ちょこれーとけーき

▽桜乃視点


大好きなあの人に食べて欲しくて、大好きなあの人に笑顔になって欲しくて、ケーキを作ろうと思い立った。作り始めてからは、どんな反応をしてくれるだろうかとか、あの人のことばかりを考えていた。
甘くて甘くてとろけるちょこれーと。それを、焼きたてのふわふわの生地にぬっていく。するとふわっとチョコの甘い香りが私の鼻をくすぐった。思わず笑顔になる。あの人も笑顔になってくれるかな?そんな具合に私は始終あの人のことばかりを考えてケーキ作りをしていた。

翌日、作ったケーキを落とさないように大事に抱えて立海大附属中学校に急いだ。私はドジだからこけてケーキを落とすかもしれないから、走りはしないけれど、それでもなるべく急いだ。早くあの人にケーキを食べてもらいたくて。
いつもより少し早めに着いた立海テニス部のコート。あの人を探してあたりを見渡してみるけれど、いない。時間は2時ちょうど。この時間はいつもは練習をしているはずの時間なのに。どうしてだろう、って一人首を傾げたとき突然後ろから抱きしめられて思わず悲鳴をあげてしまった。

「いやっ…た、たすけ、」
「ちょっ!俺俺!桜乃こっち見てみろぃ!」
「ふぇ?」

焦った様子の男性の声は、紛れもなく私が探していた丸井さんで、ホッと安心した私を見て丸井さんも安心したように笑った。後ろから抱きしめてきたのが丸井さんですごく安心したんだけど、でもどこか違和感がある。どこだろうか、と丸井さんの全身を眺めて、あ、と気づく。

「制服ですね。今日の練習はもう終わったんですか?」
「んー、そんな感じだな。つか桜乃はどうしてここにいんの?」

首を傾げて私に聞いてくる丸井さんは何だか可愛くて思わずクスリと笑ってしまう。私は作ってきたケーキを渡そうとしたけれど、手にケーキを持っていないことにそのときに気づく。あれ、どこにいったんだろう?!さっきまで持ってた、はず。焦る私を見て更に丸井さんは首を傾げた。あぁ早く見つけないと。そう思ったとき、丸井さんは突然しゃがみこんで何かを拾い上げた。それは、私が手に持っていたはずのチョコレートケーキが入った箱。丸井さんは「探してんのこれ?」といって私に手渡してきた。私はケーキがぐちゃぐちゃになってるかもしれないという不安で涙が出そうになった。

「あの、ごめんなさい…ケーキ作ってきたんですけど、落としてしまったので中がぐちゃぐちゃかもしれないです」
「それ桜乃の手作りだろぃ?だったら見た目とか気になんねえ」

そう言って部室へと歩きだした丸井さんを私は追いかけた。
部室に入ると丸井さんは自分のロッカーからフォークを出してきた。いつでもスイーツを食べられるように何本もストックしていると以前丸井さんが言っているのを私は思い出した。丸井さんは箱からケーキをゆっくりと取り出した。落としたせいでやっぱりーキは形が崩れていて、とてもおいしそうには見えない。けれど丸井さんは出してきたフォークでそのケーキを食べ始めた。何も言わずに食べ進める丸井さんが、ちょうど半分食べ終わったところで突然うめき声をあげた。

「ま、丸井さん!大丈夫ですか?!」
「すっげえうまい!!やっぱ桜乃のケーキは絶品だな!」

丸井さんはそう言ったあと満面の笑みを見せてくれて、私は嬉しくなった。大好きな丸井さんに食べて欲しくて、大好きな丸井さんに笑顔になって欲しくて作ったケーキ。欲しかった笑顔を見ることが出来た。私は言い表せないぐらい嬉しくて、幸せで、だからとにかく私も精一杯の笑顔で丸井さんを見つめた。

「これからも一生俺の為だけに作れよぃ?」

丸井さんは私の唇に甘いキスをした後、プロポーズのような言葉を口にした。驚いて言葉が出ない私の唇を丸井さんは笑ってもう一度奪っていった。


ちょこれーとけーき


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