楽園は無いと知っていた

▽サスケ→サクラ→誰か/サスケ視点


そこに、俺たちが幸福になれる道が無いことなんて知っていた。必ずどちらも傷つく結果になるなんて分かっていた。それを分かっていて俺たちは互いを愛し合って、傷つけ合って、そして抱きしめ合った。時には泣き止まないサクラを一晩中慰めることもあった。

「サスケ、くっ、ん」

誰を思って泣いているのか。頬を涙でぐっしょり濡らしたサクラは嗚咽を漏らしながら、それでも俺の名前を呼ぶ。綺麗な瞳に映っているのは俺だけど、サクラが今思っている相手は俺でない。そんなことは前から分かっていた。サクラは俺じゃない誰かをずっと愛し続けていて、けどその相手には他に愛している女が居て。だからサクラは思いを隠し続けていた。けど積もり続けた思いをずっと隠していることなんてできるはずがなくて、あいつは誰かに支えて貰わねえと生きていくのも辛いと感じるほどになっていた。
俺はチャンスだと思った。卑怯だと思われてもいい、最低だと言われてもいい。サクラを手に入れるのに絶好のチャンスだと思った。「あいつの代わりにすればいい」そう言った。俺をあいつだと思って、好きなように利用すればいい。サクラは最初は首を振っていたが、だんだんと首を振る力は弱くなって、ついには泣いて俺に縋ってきた。もうそのときサクラの精神は限界だった。

***

「す、きって、言って、」
「好きだ、サクラ」
「も、っと。もっと言って」
「好きだ、ずっと好きだ」

俺の声でも、俺の言葉でも、多分。サクラは俺の声だと、俺の言葉だと思わないだろう。必ずその声で想像するのは、サクラが長年思ってきた男だ。今サクラを抱いているのは俺じゃない。サクラが思っている相手。サクラは思い人に抱かれる幸せな自分を頭に描いている。俺では幸せに出来ない。俺では守れない。でもサクラには幸せになって欲しいから、出来る限りのことをしてやりたい。
だがもう何もかもが遅すぎる。俺たちは自分たちの手で幸福を投げ捨ててしまったから。もう俺たちが幸せに過ごせる場所など無い。死んだ方がマシだと思える世界しか、残っていなかった。


楽園は無いと知っていた
title by Aコース

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『禁断の愛』ってことで、最初は不倫ネタだったんですけどね。


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