▽青峰視点

初めて女を好きになった。さつき以外で初めて気を許せる女だった。
初めのうちは、テツのバスケ部のカントク、それくらいの認識だった。時間が経つにつれ何となく気になるようにはなっていた、だがまだ何となく気になる程度な存在で。大きなキッカケは多分、試合以外で見せたやわらかい表情を見たことだ。好戦的な瞳しか見たことなかったオレにはすげえ衝撃で。女の顔をしているリコを見てから一人の女として見るようになった。
自分の気持ちに気づいたあとは、自分の気持ちに正直になって毎日のようにリコに会いに行った。最初こそは歓迎なんてもんはしてくれなかったがそれなりに時が経つと、笑って出迎えてくれるようになった。それだけでオレは十分心が弾んだ。ああ、少しずつでも仲良くなっている。そう感じて。だが同時にテツもリコのことが好きなことに気づいた。滅多に笑うことのないテツがリコの前だと分かりやすいほどに表情が緩んでいる。瞳には優しい色が滲んでいて、何だか複雑な気分になった。
今日も誠凛の体育館に来てみればリコと仲良さそうに話すテツの姿。

「リコー会いに来てやったぜ」
「あんたが好きで会いに来てるんでしょ、ってどこ触ってんのよ!」
「んあーおっぱいが成長してるかのかくに…いって!」

二人が仲良さそうに話しているのが気に食わなくて思わず後ろから抱きついて胸を触ってみれば容赦ないテツからのチョップ。かなりいてえ。こいつこんな力をどこに隠していやがった。表情には出さないが心の中ではオレに対しての怒りが爆発してんだろうなと思うと笑えてくる。テツの表情を崩してみたくてもっと際どい部分に触れてみる。
…うまそうなリコの太ももに。

「…カントク!!」
「え、きゃっ!」

一瞬テツの表情が変わった。見たことないほどの悔しそうな表情。テツの表情に気を取られて、気づけばリコはテツの腕の中。やられた、と思った。
だがそれよりももっと衝撃的だったのが、リコの表情。テツに抱き寄せられているリコは、頬を赤く染めて熱い視線をテツに送っていた。この表情の持つ意味をオレは知っている。これは、恋する女の目だ。帝光にいた頃何度か黄瀬に告白している女を見たことがある。そのとき相手の女がこんな熱い瞳をしていた気がする。

「あ、あの黒子君…私は大丈夫だから」
「駄目です。カントクはボクたちの大切な人ですから。最後まで守らせてください」

恥ずかしがって抵抗するリコの体を更に自分の方へ抱き寄せてそう口にするテツ。オレたちを影で支えてきたテツとは思えない発言だと思った。
もうあの頃のテツじゃねえ。オレが変わったように、テツも変わった。テツが変わった要因にはリコが大きく関わっているんだろう。
リコとテツがお互いに想い合っていると気づいた瞬間、全てがどうでもよくなった。初めて味わう敗北感。バスケで負けたのとはまた違う感覚。胸の奥がずくりと痛む。じわじわと広がる息苦しさ。

(や、べえ…。いてえし、苦しい)

言葉も出てこねえ。今すぐにでもここから立ち去りたかった。だが情けねえことに足が動かねえ。笑える。こんなに自分は弱かったのかってな。

「今日の青峰君、少しやりすぎです。リコさんにひどいことしたんですから反省するべきです」

リコを俺から守るように背中に隠すテツがやけに憎らしく見えた。いや、それ以上にそんなテツを頬を染めて見つめるリコが憎らしかった。どうしてオレを見ない。どうしてテツに惚れた。
考えても答えなんてでるはずがねえ。オレは目の前に立つテツとリコを思い切り睨みつけたあと、背中を向けた。あれ以上あの場にいたらテツを殴っちまいそうだったからだ。

「くそが」

惚れた女が惚れた男がテツだったから余計に腹が立った。テツじゃなければ。ほかの男だったら強引にでも奪えた。だが相手はテツだ。いいやつだって分かってる、リコが惚れるのも分かる。だからこそ強引になんて奪えない。リコが幸せそうにテツの横に立っているのを見て、その笑顔をオレが奪うことなんてできるはずがねえ。

「やってらんねえ」

怒りに任せて近くにあった壁を思い切り蹴ってやった。不思議と足に痛みは感じねえ、ただ胸の奥がチクチクと痛んで、何故か目頭が熱くなった。

初めて女を好きになった。さつき以外で初めて気を許せる女だった。だがオレとそいつが結ばれることはなかった。胸がいてえ。今頃出会わなければよかったとさえ思う。
これが人を好きになるってことなのか、って。これが失恋の痛みなのかって。

初めて人を好きになって気づかされた。


それが好きになるっていうこと
(好きになったことを今更後悔しても遅いことぐらい分かってんだよ)
(それでも気持ちは止まらねえ)

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2013年《リコ生誕企画》
音羽さんへ


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