言葉で言うのは簡単だから

▽ブン太視点


そんな急いで大人にならないで、きれいにならないで。そう願わなくちゃいけないのは、自分に自信がないから。今よりもっと、きれいになったら、周りはほっとかなくなる。もっとモテるようになって、君と釣り合ういい男も現れるかもしれない。俺は彼氏だけど、かっこよくもないし、第一距離が遠すぎる。月に2回会えるかどうかぐらいだし。そんなんじゃ彼女の心は持ってかれる。分かってるけど、俺にはどうすることもできない。

「桜乃…、今桜乃の心がどこにあるか分かんねーよぃ」
「それが、会いたくない理由ですか?」

独り言だったはずの俺の言葉は、予想外の人物に聞かれていた。桜乃が、聞いていた。ひどく傷ついた表情で、俺を見つめてきた。彼女の思いを疑うようなことを言ったのは俺だ。俺が悪い。けれど、不安なものは不安だから仕方ない。しっかりと彼女の言葉で、思いを伝えて欲しい。

「桜乃」
「何ですか?」
「俺は、正直言って不安。桜乃が俺のことどう思ってんのか分かんないから」

正直に聞くしか方法はない。下手に誤魔化しても、ぎくしゃくした関係になって桜乃が会いに来にくくなる。そうなったら、終わりだ。別れることになるかもしれない。それは嫌だ。だから、聞くしかない。桜乃、どう思ってんだよぃ。

「言葉で言うのは、簡単です。だから、私は行動で伝えます」
「こう、どう?」
「そこを動かないで下さい!」
「は、っちょ、え?!」

一直線に俺に向かって走ってくる桜乃。思わず目をつぶった俺は、何が起こったかわからなかった。ただ、唇に暖かい感触があったことぐらいしか。目を開ければ、顔を真っ赤に染めて俺を見つめる彼女の姿。

「これが、私の思い、です。伝わりましたか…?」
「…つ、伝わった」

敵わない。彼女は可愛くて、大胆で、最高の俺の彼女。一生敵わないかもしれない。俺は思わず笑ってしまった。


言葉で言うのは簡単だから


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