終電間際の長いキス

▽大学生


東京と大阪という距離間は、付き合っている2人にはあまりにも遠すぎた。心の距離と反比例するかのように、お互いの心の距離が近づけば近づくほど東京と大阪という2つの都市がどんどん離れていくような気がした。
月に1度会えるかどうか、会えたとしても一緒に居られる時間は限られている。1日では語りつくせないほど話したい事があるし、時間になればまた離れ離れになってしまう。だからこそその短い時間を大切にしたいというのに、いざ2人になると上手く話せなくなるのがこの2人、一氏ユウジと竜崎桜乃だ。電話では盛り上がれるのに、実際に会うと付き合いたてのカップル以上に会話が無くなる。

「その、なんや…元気やったか?」
「あ、はい。あの、一氏さんも元気そうで良かったです」
「ん、あ、ああ」

何か喋ろうと必死に話題を探して言葉にしてみるが会話は続かず、しかも言葉は尻すぼみになってよく聞こえなくなる。一緒にいられてお互いに幸せを感じているのに、その気持ちが相手には伝わらないもどかしさ。それが結局最後まで続き、ついに別れのときになってしまった。しかしどうしても長く一緒にいたくて終電ぎりぎりまで駅のホームにいた。駅のホームでも相変わらず無言は続くが、強く握られた手から感じるお互いの温もりに心が温かくなり、それだけで何だか幸せな気分になった。

「じゃあ…さようなら。一氏さん」

さびしそうに笑って電車に乗り込もうとする桜乃。その瞬間一氏の手からは温もりが消えた。今の今まで確かに感じていた温もりが今はない。一瞬で奪われた熱。一氏は無意識に桜乃の腕をつかみ引き寄せた。揺れる長いみつあみが一氏の視界に入った。そして気づけば桜乃は腕の中に居た。温もりを求めるかのように桜乃の手に一氏は手をからめた。強く握り締めればそこからまた熱が広がっていくような感覚がした。
それだけでは物足りずに、一氏は冷え切った桜乃の唇に自分の唇を押し当てた。乾燥してかさかさした自分の唇とは違うツヤツヤで潤いのある唇は温かかった。何度も唇を重ねて、キスの雨をふらせる。夜だから人気は少ない、だが全くいないというわけでもない。時折聞こえてくる冷やかしの声や口笛、だが一氏はやめようとしなかった。桜乃も拒むことはせずに受け入れる。苦しくても何度も口付け、名前を呼ぶ。それに答えるように桜乃も何度も名前を呼んだ。
やっと唇を離した頃にはもう最終の電車はいっていた。静まり返る駅のホーム。何だかおかしくなってきて2人が笑い出す。

深い闇に2つのシルエット。そのシルエットは愛を確かめ合うかのように寄り添いあった。


終電間際の長いキス
(今日は泊まってけや、アホ)
(もう、一氏さん口悪いですよ)

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企画:WONDERLAND様提出
素敵な企画に参加させていただきありがとうございました!


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