君の唇を奪う、

▽未来設定


「うっ…ひっく…リョ、ーマ、くっ」
「…ひどい顔」
「ひ、ひどい…!」

結婚式で泣きじゃくる彼女を見てリョーマは一言そう言った。桜乃は、さらにその言葉で泣きそうになるが、必死で耐える。が、涙はこぼれてくる。嗚咽も我慢できずに泣き声が式場に響く。リョーマは、ふっと優しく笑って、涙を指でぬぐってあげた。けれど、涙はとめどなく流れてくる。

「ほんと、泣き虫なところは変わんないよね」
「だ、って…嬉しいんだ、もん」

その言葉にリョーマは嬉しそうに微笑み、頬を伝う涙をぺろりと舌で舐めた。突然のことに驚いた桜乃は涙が引っ込む。それを見たリョーマはにっと悪戯が成功した子供のような笑みを浮かべて言った。「ほら、涙引っ込んだ。いつもこれやると泣き止むんだよね桜乃。」と。桜乃は大勢の前でやられたことが恥ずかしくて、顔を手で覆い隠そうとする。しかしリョーマは隠させないように桜乃の両手を握る。そして、無防備になった唇にそっと己の唇を重ねた。その瞬間周りから聞こえる、祝福の声。

「そういうところも、結構気に入ってんの。…桜乃、愛してる」
「…うん、私も愛してるよ」

重なる唇から伝わる温もりに涙は引っ込んだようで、花嫁は綺麗に微笑んだ。祝福してくれる周りの人に、ずっと支えてくれた家族に。たくさんの友人に、仲間に、すべての人に感謝をこめて。

『ありがとう』の思いを伝えようと桜乃は心に思った。


君の唇を奪う、
(そして、彼女の心も奪った)

title by 31D


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