桜が咲き誇る春は、なんとなく眠くなるし、憂鬱だ。嫌いまでとは言わないが、好きでもない。俺はそんな微妙な思いを抱いている桜が舞い散るのを何となく眺めながら煙草を手に取ったとき、前方から綺麗な桜色の髪をした一人の少女が歩いてくるのに気がついた。年は恐らく15か16ぐらい。綺麗な髪を自由に遊ばせる彼女は、桜をうれしそうに眺めながら微笑んでいる。見惚れるぐらい、横顔が綺麗で、大人びて見えた。彼女は俺の視線に気づいたのか俺の方を見ると、小さく微笑んで何かを口にした。距離が近くないために聞き取れなかったが、そんなことはどうでもよかった。今この瞬間、俺は彼女に恋したんだ。
ものぐさ教師に春が来た木ノ葉学園の入学式から早1週間。どのクラスに誰が配属されるのかが決まり、今日は生徒と担任の初の顔合わせだ。すでに教室に集まった生徒は誰が担任になったのかドキドキしながら担任の登場を待っていた。木の葉学園は一度クラスが決まると卒業までそのクラスで過ごすことが決まっている。そのため、教師も変わることがないことになる。だから担任の発表というのはクラス発表ぐらい重要なのだ。
突然開かれる教室の扉。一瞬で静まり返る教室に気まずそうに入ってきたのは、はたけカカシであった。
「ん?何で静まり返っちゃうのかな〜…先生少し寂しいんだけど」
へらへらと笑いながらそう口にするカカシに真っ先に声をかけたのは、うずまきナルトという、教師の間で有名な学園一騒がしい少年だった。「カカシ先生よろしくだってばよ!」と特徴的な喋り方ではあるが、カカシはうれしそうに笑う。それを見ていた周りの生徒も続々と「よろしくせんせ」と声をかけていく。カカシは優しい生徒に瞳を潤ませながらよろしくネ、と言葉にした。
それから少しして始まった出席確認を兼ねた自己紹介。順番に名前と趣味と一言を言っていく。個性的な自己紹介に雰囲気が和んできた頃、カカシは一人の少女を目にして驚いていた。あのときの、桜色の髪をした少女がニコリと微笑んで座っていたのだ。まさか、このクラスだったなんて。カカシは驚きもしたが同時に、彼女と再会できた運命に感謝もしていた。
「次…春野サクラ」
「はい」
まるで餓鬼のように、好きな女の子の名前を呼ぶだけで胸はドキドキとなる。カカシはゆっくり目を閉じて彼女の自己紹介に聞き入った。