紙袋を手から下げ、自分の教室に戻ってきた私は、真っ直ぐ自分の席へと向かった。
ちょうど、今来たらしい私の前の席の赤司くんが、私に気が付くなり「おはよう、名前」と挨拶し、私もそれに『おはようございます』と返す。



「名前、その荷物はどうした。やけに大きい紙袋だが…」

『今日はバレンタインですからね…バスケ部の皆さんに作ってきたんです』

「そうか…今日はバレンタインか」

『今日は部活もオフなので、朝のうちに配って来ちゃいました』



机の脇に紙袋を引っ掛け、自分の席へと着きながら説明すると、赤司くんは「ご苦労様」と私の目の前の席に座った。



『赤司くんのお陰でバスケ部のマネージャーになってしまいましたからね…マネージャーとして、部員の皆さんに配らない訳にはいきませんよ…』

「…マネージャーにされて不服だと言いたげな物言いだね」



私の言葉に、こちらに体を向ける赤司くん。
左右で違う色の瞳が、私を見つめる。



『そんな事ありませんよ。マネージャーになるのを選んだのは私ですから』

「確かにあの時の俺に逆らってくるのは名前だけだったからね…」



赤司くんはウインターカップの決勝戦を境に、以前とは変わった。
と言うより、元に戻ったと言う方が適切だと思う。

穏やかだが、ワンマンと言うか傲慢と言うか…自分に楯突く者は許さないというような、そんな当時の赤司くんに逆らったのが私らしい。
自分ではそうは思っていなかったが、先輩や監督ですら、赤司くんの発言に対する否定すら許されなかった事を思えば、私は無意識だったとしても、先輩達が必死に私をマネージャーに勧誘してきたのもわかる。



「俺は名前のそういう所が気に入っている」

『…煽てたって何も出てきませんよ?』

「あるだろう?」

『え?』



そんなこんなで赤司くんに気に入られ、先輩達の必死の勧誘や、いろんな事があり、マネージャーとして入部するに至った。
そしていつの間にか、私は部活以外でも赤司くん専用のマネージャーの様な関係になっていた。

そんな赤司くんは、何の迷いもなくそう断言すると、私の机の横に指を向けた。



「それ…俺はまだ貰っていない」

『…そういう根拠も無く自信満々な所は、前と変わらないんですね…はい、どうぞ』


机の脇に掛けた紙袋から、赤司くんへのバレンタインの包みを出し、両手で手渡す。
赤司くんは満足そうにそれを受け取ると、私の言葉に対して、またも自信ありげにこう返した。



「根拠はあるよ」

『え?何ですか?』



受け取った包みを自分の机に置き、さも当たり前の事の様に、簡単に答える赤司くん。



「君は赤司の名字になる身だからね」

『…え?』

「プロポーズしただろう?」



そう…赤司くん専用のマネージャー、と思っていたのは周りの人達だけで、赤司くん本人はそうではなかったらしい。
ある日、ある事がきっかけとなり、突然「結婚を前提に付き合いたい」と言われた。
何が何だかわからず、返事もしないうちに、私の家族に挨拶までしに来たりと…そんな事があった。

庶民の私と名家の赤司くんとでは釣り合わないからと、断ってはいるが、赤司くんはどうやってもこの件については首を縦には振ってくれず、今では周りにも付き合っているという事になっている。



『あ…え?いや…あれは、もう一人の赤司くんが言った言葉で、今はもう無効なんじゃ…』

「僕も、今の俺も君を娶りたいと思うのは変わらないよ」

『はぁ…え?…ええっ!?』


突然、もう一人の赤司くんが出てきた様な口振りに、頭が混乱してしまう。
一体、今はどっちの赤司くんなのだろう…しかし、この言葉からすると、どちらの赤司くんにしろ、結果は変わらないようだ。
すると、赤司くんは相変わらず、最初から表情を崩す事なく、やはり"当たり前"といった風に続けた。



「それに…」



混乱した私の変な声に、教室の人達の視線が集まっているのを感じたが、赤司くんの言葉を止めるなんて出来なかった。



「君はもう、俺の事を好きになってしまっているからね」





ValentineDay
-赤司征十郎の場合-






『で、ですから…私は赤司くんのお家には相応しくないって、何度言えば…』

「必要な教養を備える力を名前は持っているし、君が望む物なら何でも揃えよう。そして何より、君に寂しい思いをさせない。」

『あ、あの…周りからの視線が痛いのでやめ

「おかしいな…あとは何が足りない?」

『赤司くんの愛が重すぎて辛いです…』



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痛重い赤司様。

もし長編がシリーズやるとしたら、こんな設定。
わかりにくくてすみません。

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